権力を振りかざすと、大抵はもっと上の権力にやられる
駆除協会の中でも向けられる視線を全て無視し、俺は1つのカウンターに辿り着く。
そこは、今までであれば全く縁のなかった場所……企業用受付だ。
カウンターにいる職員は俺を見ると、何とも嫌そうな目を向けてくる。
「ああ、加護無しさん。並ぶカウンターをお間違えでは?」
「いや、合っている。今日は開業の届け出をしにきた。書類をくれ」
手続きとしては、此処で書類を貰い、提出する。
それが審査、そして認可された後に駆除協会からトウキョウ域へと登録がされる事になっている。
この辺りは企業という形になる事で正式な国民としてうんたらかんたら、というやつらしいが良く分からない。
きっと分からせようとも思っていないだろう。
俺達が理解していればいいのは、企業という形にまとまる事で実入りが良くなる可能性があり、その分金を税として持っていかれるということだ。
だからこそ、此処で書類を貰わなければ始まらない、のだが。
「……どうした、書類をくれ」
「審査に通るとは思えませんが。紙の無駄では?」
「書類の提出は自由のはずだ」
「とはいえ、紙もタダではありませんし。私達には前審査として書類を渡すかどうかの裁量があります」
俺に渡す紙はない、と言っているのだろう。
だが、此処で渡してもらわねばならない。
「委託だが実績もあるだろう」
「そんなの知りませんよ。どの企業が誰に委託したかなんて、こっちでは認識してませんし」
「なら、これでどうだ」
さっき手に入れたばかりのローパーカードを見せると、職員はサッと俺の手からそれを取り上げて確認するとそのままカウンターの内側に置く。
「拾ったんですね、ありがとうございます。拾得者が名乗り出た場合は一定の礼金を頂ける場合があります」
「俺が倒したんだが?」
「それが万が一虚偽であると判明した場合は一定の処分が下されますが、それについては?」
お前がローパーなんか倒せるはずがないだろう、とその目が語っている。
どうしたものか。此処で激昂したところで警備を呼ばれ追い出されるだけ。
出直すしかないかもしれない。俺がそう考え始めた時、カウンターに2つの手がのせられる。
「ちょっと酷すぎるんじゃないでしょうか。先程からの貴方の態度、わざとオーマさんを怒らせようとしているように見えます」
「話が進まないみたいなので、ちょっと失礼しますね。さっさとこちらのタケナカさんの書類を受理してほしいんですよ。貴方で話にならないようなら、権限持ってる上の人お願いできます?」
「な、なんですか貴方達は……」
職員が突然割り込んできた2人にたじろぎ、ナナがここぞとばかりに胸を張る。
「私はナナです! オーマさんのパートナーみたいなものです!」
「ああ、申し遅れました。サイタマ国軍務省、モンスター対策局のミーシャ・グッドマンです。この度はうちの局長の了承も得た上で、タケナカさんの速やかな開業をサポートするべく来ています」
「ぐ、ぐんむ、しょう……!?」
その単語に近くにいた全員がザワつき、ミーシャは目が全く笑っていない笑顔でコツン、とカウンターを叩いてみせる。
「ええ、そうです。サイタマ国軍務省、モンスター対策局です。昨日、こちらの支部長とは話をしましたが……私について何も申し送りはありませんでしたか?」
「い、いえ。対策局の方がいらっしゃった事については……その……」
顔が真っ青になっていく職員に、ミーシャは再びコツン、と指でカウンターを叩く。
まるで死刑台の階段を1つずつ登っていくかのような音が鳴る度に職員は震え、周囲に居た者も少しずつ離れていくのが見える。
「まあ、いいです。それで、私は今言った通りタケナカさんの速やかな開業をサポートする為に此処に居ます。さっき、なんだかんだと言ってましたけど」
コツン、と音が響く。
「……貴方。私達モンスター対策局の決定を覆せるような権限を与えられてるんですか?」
「す、すぐに! 今すぐ書類を!」
「タケナカさんにもすぐに書いてもらいますから、さっさと処理してくださいね?」
「はい! 間違いなく!」
バタバタと、ちょっと可哀想になるくらいに脅えた職員から書類を受け取ると、俺はその場で書類に必要事項を確認していく。
社員数は俺含めて2人。
オーマ、タケナカと……ナナ。
「あ、推薦人の項目は私の名前入れときますね。ちょっと失礼します」
俺の手からペンを取るとミーシャは綺麗な文字でミーシャ・グッドマンと書き込んでいく。
所属に書かれた「モンスター対策局」の文字がなんとも頼もしい。
「あとは会社名ですね。なんてつけるんですか?」
「ん……そうだな」
これについては、ナナと話し合って決めている。
だから特に迷わずサラサラと書き込んでいき……それを覗き込んでいたミーシャがふむふむ、と頷く。
「タケナカ抗魔社、ですか。駆除に比べると強さで劣る気もしますけど……最近は何処の会社も駆除サービスって名乗るのが普通ですからね。なんか新しいかもしれません」
「ああ。では、これで頼む」
すっかり脅えた職員に渡した書類は……バタバタと動き始めた職員たちの手によって、然程の時間もかからず認可された。
そう、今日この日。タケナカ抗魔社が誕生したのだ。
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