駆除協会へ行こう
「俺と?」
「はい。タケナカさんというか、タケナカさんの開業する駆除業者……駆除業者ですよね?」
「その、つもりではあるが」
「なら問題ないです! 目をつけてた業者が全く使えませんでしたし、私もこっちでの優秀な駆除業者を見つける必要がありまして」
「そ、そうか」
正直、喜びよりも困惑が強い。
エイダ駆除サービスは俺にも仕事を出していた中堅の駆除業者だ。
ミーシャと一緒にいた奴が役に立たなかったにせよ、他にも似た規模の業者はいるはずだ。
「有難い話ではあるんだが、俺の立ち上げる業者の駆除士は俺1人だ。問題あるんじゃないか?」
「ありませんよ。規模が有能さではないのは、もう証明されました。そして、オーマさんはもう有能さを証明しています」
「そ、うか」
「ええ。それとも、この仕事を受けるのは嫌ですか?」
「いや、そんな事はない。有難く受けさせて貰いたい」
「決まりですね!」
笑うミーシャがポンと手を叩き、俺に腕を絡ませてくる。
「では行きましょうかタケナカさん! 駆除協会ですよね? さっさと開業して、契約しましょ!」
「あのー……やっぱり私の事忘れてません?」
ちょっと寂しそうに呟くナナに、ミーシャは「あ、そういえば」と呟く。
「タケナカさん、此方の方は?」
「ん? ああ、ナナだ。あー……とりあえず、一緒の家に住んでいる」
プロポーズの件はとりあえず省く。
勿論俺にとって恥ずべき事は何も無いが、ナナの立場というものもある。
なので、事実だけを伝えるが……ミーシャは「ふうん?」と探るような表情になる。
「お付き合いをしてるとか、そういう?」
「いや、していない」
将来的にはお付き合いしたいとも思うが、それはさておき。
「そう、ですか……」
ミーシャは俺から離れると、ナナに手を差し出してみせる。
「では、改めまして。サイタマ国軍務省、モンスター対策局のミーシャ・グッドマンです。よろしくお願いしますね、ナナさん」
「はい! よろしくお願いします、ミーシャさん!」
握手を交わすと、ミーシャはナナへと微笑みかける。
「ところでナナさんはタケナカさんの事、どのように評価されてます?」
「え。評価って……結構強いなあ、とは」
「それは同意します」
うんうん、と頷いていたミーシャは何かに納得できたのか、再び俺の腕を引き始める。
「ではご挨拶もすみましたし、行きましょう!」
「あ、ああ」
「え、なんだったんですか今の!?」
ワタワタと俺達を追いかけてきたナナが隣に並んで、今度は3人で道を歩き始める。
男1人に女2人。ナナは勿論だが、ミーシャも結構な美人ではある。
肩より少し上くらいまでの長さの、ふんわりと軽いパーマのかかったような金色の髪。
青い目はクリッとしていて、どことなく猫をも思わせる。
シャツにスラックスという、活動的ともラフとも微妙に言い難い格好は、彼女なりの哲学でもあるのだろうか。
ともかく、ナナとは全くタイプが違う事だけは確かだった。
「オーマさん? どうしたんですか?」
「ん、いや。なんでもない」
当然予想は出来ていた事だが、目立っている。
俺達に……いや、俺に向けられる視線を感じる。
加護無しの俺は有名だから、その視線が「なんでアイツが」的なものであることもすぐ分かる。
……まあ、そうなるよな。
今のところ絡んでくるような気配は感じないが、いつでも動けるようにしておいた方がいいだろう。
「……そういえば、なんだが」
しかし、2人が気付いていないのであれば俺1人が「そういう」雰囲気を出しているのにも問題がある。
誤魔化すべく、ミーシャに話題を投げてみる。
「さっきの話からすると、ミー……ああ、いや。グッドマンさんはこの辺りを中心に活動を始めたばかり……ってことでいいのか?」
「ミーシャでいいですよ、タケナカさん。で、その通りです」
「そうなのか。だが……君みたいなのがこの辺りで今まで活動してたなんて話は……」
聞いたことがない、と。
そう言おうとした俺の口をミーシャの人差し指が塞ぐ。
「今は、そこまで……です。あまり多くに聞かせる話でもないので」
「そうか」
……厄介ごとの匂いがするな。
だが、同時にそれなりの金が動いている感じもある。
もしかするとナナの生活改善計画とやらは、想像以上に上手くいくのかもしれないな。
そんな事を考えているうちに、駆除協会の建物の前まで辿り着いていた。
この辺りでは一番大きな建物だが、それなりの雰囲気を持つ連中が何人も出入りしているのが見える。
「へえー、ここが駆除協会なんですね!」
「ああ、トウキョウ域では最も大きい支部だな」
「トウキョウ……域……?」
またナナが訝しげな顔をしているが、一体何がそんなに引っかかっているのかは分からない。
後で聞いてみる必要はあるだろう。
「じゃ、入りましょうかタケナカさん」
「ああ。ほら、行こうナナ」
建物の警備に立っているのも駆除士だが、駆除協会に直接雇用されているという点では俺よりも儲かっている連中だ。
当然、それなりに加護が強いのだが……チラリと向けてくる視線は蔑みと。
一瞬遅れてやってくる、驚きの視線。
そんな視線をスルーしながら、俺達は駆除協会の中へと入っていく。
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