俺の家で何してやがる
「え……! な、なんですかアレ! 地面から変なのが生えてきてますよ!?」
「モンスターだ。見たことは……ないか」
「ないですよ! え、ああいう風に生まれるんですか!?」
「汚い魔力の塊らしいからな。この家の魔力が神の力とかそういうので覆われる事で、追い出されたんだろうな」
ホコリやゴミと同じだ。神の力というホウキで掻き出されて、モンスターという形になってしまうのだ。
俺はその現場にいたことはないが、新しく神殿が建立される場所には必ずといっていいほどモンスターが出現する。
……アレは稼ぎがいい割には簡単な事が多いから、俺みたいな個人に下請けに出したりしねえんだよな……。
「何遠い目してるんですかオーマさん! ほら、ほら! なんかもう怖いのが上半分出てるじゃないですか!」
「ギイイイイ……」
「ギイイイイって言ってますよう! ひゃー!」
「落ち着け。アレは1度全部出さないと変な風になるんだ。あと今の可愛かったから、後でもう1回やってほしい」
「オーマさん!」
怒られた。本当に可愛かったのになあ。
しかしまあ、真面目な話……本当に中途半端に駆除すると面倒ごとになるらしいのだ。
以前出てくる途中に大規模術式で一掃したら、地中に残ったのが集まって大型モンスターになったとかでニュースになってた。
「……大丈夫だ、ナナ。俺だって、この場所は大切な家だし……君は大事な人だ。それにあの程度なら問題ない」
「で、でも……なんかいっぱい出てますよ!?」
「確かに、数だけは多いな」
ゴブリンが4、コボルトが3……おお、すげえな。オークが2居やがる。
前にオーク見たのはいつだったかな。もう結構前だぞ、確か。
「ま、問題ないな」
あの調子ならもう少し時間があるから、俺はゆっくりと玄関から靴を履いて出る。
別にカッコつけて窓から出てもいいんだが、それで犠牲になるのは俺の靴下だ。
あんまり替えがないんだから大事にしたい。
「さて、と……」
玄関から出ると、そこでも湧いていたらしいゴブリンが棍棒片手に振り返る。
足は……うん、ちゃんと地面の上に出てるな。
懐から符を2枚掴み取ると、いつも通りに詠唱を開始する。
「撃符・マジックアロー」
投げた符は魔法の矢へと変換され、ゴブリンを貫き消滅させる。
残ったのは、ゴブリンのカードが2枚。
「おおー……凄いです、オーマさん!」
「大したことないさ」
「この変な絵柄の札はどうするんですか?」
「カードな、モンスターカード。後で拾うから放っておいていいぞ」
「はあー……なんだか世界は凄い事になってます」
俺の後をヒョコヒョコとついてくるナナが可愛くて仕方が無いが、此処はカッコいいところを見せるべき場面だ。自重せねばならない。
「ガアアアア……ギャ!?」
「ひゃあ!?」
物陰から飛び出してきたゴブリンを蹴り飛ばすと、ゴブリンの汚い悲鳴に混ざってナナの驚いたような声が聞こえてくる。
やはりマジックアローの一撃で消滅させるが……その次の瞬間、俺の丁度死角になるような位置から複数のゴブリン達が武器を構えて飛び掛かってくる。
なるほど、囮か。生まれたばかりのくせに……これだからモンスターってのは厄介だ。
「撃符・マジックショット」
だから、衝撃波で一気にゴブリン達を吹き飛ばす。悲鳴すらあげずにカードに変換されたゴブリン達をそのままに、家に傷がついていない事を確かめ安堵する。
古いボロ屋なのだ。下手なことをして更にボロになったら目も当てられない。
「あとはコボルトに……オークもいたな。ったく、此処が俺の家でなけりゃ簡単に吹き飛ばせるんだが」
「吹き飛ばしちゃダメですからね……?」
「分かってるよ、ナナ。君の前でカッコつけたい俺を信じろ」
「……この上なく説得力のある言葉をありがとうございます」
おかしいな、今のは結構な口説き文句だと思ったんだが。
首を傾げながら前庭へと進んでいくと、オークがこちらに背を向けていて……俺は、小さく溜息をつく。
なるほど、なるほどね……そうなるのかよブタ野郎が。
俺はナナの目を素早く手で塞ぎ、もう片方の手で符を取り出す。
「え、なんですか!? なんで目隠しするんですか!?」
「見ない方がいい。ちょっとR指定ってやつだ」
あの野郎……コボルトを殺して食ってるな?
とんでもねえ野郎だ。確かにそうすりゃ内在魔力も上がるだろうけどよ。
「ブギギッ、ギヒヒヒイイ……」
「ブギイ……」
そうして振り返った2匹のオークの醜悪さは……ちょっとばかり筆舌に尽くしがたい。
「ナナ、ちゃんと目を塞いでろよ」
「は、はい……」
「いい子だ」
ああ、まったくなんて日だ。
今日はナナに会えて家も手に入った幸せな日だっていうのに。
その新居の前庭で、ブタ野郎がモンスター仲間を喰って得意げになってやがる。
「……お前等、消却処分決定だ」
「ブギイイイアアアアア!」
ナタのような武器を持って襲い掛かってくるオーク達へと、俺は符を向ける。
「撃符・マジックバースト」
投げた符が輝く魔力の柱へと変換され、オーク達をまとめて呑み込み消し飛ばす。
光の柱が消えた後に転がるオークカード2枚を拾い上げると、俺はナナへと振り返る。
「もういいぞ、ナナ」
「ほわあー……」
がっつりと目を開けていたナナは、俺を見てキラキラと目を輝かせている。
「オーマさんって……実は結構凄い人なんですね!?」
……なんで目を開けてんのかな、ナナは。
ああいう目で彼女に見てもらえるのはなんか嬉しいから、いいんだけどさ。
でも俺の気遣い……はぁ。
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