本当は、

あぁ、まただ。また、今日も遅い。

昨日帰って来た時俺に明日は早く帰ってくるからねと君は笑顔で言ったのに。

ここ数日ずっとそうだ。朝早く君は出かけて夜遅くに帰ってくる。そしていつも決まって君はごめんねとその言葉を口にするのだ。昔は、そんなことなかったのに。

ガチャリと音が鳴りただいまと疲れた顔をした君が部屋へと現れた。手荷物を床へ下ろすと君は

「また、遅くなっちゃった」

そう小さく口にしてそのまま台所へと向かう。

「すぐご飯にするからね」

仕事がね中々片付かなくて、そう言って向けられたままのその背中に、元気のないその丸まった背中に、思わず俺は君の名前を叫んだ。反響した俺のその声に君は振り返りながら小さく眉を下げる。

「…怒らないでよ」

そして今日もまたごめん、とその言葉を君は口にした。

ねえとそう呼びかけながらゆっくりと俺の元へと近付くとそのまま君は俺の前へと皿を置く。そして優しく、その瞳を細めた。

「お腹、空いたよね」

待たせちゃってごめんねとまっすぐ向けられたその双眸を俺は静かに見つめ返した。

本当は、謝らないで良いんだよって大好きだよって伝えたい。だけれどきっとこの想いがそのまま伝わることはないんだって、君との付き合いが長いからこそ自覚しつつあるんだ。君のその唇がもう一度俺の名前を紡ぐ。その声に応えるように俺も君の名前を呼んだ。

「…わん」

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