ある冬の日の話

キスがしたい。

俺は彼女と、キスがしたい。

すぐ隣で寒いねと白を吐き出すその唇に俺はそっと目を向ける。

付き合って、1ヶ月。

名前呼びはまだ慣れないし手を繋いだ回数だって数えられる程度だけれど。

付き合って、1ヶ月。

そろそろ次のステップへと登りたい否登っても良いはずだ。そんなことを考える俺に彼女はねぇと小さく首を傾げて言う。

「どうしたの?」

投げかけられたその問いに思わずじっともう一度その唇を見つめた俺に彼女はあ、と何かに気付いたように呟いて

「…ん」

「えっ」

そっとその唇を小さく俺に突き出した。

にこりと向けられたその笑みに俺は

「…っい、良いの?」

ごくりと大きく喉を鳴らす。

ん、とこくり確かに揺れたその黒髪に俺はそ、それじゃあと声に出し

「んぅ」

彼女に倣うようにして己の唇を突き出した。

そんな俺に彼女はにこり、温かい微笑みを浮かべるとそのまますっとその細腕を俺の元へとゆっくり伸ばす。そして

「…はい、できた!」

その腕を指を俺の唇の形に合わせて動かしてみせた。

ふわりと香るその甘い漂いに思わずぱちくり、瞳を瞬かせた俺に

「寒いと乾いちゃうよねー、唇」

分かる分かるうんうんと彼女は二度大きく頷く。

「………ん??」

ぽかんと間抜け顔を晒す俺に何かおかしいと気が付いたのかどうしたのともう一度彼女はその首を傾げると

「あ」

と小さく呟いてその頬を恥ずかしそうに赤らめた。

「間接キスに、なっちゃったね」

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