第25話 解放
再び目を覚ましたアイザックは、全身が柔らかい何かに包まれているのを感じた。
奇妙な話だ。拷問が終わったあとも牢屋の中に放置され、硬く冷たい石の床で眠ったはずなのに。
だが今自分の身体が横たわっているのは、どうもベットの上らしい。
手首を締める
「俺は、いったい……」
「……アイザック! よかった、気が付いたんだね」
声を聞いて顔を向けると、扉を開いて入ってくるカタリナの姿があった。
手には湯を張った器とタオル、それに代えの包帯を持っている。どうやら彼女が看病してくれていたらしい。
カタリナは手荷物をすぐにわきに置いて、アイザックの手を取る。
「痛っ……」
「あっ、ご、ごめん。まだ、痛いわよね。傷も治ってないし」
うっ血した手首の痕を見て、慌ててカタリナも手を離す。しかしそれを、アイザックの手がまた掴み直す。
え、と戸惑った様子の彼女を無視して、アイザックはその手をゆっくりと動かす。確かめるように手のひらから二の腕、そして顔へと手を伸ばす。
「ど、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「よかった……」
「な、何が?」
「お前は、何もされてないんだな。よかった」
本当に安堵としか言いようもない、深いため息が漏れた。
カタリナはしばらく唖然としていたが、次第に眼を潤ませ始める。
「……? どうした、やっぱり何かされたのか」
「ば、馬鹿ぁ! なんであんたが人の心配するのよ! ボロボロなのは自分のほうなんだから、もっと自分のこと心配しなさいよ!」
「いや、だってさ……俺が原因で捕まったのに、お前まで何かされてたらどうしようって思うじゃないか。でも安心したよ。お前は傷をつけられたりしてないんだな」
「……わ、私はあの時、あんたと一緒に捕まらなかったのよ。みんな私のことは、眼中にないって感じで。ヘレナみたいに教会所属でもなかったし、別口の退治屋だと思われたみたい」
涙を隠すようにごしごしと袖で拭いながら、カタリナは説明し始める。
あの場に放置されたカタリナは、何とかアイザックを連れ返すために、一旦領主の屋敷に戻った。
無茶を承知でロレンズに嘆願したのだが、彼は想像以上に迅速な対応で教会にアイザックの解放を求めた。
そして教会所属の町に長居は出来ないと、最低限の手当てを行ってすぐ屋敷に戻ってきたらしい。もうここはあの牢屋がある町ではないのだ。
「つまり、俺は結構長い間眠っていたのか?」
「うん。まる二日ほど。採掘場での戦いのあとだったし、疲労も溜まってたんだと思う」
「そうか。お前にも色々と迷惑をかけたな」
「ううん。そんな私は……って、アイザック?」
喋りながらアイザックは、自分の全身に巻かれた包帯やら軟膏のついた布を取り外していく。
そして体中の傷をくまなく確認し、小さく唱えた。
「ヒール」
すり傷や腫れた皮膚、絡みつくような鞭の痕が綺麗に消えていく。身体を動かしながら確認するが、痛みなども残っていない。
「……戦いの最中ならともかく、休める時の怪我は回復魔法より医術に頼ったほうがいいと思うけど」
「そうかもな。でもすぐにやるべきことがある時は、こっちのほうが便利だ」
「やるべきことって?」
「……さしあたって、ロレンズに聞かなきゃいけないことがある」
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