第3話 カタリナ
アイザックは廃村でやるべきことを済ませると、すぐにもといた場所へ戻ってきた。
そこは村から少し離れた野営地だ。いくつものテントが張られ、その中では悲嘆にくれた表情の人々が座り込んでいる。
彼らはあの村に住んでいた者たちだ。アンデッドから辛うじて逃げ延び、それゆえに土地も財産も全て失った者が、どうすることもできずにここで留まっている。
今は領主が派遣した私設軍の人間が炊き出しや薬の手配をしているが、みな先行きの暗さに怯えていることだろう。
アイザックが目当ての人間を探して視線を動かしていると、肩を怒らせながらこちらに近づいて来る者がいた。
肩まである金色の髪をなびかせ、古風な黒いコートを着た少女。整った容姿だが、きつく吊り上がった瞳がそれを台無しにしていた。
「勝手な行動ごくろうさま! たった一人で被害地域をウロチョロして、何かわかったことでもあるのかしら!?」
「……ん? 誰だお前」
何気なくそう問いかけたが、彼女にとっては存外ショックな発言だったのだろう。しばし絶句して、それから猛然と言い返してきた。
「カタリナよ、魔術師のカタリナ! あなたのサポーターとして雇われたんでしょうが!」
「ああ、そういえばツーマンセルを作るって話だったか。ロレンズ、最近はそればっかだな。ほんと面倒な……」
「何一人でぶつぶつ言ってるのよ」
「俺はいつも一人でやってるんだ。悪いけどアンタ、今回は休んでてくれ」
「はぁ!?」
カタリナは更に怒りを燃やし、大声で怒鳴りつけようとした。
しかしその二人の隣から「あのぅ……」と弱弱しい声が上げられてそちらを振り向いてしまう。
声をかけてきたのは少し白髪の混じった髭の男だった。覇気のない声とは裏腹に、体つきはしっかりしている。失われたあの村の、村長の息子だったはずだ。
「
アイザックは彼を見てすぐに笑顔を作る。先ほどとは打って変わり、営業用の丁寧な態度に切り替えた。
「ええ、ちょうど探していたんですよ。あそこで亡くなった方はすでに何人かアンデッドになっていました。しかしまだそうなっていない者も含め、ちゃんと弔っておいたので安心してください。」
「では……」
「ええ。あなたのお父さまも」
「そうですか……ありがとうございます」
男が素直に頭を下げる。一方でカタリナはやや驚いた表情でアイザックのほうを向いた。
勝手に現場に向かって、まさかアンデッドまで倒してくるとは思っていなかったようだ。
「ああ、それと私のことはクレリックと呼ばないように」
アイザックがそうひと言付け加えると、男とカタリナとともに「え?」と問い返した。
「私はあくまで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます