chapter 3 -beginning of my story- 01
「うーん、さっきの超反応が信じられないくらい正常だ。」
禁止エリア内にまつられた古い
この謎のアイテムとの共通点。
そしてさっきの眩いほどの光が指し示したこの台座の窪み。
お約束的展開に胸躍らせた5分前だったが、結果として何も起こらなかった。
指輪を窪みにはめ込むと、今まで放っていた光が嘘のように消えた。
突然に消えた為、それがフラグかと思い、5分ほど待ったのだが…。
遂には何も反応しない。
「明らかに何かある流れだったけど…。」
悠も怪訝そうな顔をする。
「おかしい。ここまで何かありそうなイベントで何もないなんてアリ?」
お約束展開は思わせぶりな要素だけを残し、そのなりを潜めてしまった。
何だよ、ちょっと期待したのに。
そんなに甘い話は無いか。
しかし、何も起こらなかったなら今のは何だったのか。
突然光を放つ指輪。
光が指し示したこの祠。
さらには指輪に施された意匠との共通点。
ぴったりと指輪がはめ込める窪み。
「禁止エリア内にずっといるのも何だから、そろそろ行こう。」
「そうだな…。次の目標地点に行くか。」
目標とする場所はここ以外にあと2つあるんだ。
急いで周ろう。
禁止エリアとの境界線まで戻ってくると、また騎士の男が姿をあらわす。
何もないところから現れたように見えたが…。
「指定目標を達成したようだな。次はどこへ行くんだ?」
「ああ。アンタ、ここをずっと見守ってるわけではないんだな。さっき居なくなってたし。」
サッと答えて、こちらも聞きたい事を聞く。
「俺達の仕事は、この境界線に近づくプレイヤーの処理だ。」
処理って…。
「転移的なスキルを使って移動してるんですね。そのスキルはどんな職で習得できるんです?」
悠も興味があるようだ。
この転移スキルがあれば、この偵察クエストは幾分か楽になるだろう。
特殊ポイントのクエストが、全部こんな『おつかい』ばかりでは時間がかかりすぎる。
「このスキルは騎士団の職務中にだけ使える特殊スキルなんだ。君たちも騎士団に入れば使う機会もあるさ。」
男がマントの紋章を見せて答える。
「え、一般のプレイヤーも騎士団に入れるの?」
悠が食いつく。
「俺も普段は冒険者だしな。騎士団の仕事も一種のクエストみたいなもんだ。」
そうだったのか。
じゃあ騎士団に入れば、もっと効率よくバイトできるかも?
「おっと。ただし、騎士団の職務遂行中には他のクエストは進行できないぞ。」
男が考える俺を見て言う。
俺の安い案は看破されてしまった。
そうだよな、そんな楽なクエストを運営側が用意するはずないか。
「そういうのは、初期のプレイヤー達が試してるさ。残念だったな。」
「ちぇ、やっぱり考えることは同じか。」
うなだれる俺を見て、彼は笑いながら言った。
「そう落ち込むな。そうは言うが、騎士団は騎士団でメリットもある。職務中限定ではあるが、専用装備や専用スキルを使って、このゲームのことを深く知ることが出来るのも魅力だ。ここだけの話、無双したい奴にも向いてるんだよな。」
たしかに無双気分を味わえるのはいいかも知れん。
つい今さっきもチート展開を、夢想していたわけだし。
「気が向いたら、街で騎士団の詰め所を探してみるといい。ちなみに、そのクエストペーパーによると次の目標地点もプレイングエリアの外のようだな。」
男は親切にも、その方向を案内してくれた。
「一度丘を下りて、分岐を行くといい。」
「ありがとう、助かるよ。」
φ
俺達はその場所を後にし、丘を下った。
登る時と比べると、それほど苦にはならなかった。
……、などということはなかった。
何だったら、登るよりも少し疲れたような気がする。
「これをあと二つか…。やっぱり、特殊クエストは大変だったな…。」
「そうだね…。これ、配達のバイトよりキツイんじゃ…?」
悠も俺も、配達のバイトなどやったことはない。
しかし仕事とは、金を稼ぐとは大変なことなのだ、ということはわかった。
人生のもっとも大きな部分を占める重要なことを教えてくれる、これもリアルなゲームならではだな…。
疲れで頭も働かなくなっている。
「……待てよ。」
閃いた。
そういえば、モンスターとの初戦闘の時にも理不尽な難易度設定はあった。
しかし…その時には…。
「これもスキルで何とかならないかな。」
悠も同じことを考えていたようだ。
そう、困った時には技能を追加してしまえばいい、というのがこのゲームの常のようだ。
流石に転移系のスキルを習得することができなくても、移動に役立つスキルがあるんじゃないか?
「探してみよう。」
スキルツリーを開き、移動に役立ちそうなスキルを探す。
攻撃や防御、回避スキルの他にもたくさんのスキルがあるようだった。
「あった。」
移動・運搬系のスキル。
サポートダッシュ … 非戦闘時の移動速度を比率向上。
サポートキャリー … アイテムボックス内の重さぽいんとを比率軽減。
バルクアップ … 筋力を比率上昇。装備の重さポイントを比率軽減。
比率向上や比率軽減など、スキルレベルと数値を比率で増強するスキルは便利そうだ。
移動中に狩って得たスキルポイントをここで使う。
あまりこまめに上げていなかったのが、ここにきて幸いした。
「こっちも移動スキルあったよ。でもポイントがそんなになかったよ。」
悠も俺と同様、スキルツリーを展開して移動スキルにポイントを振る。
戦士の俺と違い、魔法使いの戦闘スタイルは魔法というスキルが主体だ。
そのため、割とこまめにスキルポイントを振っていたようだ。
「このスキルは
ポイントを振った瞬間から、身体が軽く感じた。
スキルを取得したというよりは、スキルポイントを使ってキャラを強化するような感じか。
「そっちは?スキル振り終わった?」
「うん。こっちも上げたよ。」
「しかし、流石はリアル志向。難易度とクエストに費やす時間は、プレイヤースキルだけじゃなくて、スキルで強化したりしたキャラクターの性能にもよるってことか。」
「確かに。このスキルっていうシステムが、このゲームを進めていくカギになっているようだね。職業によっても優劣はあるみたいだけど…。」
「あー…。俺も遠距離職にしておけばよかったかな。」
この戦士という職業。
今のところメリットが少ないような気がする。
「でも、戦士も結構よさそうだけどね。」
「いや…、どうかな。戦士のデメリットは多いだろ。ダメージ量が魔法より多かったり、盾やスキルで効果的に攻撃を防げたりするならまだしも…。」
近距離でダメージ量が多いかとも思ったが、悠の魔法攻撃は俺のキャラの攻撃と同等、いやそれ以上のパワーを備えていた。
スキルや盾で攻撃を受け流せるが、防御スキルは魔法使いにもある。
「それに一番のデメリットは、装備の重さだ。これは戦闘でも運搬でも
クエストをこなすためには、基本的に村の外に出なければならない。
村の外にはモンスターが居る。
ということは装備は必須だ。
村や街にはモンスターが出ない。
だが、他のプレイヤーたちが居る。
装備を外して、インナー装備姿で歩くのは、アバターでも恥ずかしい。
しかし、悠は、
「そうだね。でもそれだけ装備が重いってことは、防御も段違いに強化されるんじゃないか?きっとそれに見合うメリットが見つかるさ。」
と、クエストツリーを閉じて言う。
そうだろうか…。
俺も確認していたクエストツリーを閉じる。
だが、それもそうだ。
今更キャラの作り直しも面倒だ。
「移動スキルも覚えたし、これからは少し緩和されるかな。」
そのうちメリットが抜きんでてくることを信じて。
「あ、移動スキル使う?」
「え?あぁ、こっちは負担軽減と速度向上だったんだけど…。」
「え?テレポーテーションあったよ、
「ハァ!?何その便利そうなスキル…。」
「じゃあ行くねー。」
悠の魔法スキルの放つ光に包まれて思う。
前言撤回。
やっぱ近接職は冷遇じゃないか。
ゲームバランスの改善は、いつになることやら…。
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名前 :ノビー(昇)
Lv :10
職業 :戦士
装備 :鉄の帽子
ガントレット
鉄の鎧
鉄の剣
鉄の盾
スキル :薙ぎ払い
ソードステップ
受け流し
ボルテージ
インサイト
サポートダッシュ
サポートキャリー
バルクアップ
アイテム:???の指輪(未鑑定)
スタートポーション×29
短刀
ブーメラン
緑の雫×24
コボルトの毛×15
コボルトの小盾
コボルトの剣×2
コボルトの槍
コボルトの弓
所持金 :120G
――――――――――――――――――――――――――――
名前 :ゆうゆう(悠)
Lv :11
職業 :魔法使い
装備 :とんがり帽(魔女)
布のローブ
木の杖
火の書01
氷の書01
癒しの書01
スキル :ファイア
チリング
ヒール
テレポーテーション
アイテム:スタートポーション×27
マジックポーション×5
緑の雫×26
コボルトの毛×10
コボルトの槍
コボルトの小盾
コボルトの弓×2
所持金 :110G
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