chapter 2 -road to quest- 06

「ここから先は立ち入り禁止だぜ。」

赤いローブに身を包んだ男が警告する。


背後から声がするはずは無かった。

ここまで続く道は俺たちが歩いてきた一本だったはずだ。

ここに来る途中に人にも出会わなかった。

しかしその物言いから、運営側のキャラクターであることは間違いない。


剣を抜き、こちらに切っ先を向けている。

「おいおい、ちょっとま…」

コチラの言葉をさえぎって、男が警告を続ける。

「禁止エリアに立ち入るとペナルティがあるって教わらなかったのか?」

よく見ると、戦士が持つ鉄の剣とは拵えが違っていた。

剣の柄には緑の宝石が見える。

明らかに初心者の俺たちが手に入れることができるようなレベルの装備ではないことが伺えた。

男はそう言うと、軽く振る。

1つ、2つと火の玉が表れ始め、俺たちの周りを取り囲んだ。

赤い輝きを放つその火の玉は俺たちの周りをゆっくりと飛んでいる。

悠が使っているファイアの魔法とは比べるべくもない。

火力が違うのだろうか、放つ光がそれを物語っている。


スライムの突進を受け止めただけでもかなりの衝撃だった。

こんなのにやられたらひとたまりもないぞ。

ホントに死んでしまうんじゃないか…?

「ゲームオーバーだ。ではさようなら。」

男が剣を地面に刺そうとした。


こりゃ戦闘イベントどころか負けイベントだ。

悠も俺も、あるだけの防御スキルを発動していた。

しかし、ほぼ全方位からの攻撃。

おまけに恐らく高レベルの魔法。

運の良し悪しにかかわらず、一撃でやられてしまうだろう。

なんてところに寄越してくれてんだよ。


「待ってくれ、俺たちはクエストペーパーの指示に従ってきただけだ。」

悠が言った。

さらに男に向かって丸まったクエストペーパーを投げる。

男は剣を静止し、クエストペーパーを片手で受け取る。

「本当だ。嘘は言ってない。」

早口になったが俺も言う。

男は器用に片手で丸めたクエストペーパーを広げ、中を確認する。

「…ナルホド、確かにここを通っていくように指示されているようだ。」

ローブの男が剣を鞘に戻す。

「…ったく、偵察範囲を広げるならこっちにも連絡してくれよな。」

男は不機嫌そうにクエストペーパーを巻直し、悠に渡す。

「すまなかったな、脅すような真似をして。情報が上手くこっちまで伝わってなかったようだ。だが、これも仕事でね。俺はこの世界の規律と平和を守る神盾しんじゅん騎士団の団員だ。」

「いや、分かってもらえたようで…。」

俺たちもホッ胸をなでおろす。

そりゃクエストとはいえ、禁止エリアを通るというのは確かにおかしい。

こんな序盤でそのルールを破ることは特例的にも無いだろう。

クエスト、というか金に釣られてPKの憂目にあったのだ。

焦りもする。

「騎士団というのは、つまり運営?」

悠が尋ねた。

「そう考えてくれても構わない。運営サイドの組織だからな。門番から聞いただろう?」

そういえば、PKプレイヤーキルを取り締まる団体があるとか?

禁止エリアの警備もしているのか。


「ちなみにここ通ってもいいのか?」

俺も訪ねる。

「勿論だ。本部の指定とあらば仕方がない。」

運営にも色々あるんだな。

連絡の齟齬はどんな時にも起こりうる。

そりゃ、誰も通らないように警備してる場所が、実は通っても良い場所だなんて、警備をしている方はマヌケに感じる。

彼が怒るのも無理はない。

「じゃあ、先へ進ませてもらおう。」

「わかった。だが進む前に警告だ。すぐ向こうが小山の頂上になっている。だがそこへは進むな。ゲームフィールドの向こう側からひたすらデータの海を落ちて、データの消失やゲームの障害が起こるかもしれん。最悪の場合、ゲームと接続している身体の神経系の障害が残る可能性がある。頂上には近づくなよ。わかったな。」

禁止エリア内でウロウロするのは運営にとっても不都合なのだろう。

念入りに警告しているところを見ると、やはりそういう未完成な場所もあるようだ。

「偵察地点はその手前ですから大丈夫。気をつけます。」

悠が丁寧に答える。

そのまま、俺たちは先に進んだ。


禁止エリアといっても、keep outの警告文がなければ普通のプレイフィールドと変わらない。

「指定された偵察地点は…その辺だ。」

悠が指差した方向は頂上からは少しそれた方向。

丘を登っては下りる。

「これなら進めそうだ。」

俺たちは警告文がちょうど見えなくなる、丘の傾斜に差し掛かる。

振り返ると、もうあの男の姿は見えなかった。

「…撤収も早いな。」

「え?あぁ、現れるのも突然だったけどね。」

振り返ると居ない。

忍者みたいなもんだな。

もしかしてそういうジョブなのか?

「俺ら以外の冒険者(プレイヤー)は居ないところを見ると、確かに禁止エリア内なんだなって実感するな。」

「確かに、モンスターも出ないし。」

モンスターのスポーンも禁止エリアでは発生しないようだ。


閑散とした丘を歩く。

周りは木々もまばらに見えるだけで、見通しも良い。

「さっきの緩やかな傾斜もこれだけ上ってくると、景色もいいな。」

スタート地点近くの丘も見晴らしは良かったが、比べれば地上からの距離はこっちの方がかなり高い。

「そうだね。村の方もあんなに小さく見える…。」

「ちなみに偵察って言ったって何するんだろうな。」

クエストは偵察とのことだったが、どういうことだろう。

「その辺を歩けばいいのか?それか何かを眺めて、様子をメモするとか?」

悠がクエストペーパーを確認する。

「…いや、そのあたりは特に書かれてないな。多分だけど、チェックポイントを回ることが大事なんじゃないかな。」

「どういうこと?」

「ここまでは一本道だったじゃない?だからそこまで来るって事は、そこまでは探索出来たって事でしょ。」

ナルホド。

つまり、その地点に何らかの狙いがあるわけじゃないということか。

その地点までに行き着く道を見回ることが大切いうことか。

「何かあったら、コールコマンドを使って騎士団に報告って書いてあるし…。」

偵察、つまり警備ということか。

「あ、でも禁止エリアまで来るのはなんでだろう。人いないなら警備も何もね…。」

「それは俺も思ったけど、それこそ禁止エリア内に侵入した冒険者プレイヤーの報告とかじゃないか?」

悠は首を傾げた。

「でもあの警告超えたら、騎士団すぐ来たよ?」

確かに…。

「もしかしたら、『人』じゃない『何か』が居るのかもね…。」

「おいおい、こんな寂しいところで脅かしっこなしだぜ。」

こんなところで『何か』出たらどうしようもないぞ。


村も見えなくなりはじめ、側面に回り込む直前。

そこが指定された地点だった。

そこにあったのは小さな石のほこらだった。

「ここが指定された地点?」

「そうだな、この祠が目標地点だ。」

石で組んだ祠だが、そこに祀られている祭壇には精巧な意匠が凝らされている。

さらに、その祭壇にはわからない言語で何かが記されている。

「ここはプレイヤーにはわからない言語なんだな。」

「確かに、クエストペーパーだけじゃなくて店の値札だったり、道の案内板は普通だったのにな。」

「そういう演出かな…、ん?」

書かれている文字も気になったが、その祭壇の真ん中にある意匠と窪みが気になった。

特にそのデザインには覚えがあるように感じた。

「コレ…、見覚えがあるぞ。」

アイテムボックスに眠る謎のアイテム。

???の指輪に施された意匠に似ていた。

アイテムボックスから取り出すと、指輪が光を放った。

「え!?なにそのお約束的展開!?」

「いよいよ、チュートリアルも終わってついにチート能力を授かることになるんじゃね?」

だって期待するだろ、この展開は!

偶然手に入ったこの見るからに高レベルという指輪。

???といういかにもいわくつきという雰囲気。

そして禁止エリア内の祭壇。

これは興奮しないわけない。

ついに本当の冒険が始まる!?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前  :ノビー(昇)

Lv   :10

職業  :戦士

装備  :鉄の帽子

     ガントレット

     鉄の鎧

     鉄の剣

     鉄の盾

スキル :薙ぎ払い

     ソードステップ

     受け流し

     ボルテージ

     インサイト

アイテム:???の指輪(未鑑定)

     スタートポーション×29

     短刀

     ブーメラン

     緑の雫×24

     コボルトの毛×15

     コボルトの小盾

     コボルトの剣×2

     コボルトの槍

     コボルトの弓

所持金 :120G

――――――――――――――――――――――――――――

名前  :ゆうゆう(悠)

Lv   :11

職業  :魔法使い

装備  :とんがり帽(魔女)

     布のローブ

     木の杖

     火の書01

     氷の書01

     癒しの書01

スキル :ファイア

     チリング

     ヒール

アイテム:スタートポーション×27

     マジックポーション×5

     緑の雫×26

     コボルトの毛×10

     コボルトの槍

     コボルトの小盾

     コボルトの弓×2

所持金 :110G

――――――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る