chapter 3 -beginning of my story- 02

「まさか、こんなところまで飛んでこられるとは…。」


悠が取得した移動スキル『テレポーテーション』は、それはもう便利なシロモノだった。

「しかもパーティメンバーも一緒に転移できるらしいし。コレ、魔法使いは偵察クエストには必須職なんじゃないかな。」

悠はまんざらでもないという感じだが…。


「MPの消費量も凄いみたよ。一回使ったらしばらくは魔法攻撃は出来ないね。」

それでもその転移スキルは破格の性能だ。

MP回復のアイテムや補助があれば、このゲームのネックになる移動という部分はほぼストレスフリーになる。

やっぱりファンタジーでは魔法が最強か。


「戦士の移動サポートはどう?」

そんなワープほどすごいものはない。

「装備やアイテムの重量軽減と移動補助系だな。そんな魔法みたいな便利なスキルはないよ。」

卑屈な言い方になってしまうが、落胆したのは事実だ。


「でも、その装備の重さが軽減できるのはありがたいじゃない?ほら、このテレポートもMP消費量はバカにならないし…。今わかったけど使用量が許容量を超えると、MPの表示がマイナスになるみたい。」


え?

魔法使いがMPマイナスってヤバくね?


「それ…、戦闘どうするんだよ。」

「いやー…まいったね…。まさかこんなオチとは…。」


現実はやはり非常である。

MPの取得や回復に関するサポートには、どのくらいのコストがかかるのか…。

「…、クエストとのバランスを考える必要があるだろうな。MP回復が何とかなれば、便利に使えそうだけど…。」

「最初は短距離での移動に使って、スキルレベルを上げていくのが良いのかもね。視界に入る場所なら移動できるらしいし…。」


えぇぇ!そんな破格のスキルある!?


「じゃあ、高台から一気にどんなところにでも移動できて最強じゃん。」

「うーん、だけど距離によってMP消費が変わるみたいなんだ。」


ナルホド。

それでバランスをとっているんだな。

「とりあえず、ポーションで回復しながら行こうぜ。」

「そうだね。こっちは殴り魔法使いスタイルで何とかMP回復してみるよ。」


殴り魔法使い。

様々なゲームでネタ扱いされてるスタイルじゃないか。


「ま、タンク役は任せてくれ。こっちでターゲットを取るから、適当に殴ってくれ。」

防具もしっかりつけてるし。

そのぶん防御が高いのは俺の方だしね。


しかし、さっきのテレポーテーションで移動した距離を考えると、指定された第2地点はもうこの辺のはず。

「なあ、偵察地点はどのあたりなんだ?」

「近くのはずだよ。」

そういって悠はクエストペーパーを開き、俺に見せる。


確かにこの辺だろう。

ついさっきの偵察地点同様、禁止エリアを表すデータテキストが見え始めた。

「…またこの向こう側らしいね。」


ゲームの指示で禁止エリアを頻繁に行き来させるのはどうなんだ。

とりあえず、データテキストの壁を越えてみる。


「またか……。」

禁止エリアの境界線を越えたとき、そこに立っていたのはさっきと同じ魔法剣士だった。

「禁止エリアを回るクエストなのか?それとも何かバグか?」


「俺たちもそれは気になっていたところだ。こんなことはあまりないんだろ?」

尋ねると魔法剣士も首をかしげる。

「…さっき言ったように、運営からこちらに連絡が来ていないパターンは割とよくある。」

ということは、禁止エリアに近づくプレイヤーは割と居るわけだ。

騎士団で禁止エリアの見張りというのも大変かもな。


「パターンはモンスター討伐だったり偵察だったりで指定されたエリアが、禁止エリアってことが多いがな。まあいい。早いとこ目的を達成して、禁止エリアから出てくれ。」

疲れた様子で赤い魔法騎士は姿を消した。


「あの魔法、ちょっと使ってみたいな。」

俺のような戦士も、魔法剣士になれば少しは何とかなるだろうか…。

騎士団に入れば、任務中に特殊な技能や魔法、装備が扱えるらしいが…。

「でも大変そうだよ。あの人の話だと、ずっと禁止エリアの警戒をしたりしないといけないんでしょ?」


確かに大変そうではある。

しかし、ゲームを始めてから今までのことを考えると、魔法が優遇されている感が否めない。

ほぼ必須なんじゃないか?


ゲームを始めるときに選ぶことができるジョブはどれも一般的だ。

ただ、その中で戦士は狩りをはじめとする戦闘に特化したスタイルなのだということが分かった。

移動を必要とするクエストは重量やスキルの関係で不向きだ。


その点魔法使いは移動スキルだけでなく、戦闘にも優遇されている。

上位職を目指すうえでは、最も扱いやすいのではないだろうか…。

いや、おそらく上位職になればあまり変わらないんだろうけど。


そんな時、騎士団の話を聞き、レベル上げの為ならと思ってしまう。


「まあ、それはある程度情報集めてから考えてみたら?また見えてきたよ、ほこら。」


さっきと同様に、祠が立っていた。

「ここいい景色だよねぇ。」

気づいて振り返ると、その景色はまさにRPGというようなものだった。

これがゲームの中なんて信じられない。

小山が点在する平原の緑と影を含む森の深い緑が心を落ち着かせる。

禁止エリアということを考えると、その絶景を独り占めにする気分だった。


クエストペーパーを見ると、偵察地点にチェックがついていた。

「あれ?まだ例の指輪のアレをやってないんだけどな。」

もしかしてさっきの光ってたのは、このクエストとは関係ないのか?


指輪を取り出してみる。

「……やはり光ってるな。」

この祠に反応してるのは間違いない。

「一応はめ込んでおいたら?なんか気になるけど…。」


「そうだな。」

「あれ?意外とドライになったね。」

「そりゃ、さっき何も起こらなかったしな。もうあんまり期待してないんだよな。」


事実、1度失敗したイベントが発生してもな…。

「思わせぶりだけど、それが高レベルアイテムってのは間違いないと思うんだよね。」

「確かにな。だから、もっとレベルが上がったら鑑定してみたいんだよな。それまで俺の興味は騎士団に移ってるんだよな。」


でも一応窪みにはめ込んでみる。

一瞬、指輪に光が強くなり、まばゆい光があたりを照らした。

だが即座にその発光も収まってしまう。


「特に変わってない。さっきと同じだ。」

「そうみたいだね。残念。」


これだけの演出で、まさかスカだとは思うまい。

やはりこのアイテムに何かがあるわけではないのか。

それもそのはずだ。

このアイテムは偶然見つかったものだ。

しかも初期地点の地面を掘ることで入手することができる。

つまり通常のプレイでは見つけることはほぼ困難だろう。


「もしかしたら、実装前のイベントに関するオブジェクトが混じってたのかな?」

「じゃあコレ完全にバグで入手したアイテムじゃん。」

俺もがっくりとうなだれる。


騎士団に入ろう。

それしか、俺Tueeする希望はほとんどないだろう。

それに、一般のプレイヤーと一線を画す能力を手に入れて、好きに無双し、弱きを助け強きをくじく。

そういうファンタジー世界に行ってみたいんだよな。


「まあ、そのアイテムの真贋はいずれ分かるとして…。このクエスト終わらせよう。」

「そうだな…。次が最後なんだろ。とりあえずこのクエスト終わらせて、村に戻ろう。」

このクエストを終えたら、報酬で新しい装備を揃えるのもいいかもな。

騎士団の詰所へ行くのもいいだろう。


とにかく、最終地点に向かおう。

祠にはめた指輪を拾い、道を引き返した。


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名前  :ノビー(昇)

Lv   :10

職業  :戦士

装備  :鉄の帽子

     ガントレット

     鉄の鎧

     鉄の剣

     鉄の盾

スキル :薙ぎ払い

     ソードステップ

     受け流し

     ボルテージ

     インサイト

     サポートダッシュ

     サポートキャリー

     バルクアップ

アイテム:???の指輪(未鑑定)

     スタートポーション×29

     短刀

     ブーメラン

     緑の雫×24

     コボルトの毛×15

     コボルトの小盾

     コボルトの剣×2

     コボルトの槍

     コボルトの弓

所持金 :120G

――――――――――――――――――――――――――――

名前  :ゆうゆう(悠)

Lv   :11

職業  :魔法使い

装備  :とんがり帽(魔女)

     布のローブ

     木の杖

     火の書01

     氷の書01

     癒しの書01

スキル :ファイア

     チリング

     ヒール

     テレポーテーション

アイテム:スタートポーション×27

     マジックポーション×5

     緑の雫×26

     コボルトの毛×10

     コボルトの槍

     コボルトの小盾

     コボルトの弓×2

所持金 :110G

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