chapter 2 -road to quest- 05

「やはり禁止エリアか…。」

クエストペーパーで支持された場所は、ギルドでも説明を受けた立ち入り禁止のエリアだった。

「オブジェクトの隙間とかがあって、永遠に落下、なんてことになったら怖いな。」

「多分、見えない壁とか警告文とかペナルティとかで、入れないようになってるんじゃないか?」

ゲームによって禁止エリアに立ち入らせない方法は様々だ。

たいていのゲームは立ち入ることすらできなくなっているものもある。

世界の終点、マップの端など呼び方も様々である。

「こんなリアルなゲームで見えない壁とか、ちょっと寂しいな。まぁ安全なものならいいけど。」

俺たちは、『禁止エリア』と書かれた看板の方へ進路をとる。


どうやらこの辺りにもモンスターがいるようだ。

草原にいたのと同じく、コボルトやグリーンスライムが行く手を阻む。

「お前らはもう敵じゃないんだよな。」

スキルとアイテムを使いつつ、敵を圧倒する。

乱戦になるときは、悠のキャラクターがチリングで冷却結界を張り、敵を牽制しつつ攻撃する。

「やっぱり杖で殴るとMPが獲得されてるみたい。」

悠は冷気を放ちながら、杖を構えて敵を殴っていく。

「風情はないけど、ゲームの魔法使いはやっぱ殴ってるよな。そうでなくても、このゲームはファイアを使うと焦げ臭いしな。」

あたりにファイアの残渣がもたらした黒煙と、その焦げ臭い匂いが立ち込めている。


特定の狩場でなくても、モンスターはスポーンするらしい。

割と間隔を開けずにモンスターに遭遇するようだ。

しかし、着実に進みながらモンスターを狩っていく。

だんだん、バランスもわかってくる。

「どのくらいでスキルを発動して、どのくらいの間クールタイムを取ればいいのかはわかってきたし。」

通常の剣撃でMPがどのくらい回復するのかはわかってきた。

当たりが悪ければ回復量は小さい、逆にクリーンヒットすれば多く回復する。

おかげで、すんなりと敵を突破していく。

「狩りながら、目的地を目指すってこういうことなんだな。」

「でもこういうのもいいよね。」

障害物を倒しながら、目的地に向かうのは楽しいものだ。

討伐自体はサクサク進んでいるが、そのドロップ素材を集めながらとなると時間がかかる。

それでもついつい集めてしまうのが、プレイヤーの性(さが)であった。

「この余った素材もギルドで売却だな。」

「クエスト素材の余剰分は、追加で納品できるみたいよ。そっちの方が、割りにいいかも。ギルドでは常に素材の換金に対応してるけど、クエストの指定素材なら断然こっちよ。」


アイテムボックスに片っ端から素材アイテムを詰め込む。

拾い終わったらまた進む。

その繰り返しを続けていると、最初の偵察地点がある丘の頂上が見え始めた。

偵察地点は全部で三つ。

しかし、偵察地点から別の地点への移動には時間がかかりそうだ。

メジハ近郊にある小高い丘や山道をまわらなければならないのだ。

テーマパークの端から端までを行ったり来たりしているかのようだ。

徒歩だと結構な距離があるように感じる…。

そしてその距離に応じて、鎧の重さも気になり始めた。


「しかし、こんな歩かせるかねぇ。」

肩で息をしながら苦言を漏らす。

「しょうがない。バイトだと思えばな。」

さすがの悠も疲れているようだ。

無理もない。

普段、学校と家を往復するくらいしか歩かないのだから、軽いハイキングでもバテてしまう。

杖があったとしても、長いローブを纏っている。

魔導書だって本を持っているのと同じだ。

装備すれば実体化し、その重さがかかる。

ハードカバーの文庫本スタイルの魔導書も、三冊あれば据え置きのゲーム機並みに重い。

「こんな調子で大丈夫かな。」

「それ。一番シンプルで簡単な偵察でも、こんなにハードなのか。」

「先が思いやられるな。」

単純にゲームを楽しむつもりでもあったが、出来る事ならバイト代くらいの金は稼ぎたい。

そう思っていた俺達は、厳しい現実を味わうのであった。


「しかし戦闘に関しては、昇は呑み込みが早いよな。」

「え?」

「スキルの活用とか、戦闘のセンスはやっぱ違うよな。」

「…うーん、他のゲームでやってることを手探りで試してるだけだけどな。」

「スキルツリーとか中々気づかなかったって。」

さっきスキル欄をいじっていると、目標のスキルを習得するまでに、取得すべきスキルを見ることができるコマンド、スキルツリーを発見したのだった。

確かにスキルツリーを見つけることができれば、自分が目標とするプレイスタイルをある程度決めることができるだろう。

「分かりにくかったけどな。こんな高度なゲームなんだぜ。それくらい実装してるはずだと思ったんだ。」

手探りで色んなことを試してみる。

それはどんなゲームでもやってみることだ。

「生粋のデバッガーかよ。おれもゲームセンスが育てばいいんだけどな…。」

「お前は部活があったからだろ。…なんでやめちゃったのさ?」

悠は中学の頃、バスケットボール部に入っていた。

しかも、かなり上手かったようだ。

県の選抜選手に選出され、代表として大会に出ていたらしい。

高校に入ってからも、バスケ部に入るものだと思っていたが、今はこうして帰宅部としてゲームに夢中だ。

今でも勧誘に来る部活を断っているらしい。

「……。まぁ、高校は入試も始まるしな。成績や勉強も大事だと思ったんだよ…。」

間が気になったが、そういうのならそうなんだろう。

もっとも入試が気になると言いながら、悠は成績も学年上位である。

スポーツ、成績、容姿に秀でたハイスペック高校生なのである。

「ゲームしまくってるじゃん。ま、俺は楽しいからいいけどさ。」

このゲームを勧めたのだって悠だった。

俺は面白そうで、おいしい話にありつけてありがたいけどね。


「何か見えるな。」

黄色と黒の線のようなものが見える。

明らかに世界観に反するオブジェクトだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

keep out これより先「禁止エリア」 keep out これより先「禁止エリア」 keep out これより先「禁止エリア」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



というデータテキストが見え始めた。

「これどうするんだ?」

クエストペーパーに記された偵察地点はこの先を指している。

「この先に行けってことじゃないかな?」

「危険じゃないのか?」

データロストとか言ってたぞ。

「説明は俺も受けたけど、ロストしてもまだやり直しがきくレベルじゃない?なら行ってみても良いかもね。」

「そういう考え方もあるか。お前って意外と大胆不敵だよな。」

「そんな驚くか?いやここまでならすぐ来れるって。」

そう言って、「keep out」のデータテキストに歩を進める。

「待てって、俺も。」

「行くぞ、せーの。」

せーの。という掛け声で、同時にデータテキストに触れる。

スカッと身体が通り抜けた。

「なんだ、何も起こらないな。」


そう思い、歩を進める。

すると背後から声が聞こえた。

「よぅ、ここからは禁止エリアだぜ。」

そういった男は、赤のローブに身を包み、剣を携えた魔法剣士のプレイヤーキャラだった。

その帽子には金色に輝く盾の紋章が刻印されていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前  :ノビー(昇)

Lv   :10

職業  :戦士

装備  :鉄の帽子

     ガントレット

     鉄の鎧

     鉄の剣

     鉄の盾

スキル :薙ぎ払い

     ソードステップ

     受け流し

     ボルテージ

     インサイト

アイテム:???の指輪(未鑑定)

     スタートポーション×29

     短刀

     ブーメラン

     緑の雫×24

     コボルトの毛×15

     コボルトの小盾

     コボルトの剣×2

     コボルトの槍

     コボルトの弓

所持金 :120G

――――――――――――――――――――――――――――

名前  :ゆうゆう(悠)

Lv   :11

職業  :魔法使い

装備  :とんがり帽(魔女)

     布のローブ

     木の杖

     火の書01

     氷の書01

     癒しの書01

スキル :ファイア

     チリング

     ヒール

アイテム:スタートポーション×27

     マジックポーション×5

     緑の雫×26

     コボルトの毛×10

     コボルトの槍

     コボルトの小盾

     コボルトの弓×2

所持金 :110G

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