2-5/END ハミ出し王子が吹っ飛んだ

「ただのクローゼットじゃねぇか、!」

「そうですよ、何なんですかっ!!」


 俺は人差し指を胸の高さに掲げ、二度左右に振った。

「お嬢さんたち、扉の隙間をよぅく見るんだぜ!」


 ハミーと上西は、一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐにそれは驚愕へと変わった。

「ハ、!!」


 クローゼットの扉の隙間から、靴下を履いた足が出している。

 しかも!

 その親指は穴の開いた靴下から出しているではないか、敵ながらあっぱれと言えよう。


「さぁ、出てきな!出てきな!!」


 観念した様子でクローゼットから出て来た男を見て、上西が更に驚いた。

「あ、アナタ、どうしてここに? 会社は?」

 上西は明らかに動揺を隠し切れない。


「上西、だからお前は甘ちゃんなんだよ!そいつの顔をよぅく見てみるんだぜ!」

 俺の人差し指は既に攣っていたが、痛みを我慢して俺は奴の顔を指さした。


「ハ、!?」


「ちょっと、さっきから何なんですか!?」

 たまらずハミーが割って入る。


「ふっ、お嬢さん、その写真立ての写真をようっく見るんだな。」

「写真立て!?」


 写真立ての写真を見たハミーは、愕然として写真を落とした。

「ハ、…鼻毛が。」

「上出来だお嬢さん、じゃあ、目の前の男はどうだ?」

わ!この人は一体何者!?」

 

 答えない犯人の代わりに上西が口を開いた。

「生き別れになった双子の弟が居るって聞いてたけど、まさか、あなたが!?」


 犯人は激高した様子で堰を切った様に喋り出す。

「そうさ、俺があんたの旦那の弟さ!

 俺の大切な兄貴を奪ったお前が許せなかったんだよ!

 だから兄貴が出張の時にこっそり入れ替わってたんだ!」 


「それじゃあ、暴力を振るってたのは…。」


「あぁ、上西に暴力振るってたのは旦那じゃない。」

 仏の様に優しく微笑みかける俺を、上西は黒目をハート形にして見つめてくる。

「ハミくん…あの…クソハミなんて言ってごめんなさいっ。」


「おっと、俺に惚れると火傷が出すぜ!」

 俺は上西に釘を刺すと、犯人に向かって言った。


出し者のくせに、鼻毛処理しようとしたのが失敗だったな!」

 出しっぱなしのグルーミングセットを指さしながら、鋭い笑顔を浮かべると、キメ顔を作る。

「言い訳は署でしな!」

 

「やなこった。」

「へ?」

「こうなったら、お前も道連れに殺してやる。」

「ひぃっ、ごめんなさい。」


 奴の右ストレートが俺の顔面にクリーンヒットした瞬間、ハミーの上段回し蹴りが俺の後頭部にヒットし、前に吹き飛ばされた俺は、奴の顔面に直撃した。

 俺と奴はそのままクローゼットの扉をぶち破って、薄い壁に激突する。

 薄れゆく意識の中で、遠心力に逆らえずに飛んでいきそうな程に暴れるオッパイを目にした俺は心で叫んだ。


「これで一件落着とは、あんた、最高だぜ、。」

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