第29話 神たちは魔人の強さに頭を抱える

 勝利の代償として、砕けた石像の姿となった竜の勇者。当然、そのことを神たちが知らないはずがなかった。もはや何度目か分からない対策会議。先輩神は頭を抱えていた。


「やっと増殖するバグの抑制に成功したと喜んでいたら、また問題発生か……」


 遠い目をするように先輩神は呟く。勇者の戦闘能力は問題ないはずだった。なのに、いったい何故、未だ魔王の部下クラスの敵に苦戦し続けているのだろうか。


「でも、今回は惜しかったです」


「本当に惜しい。あの半裸の魔人を解析して、新しい勇者を創りたかったよ……」


「そっちじゃないだろっ! というか後輩も指摘しろ! お前が創りたいみたいなことになってるぞ?」


「なに言ってるんですか、先輩。人形先輩の冗談だってことくらいは、私だって区別できますよ」


「――私が空気を読めてないだけなのか!?」


 ともあれ、前回の魔導人形の勇者に引き続き、今回の勇者も死亡ではないものの、行動不能状態に陥っているのは、神たちにとっても良くない話だった。


「既に勇者だけで5人、賢者も含めれば7人も送り込んでいる。それで魔王が未だに倒せないのは、流石に前代未聞じゃないか?」


「魔王サイドが異常に強いというのが原因だろうねー。普通、魔王討伐までにかかる勇者って多くても三人。というか魔王の配下があの強さなら、魔王本人はどれくらいの強さになっているのやら」


「どのみち魔王を倒すには勇者が必要だ。より強い勇者を創るしかない」


 先輩神が結論付けるや否や、人形神は悪い笑みを浮かべる。設計案となる用紙を宙に生み出すと、創造の力で図や文字を加えていく。


「それなら、ついに時間逆行に手を出しちゃう? 他にも認識汚染とか、因果律操作とか、やばい能力を詰め合わせちゃおう! 創造世界のプログラムに反逆するような勇者、爆誕だ! バグも数十倍に増量確定!」


「やめろ! バグの地雷原すぎる! 創造だけで世界が滅びるぞっ!」


「いやー、世界一つ滅びるだけで魔王を消せると考えれば……」


「なるほど。……って、目的を見失うな! 本末転倒させる気かっ!!?」


「でもさー、真面目な話、後輩ちゃんの創造世界を切り捨てるのは最終手段だとしても、どうするの、これ? 多分、竜の勇者クラスが世界の許容ギリギリスペックだから、本当に打つ手なくなるよ?」


「それを言われると、参ったな……」


 肩をすくめる人形神に、頭を抱える先輩神。悩む二神とは別に、それまで創造世界の状態を険しい顔で確認していた後輩神が、非常に申し訳なさそうに挙手をした。


「……あの、先輩たち、勇者はもう無理です」


「ん?」「なんで?」


「勇者創造にてられるリソースですが、竜の勇者に使いすぎて、もうほとんど残ってませんでした……」


「「…………」」


「勇者創造以外で、どうにかする方法ってありませんか?」


「……これは、詰みか」


「よし、最終手段を決行しよう! 世界の破壊だ、やったぁー!」


 仕方ないと諦めた顔で先輩神が、いそいそとした様子で人形神が立ち上がった。慌てて後輩神は止めに入る。


「ちょっと待ってください!? 待ってくださいよっ! まだ勇者と賢者が全滅したわけじゃないんですよ!?」


「いつになっても魔王討伐に行きたがらない水の勇者と、戦力的に不安な賢者たちじゃなぁ……」


「さあ、後輩ちゃん。破壊神となって世界を滅ぼすのだー」


「絶対に嫌ですよ!? 確かに絶望的かもしれませんが、賢者たちは魔人に対抗しようと頑張ってるんです。それを見捨てるわけには」


「気持ちは分かるし、私も何とかしてやりたいんだけどな……。でも、流石に状況が……」


「さあ、後輩ちゃん! さっさと現実を見据えて、早く破壊神になるんだっ!」


「この人形うるさいですっ! ――それで、先輩! どうにかできませんか?」


 顎下から後輩神の拳をもらって、吹っ飛ぶ人形神。後輩神は構わず先輩神へ詰め寄った。少しだけ無言になった先輩神は思った。これ、ダメと言ったら物理的に制裁がくるやつだ、と。


「……。まだ少し様子見するか、もしかすれば解決の糸口が見えるかもしれない」


「分かりました。ありがとうございます、先輩!」


 吹っ飛ばされて、一人だけ離れた場所にいた人形神は、ひょいと体を起き上がらせた。


「そのまま放置って、なんかボクに冷たくない? でも後輩ちゃん、ナイス右アッパー」


「変態」


 親指を上に立てた人形神に、親指を下に向けた後輩神が召喚したハンマーが降りかかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る