第26話 神は竜を解説する
『あ゛あああああああああ、またバグがああああああああああああ』
「やっぱ案の定、バグが大量発生したねー」
「様子を見に行かなくても分かるくらいの大声だな」
空間の壁を通り越して響き渡る悲鳴。バグ取り作業中の後輩神の絶叫を聞き流しながら、先輩神と人形神は勇者の戦いを眺めていた。
「今回の勇者への仕込みは凄いな。いくつの形態と人格を作ったんだ?」
「全部で三形態。それぞれに別人格を宿してあるよー。まさか魔人相手に披露することになるとは思わなかったけどねー」
対魔王を想定していた人形神は、あまりにも早すぎるお披露目に肩をすくめて見せた。
「勇者のスペックが全然見通せないんだが? 戦いを観察してもよく分からん」
「設計図あるけど見るー?」
『わああああああああん、いつまで沸き続けるんですかこれええええええ』
聞こえる絶叫を意に介すことなく、人形神の手に三枚の設計案が出現する。半竜人、竜人、竜の三形態の勇者の図が手書きで描かれているらしい。のたうち回った蛇のような線で描かれた絵と説明文は、見る前に解読がまず必要だった。
「分からん……」
「今回の勇者は、状況に応じて姿を変えて戦うスタイルだよ。半竜人形態は空中戦が得意でスピード特化、竜人形態は白兵戦が得意で防御特化、竜形態は火力を追求しまくった攻撃特化って感じにね」
「なるほど。で、後輩に付与してもらった能力はどうなった?」
「現象操作のこと? 青い炎の渦巻きとか、雷撃を捻じ曲げる力場とかが発生しちゃってるアレがそうだよ。そのまま与えちゃうと世界が危ないから、形態変化したときの機能に組み込んじゃった。それぞれの姿でやれることの詳細は全部、設計案に載せているから読んでみてよ」
そういって人形神は解読不能な図案を先輩神に差し出した。
「だから、分からん……」
「無理やり組み込んだおかげか、発生するバグが笑えるくらいには、とんでもない量だったりするけどね」
『あははははははははは、すごく増えたあああああああああ、――っ』
「……お前の頭がぶっ飛んでいることは理解してる」
戦況はちょうど勇者が竜の姿に変化を遂げたところだった。
「ただ、魔人がここまで強い能力を持っていたのは誤算だったね。全形態を出して互角だとか、ふざけてない? そんな強い個体を制限つけずに生み出せば、世界の崩壊が早まることに気づかないのかな」
「魔王はむしろ、それが仕事みたいなものだろ……」
「うわー、すっごい嫌な仕事ぉー。流石は魔王だねー」
創造世界を映した複数の画面の内の一つに焦点を合わせて、人形神は茶化すように言い放つ。その映像には全身を黒い靄で覆われた何かがいた。
「どうした?」
「いやー、そろそろ後輩ちゃんの応援に行ってあげようかなってねー。ちょっとくらい好感度稼ぎしとかないと」
「いや、そもそもお前も元凶の一人なんだが……」
「行ってくるねー」
話を聞かずに人形神の姿が掻き消える。残された神は呆れて何も言うことができなかったが、ものの数秒で戻ってきた人形神を見て目を丸くした。
「後輩ちゃん、燃え尽きて微笑みながら倒れてた……」
「――うおおおいっ!?」
ペナルティのバグ取り地獄は二神に降りかかることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます