第22話 神は魔人を観察している

「ねえねえ、ふと思ったんだけどさ、賢者ってどれくらい戦えるもんなのー?」


 空間の狭間には珍しく後輩神の姿が無い。人形神は同期に話しかけていた。


「賢者か? 元々は魔物から人々を守るために、勇者の補佐として創造したから格別な戦闘力はないな。あの小鬼程度なら造作ないだろうが」


「魔人相手じゃ厳しいってことだねー」


 二神は創造世界の状況に目を移した。レイガルランの城壁の外で、賢者と魔人が戦いを繰り広げている。


 初手、賢者の放った暴風で、群がる小鬼たちがまとめて吹き飛ばされ、灰色の魔人が孤立する。多対一に強引に持ち込んだうえで、兵士団の一斉魔法射撃が行われた。


 一方の魔人は黒霧に身を包んだまま、姿勢を崩す気配すら見せない。次々と着弾する火炎や雷光、衝撃波などを受けても余力があるどころか、最初から手を抜いているようにさえ見えていた。


 まだ始まったばかりの戦いを目にしながら、人形神は思い付いたように口を開く。


「硬化の霧に、雷を操る力、さらに透明化。あの小鬼だってあの魔人が生み出したものだよね。今度、あいつをモチーフに勇者を創ってもいい?」


 発言を受けた先輩神は、地上で涼しげな様子で攻撃を受け続けている魔人を凝視して、やがて首を横に振った。


「いや、半裸の勇者は駄目だろ」


「じゃあ、うちの世界の一つに鬼の種族もいるからさ、それをモチーフにして」


「服は当然、着ているだろうな?」


「うん、あの魔人とだいたい同じ格好。パンツだね」


「だから駄目って言ってるだろうが! そもそも勇者がこれ以上増えると、世界の負荷が物凄いことになるからな? 後輩が白目をく」


「あー、今、バグ取りしてるの後輩ちゃんだったっけ。大変そうだねー」


「お前も同罪ってこと忘れるな」


 勇者に全力移動させて、バグを大量増産させたペナルティで、後輩神がバグ取り作業に追われている。一方の人形神は、勇者に施したギミックが稼働するか確認したいと理由を付けて、なんとかペナルティから逃れていた。


「あっはっは。後輩ちゃんには後で謝っとこー。また殴り倒されちゃうや」


「そうならない努力をすべきだろ……。ところで、お前が教育した勇者は本当に大丈夫なんだろうな? ついさっきレイガルランに到着しただろ?」


「問題なさそうだね。丁度、中にいた雑魚を蹴散らしたところみたいだし。――あ、そうだ。ちょっと先に謝っておくねー」


「ん?」


「今回の勇者のギミック、物理現象とか魔法法則とか、いろいろ無視しちゃってるから、負荷が物凄いことになるよー」


「は?」


「しかも頻繁に使用するだろうし、今までより大量のバグが発生しちゃうかもね。いやー、こんな話、後輩ちゃんの前で言ったら殺されちゃうよねー」


「…………。その通りだな」


 様子に疑問を感じて、背後を振り向いた人形神の目先に居たのは、穏やかな表情を顔に浮かべた後輩神だった。


「――呼びましたか? そして話は聞いていたので、とりあえず断罪しますね」


「えっ、後輩ちゃん何でここに? あ、ハンマー準備済みなんだ、そっかぁー」

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