第18話 援軍の予定は神も知らない

「人形先輩っ、勇者はまだ到着しないんですか!」


「……………………………………」


「賢者たちが大ピンチなんですっ! 勇者はどのくらいかかりそうですか!」


 人形神に歩み寄ろうとしたそのとき、後輩神の目の前でガラスが割れるかのような硬質な音が響いた。それまで反応のなかった異形の後姿が、絶叫しながら反りあがる。


「ああああああっ!! ちょっと待って、それは無いよ、後輩ちゃん。せっかく力を入れて造った結界だったのに……」


「えっ、なにか作業中だったのですか!? す、すみません!」


「そーだよ。中にいればどんなことをしていても、真面目にお仕事をしているように見せられるという素敵結界を試験運用していたんだよ……」


「それ、普通に幻影で事足りませんか? そもそも真面目さを偽装する時点であまり良い印象は受けないんですけど」


「後輩ちゃんは勘が鋭いなー」


「――やっぱり、サボり目的なんですねっ!」


「最近、手が出るの早くなってきた気がするー」


 殴られるのに慣れてきたんだよね、という戯言を口にしながら人形神は笑顔のまま吹っ飛ばされた。後輩神からの軽蔑の眼差しすらもはやこたえていないようであった。


 ――――それからしばらく一悶着あって、話は本筋まで戻る。


「流石に焦りすぎだと思うよー。昨日からぶっ通しで全力移動してるし、あと数時間で到着かな。空間が捻じ曲がるほどの速さだよ、凄いねー」


「ぶっ通しって……。つまり休憩なしってことですよね。それ、大丈夫なんですか?」


「問題なく戦えるよ。一週間くらい飲まず食わずでも活動できる体にしておいたしね。倒れることはないんじゃないかな?」


 顔の面に下種な笑みを浮かべた異形姿の神に、後輩神は呆れたような諦めたような視線を送りつけた。そのとき新しい人影が現れる。


「おい、お前ら、バグ取り作業していたら、バグが急激に増殖して作業が追いつかないんだが、何か知らないか?」


「あ、先輩おかえりなさい。多分、今回の魔人が原因だと思いますよ。魔物の群れを動かしているくらいですから」


「いや、それは把握している。私が聞きたいのは、国を縦断するように起きている空間破砕の原因は何だってことだ」


「「……………………」」


 二神は思い出す。勇者の全力移動の反動で、空間が捻じ曲がってしまっていることを。


「ごめん、それ多分仕様。そしてボクにはどうしようもできないんだ」


「先輩、ごめんなさい。大人しく何も言わず、理由も聞かず、世界の為の犠牲になってください!」


「お前ら、仲良くなったみたいだな。そして仲良く私を殺す気か……?」

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