2.城塞都市防衛戦
第15話 神は人外の勇者に郷を覚えさせたい
「後輩、新しい勇者の様子はどうだ?」
「今のところは問題なさそうです。街の人たちにも意外と受け入れられているようで驚いています」
「見た目は人間とほぼ変わらないからねー。自分から素肌を露出させるならともかく、人と同じ服を着ていたら違和感はないさ。それに保険もあるしね」
前回の魔導人形の勇者を召喚してから、二か月ほどが経過していた。次に魔人が生み出されたときに備えて、神たちは新たな勇者召喚を行ったのだった。
勇者にはフード付きの赤いコートを渡してある。偽装効果や力を抑制する効果があり、正体を隠すという点で優れた代物だった。ちなみに色は勇者の要望で決まった。
「ところで召喚位置は言われた通り、国の最南端に指定しましたが前線から離しすぎじゃないですか? 魔人が現れたとき間に合わないような気が……?」
「いや、全然? 彼の全速力なら二十四時間あれば十分だし。むしろ旅をさせて、この世界のことを学ばせておきたいんだよね」
「大丈夫なんだろうな? 自分で『今回の勇者は最高傑作にするから、楽しみにしてて。学習もばっちりにしておくからさ』なんてこと言ってなかったか?」
「勿論バッチリさ。あの勇者には、ボクの世界で生まれた英雄たちの生涯を追体験させてあるんだ。だから前の勇者みたいに経験が劣るなんてことはないと思うよ。……あ」
赤コートの勇者が食事亭と看板に書かれた建物に入るのをみて、人形の神は唐突に話を切った。店員と話をして料金を支払った勇者は席をすすめられ、何か注文をした。そして出てきた皿に載せられた米料理を手で掴んだ。
「よし、おいしく食べているみたいだね」
「……スプーン、ありますよ?」
「ボクの世界の住人は基本的に手掴みで食べてるしね。勇者のベースになった種族の癖が、見事に再現されちゃったってことかな」
食事を終えた勇者は腹をさすりながら店を出た。先払いで良かったな、と神々が呟いていることなどいざ知らず、今度はきょろきょろと忙しなく首を動かし始めている。
「あれ多分、水辺を探してるね。確か食事の後は水浴びをする習慣があったはずだから」
「なんというか苦労しそうな勇者ですね……。一応、街外れにはいくつか水辺がありますし、あの街には海もあるのでなんとかなるとは思いますけど」
「……一応、訊くがまさか泳げないなんてことはないな?」
「まっさかー! 元々は泳げる種族だし全然問題ないと思うよ」
「そうか? まだ人間の体で水の中に入ったことはなさそうに思えるが」
「…………。あ、ごめん。なんか勇者が海のほうへ向かっているのが見えているけど、とにかく溺れないことを祈っといてくれないかな? 不安になってきた」
「神が神頼みするんですか……?」
ちなみに水浴びは海の近くにあった浅い水辺で行われ、勇者への心配は杞憂に終わった。
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