第13話 神は勇者を振り返る

「氷の魔人と勇者の姿が消えたのを確認した。今回は痛み分けというところか」


「凄かったですね。勇者も、あの魔人も」


「うん。うちの子、よく頑張った。立派に戦い抜いた」


「お前、途中で普通に寝ていただろ」


 モニターには、砂漠に残る大穴に一本の白槌が突き立てられていた。激しい戦いの中継を終えて、神たちは一息ついていた。


「三日以内に勇者を創り上げろ、なんて無茶振りに応えてあげたんだ。だから堂々と睡眠をとる権利くらいはあると思うんだよね」


「事情は理解できるが、一回誰かに殴られて来い。勇者が浮かばれんぞ」


「勇者が持っていたハンマーのレプリカなら、すぐ用意できますよ」


 素直に同意した後輩神が物騒なものを持ってこようとしたので、他の二神は慌てて引き止めた。


「しかし、どうするんだい? ああ見えて、あの子も結構ボクの自信作だったわけで。実は魔王もいけちゃうんじゃないかと内心では思ってたわけで」


「私も相性が悪いならともかく、勇者が魔王以外で倒れるとは思ってませんでした」


 恐ろしいほどの力量を見せつけていた氷の魔人だが、所詮は魔王の配下でしかない。魔王に挑む以前に勇者が力尽きてしまうのは、由々しき問題ではあった。


「……言っておくが、今回は力も能力も間違いなく勇者のほうが上だった。問題は、技量や経験を積ませるだけの時間を勇者に与えられなかったことだ」


「うん、それについては悪いことしたと思う。大槌で悪い敵をぶっ飛ばせば、万事うまくいくよ的な説明しか勇者にしてなかったからね」


「勇者の扱いが素で酷すぎませんか。ぶっ飛ばされるべきなんじゃないでしょうか?」


「後輩ちゃん。弁明すると時間が無さ過ぎて、教育とか訓練とかをすっ飛ばさざるをえなかったんだよね。文句は君の先輩のほうにしてくれたら嬉しいなー」


「勇者への説明は、お前の担当だったはずだ。誤魔化すな」


「いやいや、そうは言っても、脳筋のあの子じゃ仕方ないと思うんだよ……ね?」


 沈黙のまま冷えた目で、いつの間にか持ち込まれたレプリカの大槌を手に握りしめた後輩神に、人形の神は慌てて『ストォォォォォォップ!』と叫ぶ。


「一見ぞんざいに扱ったかもだけど、ボクは自分の勇者がどこまでやれるかは分かっているさ。だいたいあの子はコアさえ残ればいくらでも復活できる。コアの反応は確認済みだから、今も生きているのは確定だよ。全然問題ない」


「……え? じゃあ、まだあの砂漠のどこかに?」


 思ってもみなかった情報に、後輩神の表情が喜色に変わる。まだ勇者が死んでいなかったと分かったのは、確かに朗報だった。


「コアさえ見つけられれば、勇者を復活させられるということですね!」


「その通りだよ。だからこの戦いは実質勇者の勝利。全くもって問題ないんだよ」


「……良かったです。てっきり私また勇者が犠牲になってしまったのかと思って」


「ま、探すのは大変だけどねー。コアの反応って、範囲が大雑把で当てにならないから見つかるかどうかは怪しいかなー」


 その瞬間、人形の横顔を、振るわれた大槌がきっちりと捉えて叩き飛ばした。後輩神のフルスイングが直撃して、人形神が空間の彼方へ飛ばされていく。


「言い訳しすぎなんだよ、お前」


 彼方へ飛んでいく同期を、先輩神は呆れた目で見送った。

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