破章 魔人襲来編
1.砂漠の氷像
第8話 さらなる脅威に神は助っ人を呼ぶ
「あの先輩、……追加の勇者を召喚してもいいでしょうか?」
防衛のために勇者召喚をしたい。その話を聞いて先輩神は首を横に振った。
「状況は安定しているのに、勇者召喚をする意味が分からない。勇者ならすでに水の勇者がいる。必要ならさっさと呼び戻せばいいじゃないか?」
「いえ、あの子じゃ今回の事態は厳しそうなんです。魔王がとんでもないものを生み出してきたので」
「……お前の世界で何があった?」
それまで呆れ口調だった先輩神の顔つきが鋭くなる。もし冗談で言っているなら容赦はしないからな、という意思の表れでもあったが、今回は本当に非常事態だった。
「魔王が強力な魔の者が創造したんです。能力は絶対零度。全てを凍てつかせる能力です。ある意味、魔王版勇者ですね。そして完全に……」
「水の勇者にとって相性最悪の相手じゃないか……」
奇跡の力で操った水ごと凍結される勇者の姿が神たちの脳裏にありありと浮かび上がった。
今回の魔の者は強さが未知数。しかし能力だけを見れば勇者が不利。
「……すぐに対策をしよう」
勇者召喚のコストは大きい。強力な奇跡の能力だけでなくその強靭な肉体にも神力が使われている。
勇者が世界の摂理を越えた存在になればなるほど、神側の負担は大きくなり、そして創造世界に与える負荷も大きくなってしまう。
しかし今回の場合は、リスクに目をつぶってでも対処しなければならない事態となっていた。
しばらくして神たちは再び集まる。
「勇者創造は今までお前に一任していたが、今回から役割分担をする。お前は勇者に与える能力を担当してもらう。創造世界を多少、壊してしまう覚悟で創造するんだ」
「壊す!? 大丈夫なんですかそれ!? 調整はもちろん先輩ですよね?」
「ああ、バグなどは私が管理するから大丈夫だ。勇者の素体については私の同期に助っ人を頼んだ。あいつは頼りになる。もう少ししたら来るだろう」
「それなら、安心なんですかね? ……あ、噂をすればこの空間の狭間に誰かやって来たようです」
白い空間の一部に歪みが生じ、誰かの影が中に入りこむ。等身大の異形の者がそこにいた。
形は人間であるのにかかわらず、表面は金属や魚鱗、羊毛など多様な異物で構成されている。背中には機械のような翼が生え、顔には
「……ありゃ、これは魔王案件かな? 擬人創造のアドバイスが欲しいって呼ばれただけなんだけど、もしや嵌められたってやつ? 面倒くさいなー。まぁ、楽しめそうなら大歓迎だよー、ボクはね」
奇妙な姿をした人形は、創造世界から漏れた魔王の気配を感知したらしかった。驚いたようにも、面白がっているようにも取れる素振りを見せながらも、ひとり納得したかのようにその場でコクコクと頷く。
後輩神は先輩の顔を見た。
「すみません、先輩。それで助っ人の神はいつ頃来られる予定なんですか?」
「ボクだよー」
「すまんがこいつなんだ、後輩」
「ははは、先輩も冗談がお上手ですね。こんな怪しい人形が神なわけないですよ」
「実は神なんだよねー」
「……。嘘ですよねっ!?」
とても神とは思えない姿に後輩神は叫ぶ。しかし直後に発された後光が、間違いなく神格を持つ者だと証明していた。認めようとしない後輩に先輩神は語りかけた。
「ちょっと変わった奴だけど実力は確かなんだ。見た目は許してやってほしい」
「こんなぶっとんだ感性の持ち主を神と認めなきゃいけないんですか?」
「お前が言うな! それだけは絶対にっ!」
どうして自分の周りには変な感性の奴しかいないんだ、と常々思っている先輩神は叫んでいた。
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