第7話 神はさらに勇者を支援をしなければならない
「結界に穴が開きました」
「状況は?」
「とりあえず水の勇者が侵入した魔物たちを一掃してくれました」
「そうか、それなら良かった」
「この一か月間ほぼ毎日そんな感じでした」
「…………。結界、ちょっと脆すぎないか?」
「襲撃の頻度が多すぎるんです」
先月、賢者に与えた選別の結界で水の勇者の国は魔物の脅威から守られたように思われた。
しかし現実には強力な個体が結界を強引に突き破って侵入するという事件がたびたび発生していた。結界は壊れても賢者によって修復できる。しかし侵入だけで人々は危機にさらされる。
「どうやら初代魔王の強化と連動して魔物たちも強くなっているみたいだ。まったくずいぶん厄介なものが生まれてしまったな」
「数が相手ならこちらも数の暴力で仕返しです。勇者を一気に百人ほど召喚すれば」
「バーゲンセールか!? 一人の勇者召喚にどれだけのコストがかかっていると思ってる!?」
「……じゃあ無数の使徒を生み出して魔王を直接叩くとかで」
「
「それでは生き残っている人々を強力な兵士に変えればいいんですよ! ……そもそもバグで地上の人間に奇跡の力を与えられないから勇者を一から創造しているんでしたね」
「お前、諦めてふざけていないか? しかし最後の案は悪くないな」
「………え?」
後日、二人目の賢者が召喚された。彼に付与された能力は味方の強化。その力はひ弱な民兵ですら、結界の外を徘徊する魔物と対等に渡り合えるようになるほどだった。
強化の賢者の一声で、多くの解散状態にあった兵士団が次々と再結成されていった。そして強化の奇跡で、侵入した魔物は兵士たちによって返り討ちにされる。結界と強化、二人の賢者の力で国の防衛力は一気に引き上げられることになった。
それから半年後…………
「先輩、大変なことになりました。……水の勇者が失踪してしまいました」
「は? お前、なぜ水の勇者に啓示を与えて引き止めなかった?」
「引き止めましたよ。……でも、自分が人々を守る必要がなくなったからと水の勇者自身がメッセージを残していまして」
「……? 意味が分からない。魔王討伐の使命もあるのだから普通は国に残るべきだろう?」
「賢者たちが育てた兵士団を見ていたら、自分の存在意義が分からなくなってしまったと、水の勇者自身がそのように言ってまして……」
「自信を失うなよ、勇者……。いや、勇者がそう思ってしまうくらいに賢者たちが頑張ったということか。しかし強化の奇跡があるといっても筋力がちょっと増えるだけだろうに……。……っ!」
確認のつもりで画像を切り替えたモニターに映っていたのは、オーガのような顔と体つきをした半裸の兵士たちだった。絶句する先輩神をよそに後輩神は平然と話を続けている。
「魔王討伐はいつかきっとします、その前に私は旅に出ます。そう言い残して、勇者は去ってしまいました。いったいあの子、どうしちゃったんでしょうか……」
「……人間ではあるが、人間じゃないぞ、これ……」
後輩の問いに答えずに、先輩神は画面内の鍛え上げられすぎてしまった兵士たちに目を奪われていた。そして尖りすぎた感性を持つ創造神を持ってしまった少女の勇者に心から同情した。
そりゃ誰だってそう思う。――変質者には囲まれたくない。
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