第6話 神は勇者を支援しなければならない

「これまでは単騎でも敵を蹂躙できる勇者を考えていたが……」


「ううぅ、戦況はじり貧です!」


「魔王も強力な魔物を創りだして配下にしているからな。一人では流石に……」


「そうです。そこです。ああ、でも壁が破られそう……」


「…………」


「あぁ、早くして! 急がないと魔物が侵入しちゃう……!」


「……さっきからお前は何しているんだ?」


 ミーティング中にもかかわらず、後輩神がモニター画面を向いて騒いでいるのを見て、先輩神は怪訝そうに顔をしかめた。


「あ、はい。水の勇者の応援です。彼女、今は最前線で魔物の侵攻を食い止めてくれているんです」


 映像では水色の髪の少女が魔物たちを蹂躙じゅうりんしていた。水を自在に操る彼女は激流で魔物たちの足を奪い、目にも止まらぬ速さで放たれた水弾で次々に撃ち抜いていく。


 瞬く間に一集団を殲滅したと思いきや、別の襲撃された町に向けて、高速で駆けていった。


 召喚されたばかりのときは可愛げがあった少女が成長して、今では勇者として頼もしい顔付きをするようになったじゃないかと先輩神はふと思う。


 創造世界の時間で召喚されてからまだ五年半ほどしか経っていないにもかかわらず、その外見は立派な成人といっても過言でない。召喚時の肉体を十四才くらいに設定していたから当然と言えば当然だが。


「人々を守るために動いたか。この調子で魔王討伐に動いてくれるのなら、支援してやってもよさそうだ」


「それでは先輩!」


「ああ、勇者の支えの代名詞。――賢者を召喚する」


 初めての賢者召喚がこれにて決定された。



◇ ◇ ◇



 前回の勇者が男の子だったから、今度は女の子でいいかと、神たちは賢者の素体を用意する。浮かべた素体を前に、いつものように会議を始める。


「今回はあくまでも人々を守るための賢者だ。攻撃的な力はあまり必要ない」


 戦いは基本的に勇者に任せ、賢者は後方支援を務めるというのが、神たちが想定している運用法だった。


「支援系なら任せてください。治癒の奇跡、浄化の奇跡は私の得意分野です」


「回復も大事だが、防衛能力も欲しい。結界とかはできるか?」


「結界ですか。分かりました! どういったものがいいですか?」


「より多くの攻撃を防げて、より広範囲を守れるものにしてくれ」


 守りさえ万全にすれば、あとは勇者の力ならば魔物程度どうとでもなる。そのような考えの元に発言された先輩神の言葉は。


「その条件なら、やっぱ天罰の結界ですね。やろうと思えば、国一つ覆うこともできますし、触れるもの全てを炎で包んで焼き尽くします」


「ちょっと待て、防御能力どこいった!? 攻撃特化すぎるだろ!」


「敵を先に全て消滅させれば、防御してるのと変わらないですよ?」


 攻撃思考の後輩神によって、見事に曲解されていた。


「強引な理屈を立てるな! 勇者が誤って触れたりして、事故ったりしたら目も当てられないぞ」


「えー。それでは、選別の結界なんてどうですか? ある程度は頑丈ですし、危険な力や邪悪な存在を区別してシャットアウトする結界です。魔物に対しての拠点防衛には便利です」


「……まあ、それなら悪くはないか」


「それでは調整が完了したら、治癒系統の能力と選別の結界を使える賢者を召喚しますね」


「ああ、最後に賢者の肉体を少しだけいじっておけ。見た目の年齢が離れすぎるとあまり良くないだろうしな」


 こうして十六、十七才くらいの年齢の肉体に創造された少女の賢者が誕生した。



 ――――召喚から約一か月後



「どうだ? 召喚した賢者の様子は?」


「問題なさそうです。特に治癒の奇跡は医者不足もあって人々からも喜ばれています」


「そうか。ちなみに水の勇者とはうまく連携とれているか?」


「はい。見たところ仲は良さそうですよ」


「ああ、そうなんだな。一応、聞きたかったのは、勇者と賢者の二人で魔物たちの脅威から国を守れそうかということだったんだが」


「はい。防衛も問題なさそうです。国全体を覆う規模で結界を張らせた甲斐がありました。まあ、ちょっとだけ私も支援したんですが」


「おお、そうか。……いや、待て。勇者のほうは何してるんだ?」


 途端に口を閉ざす後輩神、詰め寄ると渋々と白状し始める。


「どうやら選別の結界、勇者の力も危険と判断しちゃうみたいです。仕方ないので勇者は外に出ないで、国の中に引きこもっているみたいです」


「ニートに逆戻りしてるじゃないかっ!」

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