第5話 強化魔王に神は戦慄している

「魔王が復活したぞ」


 後輩神の部屋の扉を無理やり開けた先輩神は告げる。


「……もう回復してしまいましたか。さすがは私が生んだ元勇者ですね」


「違う。復活したのは初代のほうだ。お前の世界、大変なことになっているぞ」


「……?」


 突然の報告に面食らいながらも、状況を呑み込めていない後輩神は首をかしげた。


「……あの、すみません先輩。もうちょっと分かるように説明してください。さっきまでベッドで寝てて、頭が全然働かなくて……」


「傷心のため休暇をとりますっ、なんて甘えたこと口にできる場合じゃなくなったって言ってるんだっ! 緊急事態だからさっさと戻ってこい!」


「えっ、でも……」


「口答えなんてしないよな? こちとら三日ぐらい徹夜で対応してるんだからな!」


「……神の仕事って、もしかしなくてもブラック?」


「さっさと出てこい。仕事の時間だぁアアアアアアアア」


「先輩が鬼神に変わったああああああああああああああ」


 初代の魔王が復活した。炎の勇者の力と知恵を奪った魔王は、軍を編成して人間の土地や街を蹂躙した。


 戦火は激しく広大で、守りに徹していた水の勇者ですら、前線を後退させるほどまでに追い込まれていた。事態は想定以上に深刻だった。


 改めて創造世界の状況を確認した神たちは、いつものモニターの前で会議をしはじめる。


「それで、また新しく勇者を送るわけなんだが」


「水属性ゴリ押し戦法で行きましょうっ!」


「能力を付与する前に少し注意点があってな」


「私ももう容赦しません。多少、世界を壊してでも大きなバグが取り除けるなら」


「話を聞け」


 冷や水を浴びせる代わりの平手が炸裂した。


「ひてゃい……」


「初代魔王は創造世界における原理、法則を無理やり捻じ曲げるという強力な能力を持つ。知性に欠けていたのが弱点だったが、二代目の魔王もとい炎の勇者を取り込んだせいで、完全に補完されてしまった」


「なおさら火力でのゴリ押ししかありませんね。強い能力を与えて」


「まだ話の途中だ」


 落ち着かせるための平手が炸裂した。


「ひてゃい……」


「そのうえで炎の勇者が持っていた爆炎の能力も、今は完全に奪われてしまっている。これまでの方法で創造する勇者で倒せる可能性は……」


「もう私が直接行って、ぶっとば――ひてゃい……」


 問答無用の強平手が炸裂していた。


「すみません。黙っていますから、お話どうぞ」


「既存の勇者創造では、あの魔王には歯が立たない。だから新しい手法で勇者を生み出さなければならない。ただ能力を与えるだけでなく、肉体も最適化しなければならないし、そのうえ――」


「つまるところ世界を滅ぼせるくらい強い勇者をつくればいいってことですね!」


「――勇者に世界を滅ぼさせるなっ!」


 苛烈な強平手が、後輩神の頬で再び炸裂した。

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