第3話 神は再び勇者を生み出さなければならない
勇者が炎の魔王として活動を始めて、世界中で国家という組織が崩壊した。主要都市は破壊され、一部では、あらゆるものが焼き尽くされた結果、砂漠ができてしまっている。
規模だけであれば初代魔王よりも被害は大きく、後輩神は頭痛のような錯覚すら覚えていた。
「なんで魔王より魔王してるんですか勇者が……」
「……物思いに夢中なところ悪いが次の勇者はどうするんだ?」
「私、そんな子になって欲しいなんて思ってなかったんですよぉ……」
「おい後輩、私という先輩がいることに気づけ」
なおも上の空の後輩神は、拳骨を頭にもらって、ようやく状況に気がついた。それから痛めた手を撫でている先輩神を不思議そうに眺める。この石頭がぁ……と先輩神は漏らしていた。
「さて、だいぶ脱線したが、次の勇者はどうするか決まったのか?」
「はい。水の力を与えるつもりです。現魔王の能力と相性が良さそうなので」
「爆炎に対して水を操る能力か。確かに効果はありそうだが焼け石に水ということは?」
「問題ないですよ、水を創造する能力ですから。むしろ雨雲を呼んだり、水流の軌道を変えたり、大洪水を引き起こしたりとかなり強力な類です。実際、前の勇者……あの子に与えた爆炎を発生させる能力と比べても高度です」
「なら戦力的には問題なしか。それで肝心の内面はどうする?」
「平和や温厚を重視する性格にするつもりです。魔王討伐の使命がある以上、戦わずに引きこもるということはないはずですが……」
「勇者の精神が耐え切れるかを気にしているんだな? ならば責任感も重視するように性格を調整してやるといい。苦しい戦いにも意義を見出しやすくなるはずだ」
「――! 分かりました! それで召喚してみます!」
創造世界基準で四年ほどの時間が経過
またも先輩神の部屋で、後輩神が現状の報告を始める。
「先輩、朗報です。世界の半分が魔王の勢力圏から脱することができました」
「おお、そうか。すると魔王に到達するまでもう少しか」
「…………そうだといいんですが」
「ん? なにか問題が起きたか? まさか戦いで勇者が深手を負ったのか?」
「いえ、勇者は無事です。むしろ元気です」
「じゃあ、どういうことなんだ?」
「平和主義すぎて魔王討伐を嫌がってます……」
「ああ……」
予想できなくはなかった事態に先輩神は苦い顔をした。
「でも、魔王を倒せなければ世界が滅びるのは知っているはずだろ……?」
「えーっと今の魔王は元勇者なので多分、倒しても世界の崩壊は止まらないです」
「初代魔王のほうさえ仕留めればいいんだ。あれは話が通じる存在じゃない。平和主義とはいえ倒すことに忌避感があるわけじゃないだろ」
「無理です。行方不明なので」
「ん?」
「初代魔王は行方不明です。元勇者の炎の魔王が居場所を知っているみたいなのですが、完全に口を閉ざしていますし、だから水の勇者に炎の魔王と戦ってもらって口を割らせないといけない、という話を伝えてはいるのですが」
「ちょっと待て。私が知らない間になんで、そんな面倒くさいことになってるんだ?」
「初代魔王の反応が微弱過ぎて特定できないんですっ! 普通のバグと区別がつかなくて私のほうで誘導できないんですぅ! もう無視していいんじゃないですかこれぇ!」
「いやダメだろ!? つまり炎の勇者が中途半端に倒したせいで、事態が余計ややこしくなり、その勇者も今は魔王になってしまった。……これはもう、水の勇者に頑張ってもらうしかないようだな。――で、今、水の勇者は何してる?」
「人を集めて、国を築いて、現在は城に引きこもる生活をしています」
「王になったのか、ずいぶん動かしづらくなったな……」
「いえ、王は他に立てて、有事に備えて、自身は養ってもらってるみたいです」
「ニートかよ!? それなら魔王を探せよ、勇者だろっ!」
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