第2話 神は勇者を創らなければならない
創造世界の外側にある真っ白な空間の中で、神たちは魔王を観察していた。
宙に浮かぶモニターのようなものには、巨大な黒い獅子が映っている。世界のバグの集合体である魔王に共通の姿形はなく、今回は獣の姿で出現したようだった。
確認を終えた先輩神は後輩に声を掛ける。
「さて、勇者を創らなければならないが、準備はできているか?」
「ばっちりです! 肉体を超強化した人間を創造済みです。しかも本来なら赤ん坊から始まるところを、最初から成長させた姿で召喚します。地に降り立った瞬間から戦える仕様です」
「世界の大部分が魔王の勢力下に置かれている状況だ。召喚してすぐに襲われるということもありうる。立派な対策だな。ちなみに知能面は大丈夫か?」
「完璧です。すべての言語、別世界のことも含む万物や事象のあらゆる知識、戦闘で使えそうな豆知識までも、最初から頭の中に流し込んでおきました。知識量もそこらの賢者よりも優秀だと自負しています」
「ふむ、まるで戦闘のための機械のようだが、事態が事態だけに今回はやむなしか。次に付与してやる能力は決めてあるか?」
「はい! 炎を放てるようにしてあげるつもりです」
「ずいぶん派手な力を与えてやるつもりだな。魔王討伐だから攻撃的なのは構わないが、人に扱いきれる能力か?」
「私の管理する世界には魔法的な力が存在するので、全然問題ないです。皆さん、指から火を灯すくらいのことはできますよ」
「そうか、それなら大丈夫だな、……む? 皆が使える?」
それなら魔法使いの中にも似た芸当ができる者がいるのではないか、という疑問に対して後輩神は首を横に振った。
「能力で操れるのは魔法で生み出すよりも、ずっと強力な爆炎です。そもそも魔法じゃなくて創造の力なので、やれることの規模が違います」
「そうなのか? 私にはあまりピンと来てないが、差別化はできているということなんだな。地上に召喚したら経過を見守ることしかできなくなる。こちらからの手出しは基本的にできない。これでいいんだな?」
「はい! では今から召喚しに行ってきます!」
創造世界基準で三年ほどの時間が経過。
進捗を聞こうと先輩神は自分の部屋に後輩を呼び出していた。
「報告します。創造した勇者が魔王軍に大打撃を与えました」
「お、朗報じゃないか。肝心の魔王は倒せたのか?」
「魔王には深手を負わせ、しばらくは表舞台に立てない程度にまでは弱らせることができました。事実上の勝利です」
「なるほど。とどめを刺すのも時間の問題ということか。良かったな、お前の世界は救われそうだぞ。……そのわりには表情が明るくないな」
「いえ、その勇者が……」
「……ああ、そういうことか。戦いでの犠牲をなくすことは神ですら難しい。今回で魔王を倒しきることができなくとも次がある。あまり気を落とすな」
「違うんです。勇者が、・・・・・・勇者が新しい魔王として君臨しちゃいました。使命の刷り込みばっかりしすぎて良識の教育を怠っていました。すみません」
「一番やっちゃいけないやつじゃないかぁあああ!」
あとで確認した創造世界で街を丸ごと一つ爆炎で吹き飛ばした勇者を見て神たちは青褪めた。
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