6―3
書斎で一人になると、どうしても考え事が増える。
誰かと話すわけではないのだから、仕方ないと言えばそうである。
――私はあと何日で死ぬの? 私が死んだあと、どうなるの?
今のミツコは、『死』で頭がいっぱいだった。
考えてもどうしようもないと分かってはいるが、それでも思考が引っ張られる。
人生の終わりなのだ。
雛鶴ミツコという人間は、あと一カ月も経たずに消える。
「私も、あの執事のあとを追うのね」
四年前に亡くなった執事を思い出す。
あれから、その執事の名を聞くことはなくなった。
新しい執事も入り、生活は何の変わりもなく営まれている。
さも最初から、あの執事がいなかったかのように――
ミツコも姿は覚えているが 、その声や細かな仕草まではうろ覚えになりつつあった。
「人は、死んだらいつかは忘れられていく。それが、この世の理」
頭ではそう、理解している。
だが、どうしても腑に落ちない。
普通の人だった執事でさえ 、この有様だ。
――じゃあ私は? いない者のように扱われ、生きてきた私は?
ベッドで寝返りを打つ元気もなく、ミツコは天井を見つめる。
――きっと誰の記憶にも残らず、早々に消えていく。私という人間は、なかったことになる。
優雅に貴族とお茶をする父母、談笑する姉達。いつものように勉強に励むうつぎ。
写真だってない、お墓なんて『化け物』の分際で作ら れるわけがない。
生きた証が、どこにもない―ミツコはぶるりと体を震わせた。
「それは嫌……寂しい。私が生きた意味は、何なの? 跡形も無く、消えてしまうの?」
何もなかったことになる、忘れられる――それはミツコにとって、死ぬよりも恐ろしいことだった。
「嫌……私、忘れられたくない。せめて……うつぎに 、だけは……どうしても」
うつぎも未来を進む人だ、 いつかは過去になり思い出になる。
――私は、誰かにとって、換えのない命でありたい。
「どうしたら、貴方に忘れられない?」
誰もいない空間に向かってぽつんと呟く。
切実な、彼女の願いだった。
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