6―2
「どうしたの、急に会いたいだなんて。珍しいね」
「いえ、その」
処置が終わり二、三日すると少し体調が戻った。
とはいっても具合は相変わらず悪いままだ。起きて座っているのが、限界だった。
「声からして調子、悪そうだよ。夜更かししないで、早く戻ったほうが……」
「……私、うつぎの話が聞きたいの。物凄く不安で、どうしようもなくて。だからいつもみたいに、いろんなお話を聞かせてくださいな」
そう言って、精一杯微笑む。
うつぎはミツコが倒れたことも、余命宣告を受けたこともまだ知らない。
それを喋った時に、うつぎがどんな反応をするのか――ミツコは怖くて言えない。
「んーとくに変わったことはないよ。あ、でも今日の講義でね……」
そんな彼女の不安を露とも知らず、うつぎはいつものように話し始めた。
学校の話、医学の話、将来の話。
「将来医者になったら、こういうことをしたいんだ」
そう語るうつぎの話の先は、未来を向いている。
――その未来に、私はいない。一緒に行けない。
うつぎの話を微笑ましく思うと同時に、置いていかれる寂しさが込み上げる。
どんなに鮮明に覚えていたくても、過ぎ去った時間は思い出となり、過去となり 、徐々に薄れ消えてゆく。
だんだん、思い出せなくなる。
私は、いつか――
「……忘れられて、しまうのかしら」
「ん? どうかした?」
ミツコの言葉に、うつぎが首を傾げる。
「いっいえ、何でも! 続きを聞かせて?」
慌てたミツコは、話の続きを催促する。
不安が拭えないまま、残り一カ月のうちの、一日が終わった。
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