6―1

「あなたの命は、もって一カ月でしょう」


それは、あまりに唐突な告知だった。

うつぎと会ったあの日から数日後、ミツコはとうとう倒れた。

執事がその異変に気づき知らせると、すぐに医者が飛んできた。


もちろん病院ではない、家での往診。

朦朧とする意識の中で、彼女が唯一はっきり聞いた言葉はそれだった。



――死ぬの? あと、一カ月で……?


長くないと予想はしていたが、第三者から宣告されると、急に現実味を帯びてくる。

言いようのない不安が、ミツコを掴んで離さない。


「わ……わたくし……」


「今は喋らないでください 。……お嬢様を、入院させてもよろしいですか?」


医者が背後を振り返る。

どうやら父親に相談しているらしい。



――入院したら、少しは助かるかしら……。


だが、その僅かな希望は、父親の「断る」の一言で砕かれた。


「こんな奴にかける治療費が勿体ない。自殺じゃなくて病死なんだ。それなら、 家の名にも傷はつかないし、我が家の汚点も消える。綺麗さっぱりな」


「 !!」


――それは、見殺しにするということ?


あまりの衝撃に、ぼんやりしていた意識がはっきりする。


何とかして首を動かすミツコ。

視界に入った父親は、ミツコを虫でも見るかのような目でチラリと見ると、そのまま部屋を後にした。


扉が無慈悲にガチャリと閉まる。

ミツコは自分の心が、急激に冷えていくのを感じた。


「仕方ない、少しでも楽になるよう処置だけしていくか。お嬢様、もう少し辛抱を」


残された医者が鞄から道具を出す。

黙って頷いたミツコは、虚ろな目で処置の様子を見続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る