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日本が、外国諸国に遅れをとるまいと奮闘していた明治大正時代。
この館には、名を聞けば誰もがひれ伏すほどの権力を持った、有名な華族が住んでいた。
外交関係にも口が出せるほどの、有力権者。
誰もが羨み、親しみ、憧れたという。
だが、そんな華族に実は秘密があった。
それは―
「お父様、私は何故、外に出てはいけないの?」
「……」
「お父様、扉の向こうにいるんでしょう? ここから出して!」
「……」
「ねぇお父様! 私、外の光を浴びてみたいのです! 何故お姉様はよくて、私は駄目なの?」
「黙らんか!!」
突如響き渡る男の声。
扉一枚挟んで立っていた少女は、ビクッとした。
「身の程を弁えろ、ミツコ! 一体誰が我が家の『汚点』であるお前を、生かしてやってると思ってるんだ! そこにいられるだけ有難いと思え!!」
「でも、でも私……!」
扉に縋りつき、食い下がる少女。
だが、ドン! と扉を乱暴に叩く音と共に、男の怒気を含んだ声が聞こえてきた。
「いいか、お前は化け物なんだ。そんな姿を人様の前に見せられると思うか! こんな出来損ないがいると世間に知られたら……! お前のわがままで、我が名家の名に一生の傷をつけるつもりか?」
「いえ、そんな、ことは……」
『名家』、『一生』と重い言葉を聞いて、少女の威勢が徐々に失速していく。
追い討ちをかけるように、男がもう一度乱暴に扉を叩いた。
「化け物は化け物らしく、一生そこで密やかに生まれ落ちたことを懺悔してろ!」
「……はい、お父様……」
スリッパの遠ざかる音と共に、静けさが辺りを包む。
「うっ……私、わ、たくし、は……」
扉に寄りかかって、泣き崩れる少女。
その姿は、触れたら壊れてしまいそうなほどに儚く頼りなく、どこまでも白かった。
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