白花は朱と散りてなお

有里 ソルト

プロローグ

あら。こんな所に誰かがいらっしゃるなんて、珍しい。


え、雨宿りで駆け込んだ?


確かに先ほどから、雨音が聞こえてきますね。遠くで雷も鳴っているようで。


……いいですよ、ここでしばらく雨宿りしてくださいな。

貴方がこの館にやって来たのも、きっと何かの縁でしょう。どうぞご自由におくつろぎください。


あぁ、でも灯りがないから真っ暗で不便ですね。灯りを探しましょうか。

貴方も一緒に探してくださいな。



え、君は誰だ? って?


私はこの館の管理人です。


古めかしい、洋式の大きな館。

いつから建っているのかは分かりませんが、蔦が絡まり自然に溶けた出で立ちは、実に趣があると思いません?


……不気味とかオンボロって言葉でまとめられるのは、いただけませんね。


それに怖いって?

ふふ、確かに年数が経っているぶん、現代の建物にはない貫禄がありますね。

小説なんかだと、殺人事件が起きたり、幽霊屋敷として登場しそうなーー


あら、怖がらせてしまったかしら。

ごめんなさい、私そういうの大好きで。


でも、この館にも似たようなお話があるんですよ。


灯りを探している間、お話しましょうか。

真っ暗で何も見えなくても、耳はちゃんと聞こえるでしょう?


むかしむかし、この館に住んでいた、誰にも愛されなかったお嬢様の物語を。

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