トラックネード(トラ台風)

早起き三文

トラ台風

「カテゴリーファイブの台風が接近中、各県は厳重に注意を……」

「それ、早く堤防を作ろう!!」


 防衛隊員のその掛け声と共に、次々と各都道府県に即席の堤防が造られる中。


 ズゥウ……!!


 その台風は、廃棄トラック集積場にと突き進む。




――――――




「台風が来たか……」


 浅井少尉はそう言いながら、朝食のパンとスープを口の中にと放り込む。


「カテゴリーファイブの台風は、そのまま本州を横断する見込み……」

「こっちに来るか……」


 テレビから伝わる天気予報にその目を向けながら、浅井は静かに朝食を終え、そのまま。


「さて、お仕事お仕事……」

「台風の風速は、あ、あれ?」


 彼は仕事にと向かおうとしたが、その時にテレビで、台風情報を伝えているナレーターが、何か慌てたような声を出す。


「あ、あれは!!」

「何……?」

「トラックです、トラックが!!」


 その声、驚きに満ちたナレーターの声に浅井はその宿舎から出ようとした足を止めた。


「トラックが、台風の中で回転しています!!」

「な、なんだって!!」


 中継が切り替わり、そのテレビ内の映像では、確かに。


 グォウ……


 トラック、それが台風の中猛スピードで走り回っている光景が浅井の目に拡がる。


「トラックがトラックが、うわ……!!」


 その台風を至近距離で中継していたナレーターが、そのトラック台風にと巻き込まれ。


「い、異世界が見える!!」


 異世界にと、転生させられた。


「こ、こうしちゃいられない!!」


 浅井はその光景を見て、納屋にと飛び込み、そして。


「異世界転生から、俺がこの国を守る!!」


 チェーンソー、極めて高価なその兵器を取りだし、そして愛車にと飛び乗った。




――――――




「トラックだ、トラックだよ!!」


 すでに街は阿鼻叫喚の坩堝と化し、無辜の住民達は次々と異世界転生を物理的にされていく。


「助けて、俺はファンタジー世界は嫌いなんだ!!」

「イヤー、水洗トイレも無い世界はイヤー!!」


 イ○ズ、エ○フ、その他様々なメーカーのトラックが、住民を襲う姿を見た浅井少尉は、チェーンソーにとその火を入れ。


 ズゥウン!!


 目前で異世界転生をされられそうになった少年を、軽トラックから助ける。


「あ、ありがとうオジサン!!」

「さあ、早く逃げるんだ!!」

「うん!!」


 だが、その浅井のチェーンソーでは頑丈なトラックに対して、一刀両断とばかりはいられない。現に。


「ス○キのトラック、ならば!!」


 浅井はその強敵に対し、気合いを入れて脚を踏ん張り、風にも負けぬ身体を己にと身に付け。


「ハァ!!」


 闘気をチェーンソーにと纏わせつつに、その強力なトラックを撃破する。


 ブォン!!


「くそ、逃したか!!」


 だが、幾つかのトラックはその風の幕から道路にと飛びだし、そのまま走行状態へと入り。


「え、SF世界が見える……!!」

「ア○フガルドだ!!」


 異世界転生を、続けていく。


「くっ!!」


 何も異世界に転生させるのはトラックだけではない、目の前に飛び出してきた転校生の少女を浅井はチェーンソーで切り裂き。


「私は、神だ!!」


 神、異世界転生のニューカマーとも言える神を、チェーンソーでバラバラにした。その浅井の獅子奮迅ぶりを遠目に見ていた彼の部下が。


「浅井少尉!!」

「貴様ら、何をしていた!!」

「すみません!!」


 浅井の鬼気迫る戦いぶりに気圧されたとも言えず、頭を下げたままに、彼浅井の戦いに参加する。しかし。


「トラック台風の風圧が、ますます増していきます!!」

「泣き言を言うな!!」

「しかし!!」


 確かに、その台風はどんどん風速を増し、襲ってくるトラックにもア○リカ原産の強靭なトラックが混じってきた。


「浅井少尉、これを!!」

「ダイナマイトか、よし!!」


 しかし、その投げ入れたダイナマイトはトラック野郎に遮られ、全くその威力を発揮しない。


「くそ、効かない!!」

「台風の目に入れれば、良いのではないのでしょうか!?」

「どうやってだ!?」

「ハイパースカイタワーであれば、宇宙まで通じるエレベーターがあります!!」

「よし!!」


 そう言って浅井は予備のチェーンソーを部下達にと渡し、自身はそのまま軌道エレベーターにと乗り込む。


「邪魔だ、どけ!!」


 またしても襲ってくる食パンを加えた転校生を切断し、神をバラバラにしつつに、浅井は宇宙へと飛び出していく。


「宇宙は無重力で無酸素か、しかし」


 根性でその悪条件に耐え抜き、宇宙にまで襲ってくるトラックをチェーンソーで木っ端微塵にしつつ、浅井はそのダイナマイト「アルバトロス」を身体中にと巻き付け。


「とう!!」


 そのまま、カテゴリートラックの台風、その中央の目にと飛び込んだ……




――――――




「浅井少尉……」


 閃光、それが光ると同時に、トラック、転校生、神、その他異世界アニマル仲間を道連れにしつつ、浅井は殉職する。


「我々は、貴方を忘れません……」


 部下達の敬礼、そして号砲に浅井少尉の星は、チェーンソー座となった。




――――――




次回作「トラックネード・ツー・アサイリターン」

近日公開!!

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トラックネード(トラ台風) 早起き三文 @hayaoki_sanmon

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