第45話『謝恩会の写真』
須之内写真館・45
『謝恩会の写真』
「どうも、こうチグハグなのかねえ……」
焼き上がった写真を並べながら玄蔵祖父ちゃんが言った。
「そう、みんなカワイイじゃない」
横から覗き込んで、軽く揶揄するような言い回しで直美が言いかえす。
「ちがうよ。写真そのものは、いいできだよ、オレが撮ったんだからな」
「じゃ、なにがチグハグ?」
できた写真を祖父の感想などお構いなしに表装していく。直美にとっては、商品以上でもなければ以下でもない。うまく撮れて、お客さんに満足してもらえれば、それでいい。
「ナリと表情がさ……振り袖に袴ってのは戦前の女学生のハレの姿だろ。で、表情が軽いんだよな。どうも人生の節目に立ったって顔じゃない。アキバのコスプレと変わりがない。どう思う玄一?」
ハンパな直美をパスして、玄蔵は息子に聞いた。
「ファッションですよ。父さんのアイビーと同じだろうね」
「あれは、元々チャラさがテーマのファッションだ。ま、今時のダボダボのルーズなやつとは品が違うけどな。でも、振り袖に袴というのはトラディションだろ。もうちょっと神妙にしてもらわんとな」
「ハハ、古いよ祖父ちゃんは」
直美は、そう言いながら、表装した写真を封筒に入れ、お客さんの名前を書き、シリアルをセンサーで認識させはじめた。
「古いかね。しかしな看護婦さんが白の制服でオチャラケていたら、やっぱ変に思うだろ。思わないか?」
「それとこれは……」
そう言いかけて、直美は玄蔵の言うことにも一理あるかなと思った。ちなみに直美は大学の卒業写真はリクルートで撮った。社会人の見習いには、それが一番相応しいと思ったからだ。
そこにお客さんがやってきた、
「謝恩会の写真ですか?」
「はい、わたし一人ですけど」
「かまいませんよ。どうぞ、こちらへ」
スタジオへ案内しながら、直美は感じた。定番の振り袖に袴なのだが、この女の子には、なんだか控えめではあるが凛としたものを感じた。
「わたしが、撮らせて頂きます」
なんと玄蔵祖父ちゃんが、自分から名乗り出た。
「お母さまも、わたしが撮らせていただきました。お祖母様は、わたしの父が……光栄に存じます。息子と孫にアシスタントさせます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
祖父ちゃんは、慣れた様子で、でも、どこかかしこまって写真を撮った。
直美は、この自分より年下の女子大生に、はるかに年上の感覚がした。うまく表現できないが、先日銀熊賞を受賞した黒木華に似た昭和の女性の清楚さを感じた。
「あの子は、四ノ宮篤子さんと言ってな。代々うちで撮らせていただいてるんだ。表装は緑にしてくれ、あの家の色なんだ」
直美は篤子の顧客情報を入力して驚いた。四ノ宮篤子は大学ではなく、高校の卒業であった。
「あの子、十八歳……」
「ああ、旧華族のお嬢さんだ。若い頃は反発して、撮影の手伝いもしなかったが……あの子は本物だよ」
感心して入力を終えると、スマホにメールが入ってきた。
――今年のリムパックに中国が初参加することに、どう思う?――
発信は、冷やし中華の宋美麗だった。こいつも直美の理解を超えた存在だった。本物かどうかは別として。
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