第44話『冷やし中華の会・2』 

須之内写真館・44

『冷やし中華の会・2』          



 冷やし中華を食べ終わって気づいた。


「あ……あの人形替わってません……数も違う?」


 店に入った時、店の奥に五十センチほどの中国美人の人形を中心に、十体あまりのかわいい中国の子どもの人形が並んでいた。

 それが、いま気づくと、人の背丈ほどの武将の人形になっていて、子どもの人形は二体に減っていた。

「ああ、あれ、からくり人形だよ」

「見ていてごらん」

 松岡が言って、鈴木が後を続けた。美麗は、あいかわらずニコニコしている。


 人形は、若々しいイケメンの武将だった。見ていると、子どもの人形が近づき、武将の人形に取り込まれたかと思うと、武将は一回り大きくなって、鍾馗さんのようなイカツイ武将に変わった。

「どういうからくりかは分からないんだけど、あんな風に変化するんだ」

「この店の名物」


 すると、厨房から、店の主人が出てきた。


「さすがに冷やし中華の人たちですね。気が付かないで帰ってしまうお客さんも多いんですよ」

「あ、ここの亭主の陳健太。もち、会員ね」

 親子ほど歳の違う亭主をオトモダチのように美麗が紹介した。

「陳さん、今日は人形の変化早くないかい?」

「ハハ、ばれたか。気づいて欲しいから、少し早くしたんだ。いいかい見てて……」


 陳さんは、中国の気功師のように体を動かし、気を溜めた。


「アイヤー、ハイッ!」


 陳さんが、かけ声をかけると、人形は数秒で、五体ほどの少年と少女の人形に変わった。武装している者もいれば商人風の者、京劇のヒロインのような美少女もいた。


「すごい、どういう仕掛けなんですか!?」


「仕掛けは分からない。先祖伝来のからくり人形だからね」

 大まじめの陳さんの脇で、三人の先輩会員がニヤニヤしている。

「こんな顔して、中華料理屋の亭主に収まってるけど。T大の工学部の出身。食えないオヤジだよ」

「食うのは料理だよ。わたし食べられたら、料理作れないからね」

 マジな顔で言うので、みんな爆笑した。その間に人形は三体の美人に変わっていた。

「この三美人が一番」

 陳さんが手を叩くと、三体のコスがAKBのように変わった。

「おお、新しいバージョンになった!」

 オッサン二人が喜び、美麗は人形のケースの側まで行って、屈んでスカートの中を覗いた。

「ちゃんと、へっちゃらパンツ穿いてる! これ脱いだらどうなってるの?」

 見かけに似合わず、変なことを聞く。

「それは、中国の国家機密」


 すると、三体の人形はAKBの曲で踊り出した。


「すごい、ここまでできるんだ!」

 オッサン二人の感嘆の声。直美は、ただただ驚くばかりだった。

「東大阪の友達が、手伝ってくれたんだ。最新のハイテク」

「すごいんだ!」

 直美は、ただただ感心。

「この人形には意味があるんだ」

 松岡が、真面目な顔で言った。

「これ、中国って国の象徴だね」

 鈴木が後を続けた。


 AKBの曲が終わって、陳さんが、のんびりと言った。


「中国は、この人形みたいに、大きくなったり小さくなったり、まとまったり、バラバラになったり。これがナショナルポリティーなんだな」

 直美は、始めて気づいた。堯舜(ぎょうしゅん)や春秋の昔から、中国は、分裂と統合をくり返してきた。この人形は、それを暗示しているのだ。


「ハハ、直美さん。マジにとられちゃ困るなあ、ただのオッサンのスケベエ根性ですよ。わたしは、このAKBの三体が一番のお気に入り」

「陳さんも、いよいよオタクかな?」

 美麗が冷やかす。

「失礼な。とっくの昔からオタクだよ!」


 一同が、いっせいに笑った……。

 


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