第23話『乃木坂学院高校演劇部物語』 

須之内写真館・24

『乃木坂学院高校演劇部物語』     



「あら、まどか!?」


 仲鉄工のオバサンが目を丸くしNOTIONの女専務もにこやかに寄ってきた。

「アズマテレビの収録を朝までやって、家に電話したら、ここで忘年会だって言うから、やってきちゃった」

「まあ、大歓迎だわよ。まどか、ご挨拶して。今日お世話になる須之内写真館のみなさん」

「あ、突然押しかけて申し訳ありません。懐かしの忘年会っていうんで、アポ無しでやってきて」

「いいえ、まどかさんが、仲さんの娘さんだなんて知らなかった。大歓迎です!」

「あの……実は、あたしだけじゃないんです」


 その言葉が合図だったように、続々とスタッフが入ってきた。


「お久しぶりです。仲さん、伍代さん。まどかが、町内の忘年会だって言うもんで、便乗して取材させていただきにまいりました」

「まあ、白羽さんじゃありませんか。娘がお世話になりまして、『春の足音』のロケ以来ですね!」

「実は、来年の春に『乃木坂学院高校演劇部物語』をドラマ化することになりましてね。舞台の半分は南千住なもんで、モデルになる街の方々に一遍にお会いできるいい機会だと、お邪魔いたしました」


 直美は、すかさずスタッフの人数を確認して、奥へ引っ込んだ。


「いい写真館ですね。俗な言い方ですが、昭和の匂いが残っています」

「恐縮です」

 玄蔵爺ちゃんと、息子の玄一が照れて頭を下げる。

「白羽さん、このディスプレーいいですよ!」

「ほう……凝ってますね」

 スタッフとまどかがショ-ウィンドウのディスプレーに向かった。

「うわー、入って来るときには気づかなかったけど、サンタが飛び回って写真にライトが当たるのいいですね」

「写真もいいですね。このルミナリエと、この昔風の女先生みたいな女性」

「その写真は……」


 玄蔵爺ちゃんは、写真についての話をした。


「……そんないい話があるんですか。やっぱり、こういうモノには写す方と写される側の人間が出るんですなあ」

「いやあ、勉強になります」

 カメラさんが、いっそう熱心に写真を見始めた。

「このドレスの女の子、いいですね」

 カメラマンは、杏奈のドレス姿の写真に目を付けた。

「この子、ほとんどノーメイクみたいですね」

「照明も、当たり前のシュートだ」

 メイクさんと照明さんがプロらしく分析をしていく。

「キレイと可愛いの中間だけど、人物に奥行きを感じますね」

 と、プロディユーサー。

「会ってみたいな、この子……」

「スカウトだったら、手遅れですよ。この女先生のひ孫といっしょに、ヒカリプロで修行中です」

「残念……」

「デビューしたらひいきしてやってください」


 そして、夕方になると、南千住商工会の面々が集まってきた。みんなテレビのクルーと仲まどかが来ているのに驚いている。


「オイチャン、おひさー!」

「べっぴんになっちまって」

「爺ちゃんも来たの?」

「ああ、まだお迎がこねえもんでな」

「見てくれよ、まどかちゃん。うちの子、こんなに大きくなっちゃった」

「うわー、奥さんにそっくり!」

 下町らしく話が盛り上がったところで、もう一人客が来た。

「わあ、はるかちゃん!」

 まどかの先輩女優の坂東はるかがやってきた。

「水くさいわよ、まどか。局で聞いてやってきちゃった。みなさんご無沙汰してます」

「いよー、掃きだめの鶴が揃った。会長、乾杯しましょう!」


 坂東はるかは、NOTIONの社長の離婚した奥さんとの間の娘だが、なんのくったくもなく、父や父の新しい妻である秀美さんともうちとけている。直美は、二人の自伝的小説『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読んでいたので内実は分かっていたが、現物を目にすると感じるモノが深く。気が付くと何枚も写真を撮っていた。

 酒とサカナは、直美が気を利かして追加注文しておいたので、テレビクルーも食いっぱぐれることもなく、ご陽気に宴会は進んだ。


「直美さん、いい写真撮りますね!」

 

 撮った写真をセレクトしていると、カメラマンが覗き込んで感心した。

「この撮り方……雑誌で時々……直美さんでしたか!?」

 さすがはプロ。見抜いてしまった。

「そうだ、こんどの『乃木坂』の企画に直美さん入ってもらえませんか。どんな形かはあとで考えて、直美さんの感性はピッタリだ!」


 で、意外なところで仕事の話が決まった。


「直美、集合写真撮るの忘れてるぞ!」

 玄蔵爺ちゃんが気がついた時は、みんな出来上がっていた。

「今から、撮りまーす!」


 実にご陽気で人間的な集合写真が撮れた。


 まどかとはるかのシャメといっしょに、杏奈と美花に直美は転送してやった。





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