第21話『大阪福島区ストリートミュージシャン・2』
須之内写真館・21
『大阪福島区ストリートミュージシャン・2』
取材費二万円というと、ピッタリの店を紹介してくれた。
さすが、大阪の区役所。商店街の『くう亭』というリーズナブルなお店を紹介してくれた。
直美の他に、ササオカの二人に桔梗さん。そして区役所の野田さんと福島さん。
「大阪のお客さんて、暖かいですね」
直美の第一声から始まった。
「いや、あんなもんとちゃいます」
桔梗さんが、すぐに返してきた。
「ほんまにノったら、あの広場だけでは収まりません」
ササオカの笹岡さんが、ビールといっしょに重ねる。
「阪神優勝したら、心斎橋あたりは歩けませんよってに」
「八年前のリーグ優勝のときも、すごかったもんな」
ササオカのちゅんが泡を飛ばした。
「ハハハ、ボクあの時戎橋から道頓堀に飛び込みましてん」
百円の串カツを器用に一口で食べながら野田さん。
「え、で、今は公務員ですか」
「別に犯罪やないですよってに」
「せやけど、福島の取り組みは、あんな風にはしとないんですわ」
「一回そうさせてから、言えや」
「いずれ、そないなります。その時は喜んで、福島さんの首差し出します」
「え、わしの首だけか!?」
「その時は、うちらで事務所作って拾たげますがな。野田さんもいっしょにマネージャー」
「漫才やってもろてもええなあ」
「ええ、ええ、福島区役所出身の福島・野田コンビ、いけまっせ!」
「そんな、アホな」
「アハハハ」
やっぱ、大阪のノリはいい。けして無口ではない直美も、ひたすら聞き役、笑い役であった。
「せやけど、大阪で若者文化育てよ思たら、赤ちゃんのオシッコですわ、直美さん」
「赤ちゃんのオシッコ?」
「いろいろヤヤコシイ!」
アハハと、三人は爆笑したが、直美は意味が分からない。
「大阪弁で、赤ちゃんのことヤヤコて言いますねん」
「あ、ああ。野田さん、公務員にしとくには惜しいセンスですね」
「なんの、こんなん挨拶代わりみたいなもんですわ。この取り組みも金がかからんいうことで動き始めた事業ですよって」
「ほんま、大阪の財政は……」
「ヤヤコの行水ですわ」
「それ、なに。野田さん?」
「分かった、タライで泣いてるや」
「あ、そうか!」
で、大阪人だけで笑いになる。
店の大将が「足らなくて泣いてる。大阪弁で足い(たらい)で泣いてる」と解説。直美は、東京弁に変換してやっと分かった。
「大阪は、元来、受益者負担の土地柄なんですわ。やりたかったら、自分でどないかせえですわ」
「東京だったら、都や区でなんか手をうちますけどね」
「ああ、ヘブンリーアーティストでっしゃろ」
「大阪は、福島だけですわ」
「昔は、あったんですよ。森ノ宮に青少年会館があって、安うにスタジオとか貸してくれて……うちら育ってきたんわ、そこからですわ」
「ああ、あれ、採算が取れんいうんで橋下のオッサンが、まっさきに潰したんでしたな」
桔梗さんと崎岡さんは、見かけによらず古株のようだ。
「あれ、潰したら、直ぐにマンション建って。最初から売り先決まっとたらしいでっせ」
「え、議会に通す前にですか」
「橋下さんなら、やりかねまへんわな」
さすがに、福島さんと野田さんは黙ったが、橋下さんに人気がないのが意外だった。
明くる日、ホテルを出ようとしたら、狭いロビーに福島さんと桔梗さんが待っていた。
「このDVD東京で見てもらえますか」
「登録してるアーティストの実演と、プロモーションです」
「分かりました、勉強させてもらいます」
受け取ったDVDは五枚あった。いろんな人に見てもらいたいという意気込みなんだろう。同じDVDが五枚であった。
福島さんは時間休をとって、桔梗さんはバイト前の時間を割いてやってきてくれた。
三人でシャメを撮って、杏奈と美花に送ってやった。
――こんなガンバリ方もあるんだぞ――と、メッセを付けた……。
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