第20話『大阪福島区ストリートミュージシャン・1』
須之内写真館・20
『大阪福島区ストリートミュージシャン・1』
珍しく雑誌社から取材の仕事が舞い込んだ。
写真の他に記者としての取材も含まれている。よく投稿写真にコメントを付けて出している週刊文芸からの依頼だ。
「若者を見る目に新鮮さを感じる」
担当さんのヨイショに乗っかった。アゴアシドヤ代をさっぴくと三万ほどのギャラにしかならないけど、二十二歳の直美は、仕事というよりは、良い勉強だと思って引き受けた。
場所は大阪の福島区である。
東京には、ヘブンリーアーティストという制度があって、都の認定を受けると、東京ドームの横っちょとか指定された場所で路上パフォーマンスが出来て、現在、パフォーマンス部門309組、音楽部門84組が登録している。いま流行りの女の子のユニットも、ここの出身である。
ところが、大阪には、こういう制度が無く、アーティストである前に府の騒音防止条例の取り締まり対象でしかなかった。維新の会が府政・市政を握ってから、取り締まり、あるいは無視の傾向が強くなったという人もいる。
福島区は野田阪神駅を中心に三つも商店街がありながら、隣の梅田に食われてしまい、その沈滞ぶりに危機を感じた区役所の発案で行われている。まあ、大阪らしく路上ライブを観にきた人たちが、地元にお金を落とす消費者になってほしいという計算もあるのだが、若者文化を育てようとする姿勢は評価出来るし、東京のヘブンリーとの違いなども知れると直美は意気込んでいた。
火・木・金曜日の18時~20時に行われるので、木曜の午後新幹線で大阪に向かった。
会場の野田阪神駅前広場は、普通の駅前広場だった。
玄蔵ジイチャンから。昔の新宿駅西口のフォークゲリラの話など聞いていたので、拍子抜け。五時半になると、あらかじめ連絡をとっていた区役所の野田さんが、仲間を連れてやってきた。
「やあ、どうも。須之内さんですね。区役所の野田です。こちら福島です。なんかシャレみたいやけど、よろしゅうにお願いします」
「こちらこそ。そろそろ始まるんですか?」
「もう、来ると思います。なんせ、ほとんどの人らがバイトなんかしながらですよって、いつもギリギリですわ。お客さんは……集まり始めてますなあ。あのギターかついだ高校生なんか、そうですわ」
「え、たこ焼き屋の客じゃないんですか?」
「近所の高校の軽音の子ぉらですわ。ああやって、ちょっとでも地元に興味もってくれたらなあと思てます」
「この五月からやってるんですけどね、チョットずつ若い人らが増えてきてます」
「あ、来ましたね……」
相前後して、三組のミュージシャンたちがやってきた。寒空の下なので、みんなモコモコのナリをしている。
「すみませーん。東京から取材にきた週刊文芸の須之内って言います……」
てな調子で、集まった三組のミュージシャンに自己紹介と取材許可をとる。サキオカというディユオと、桔梗というソロに終了後の取材のOKをもらった。もう一組は、このあと道路工事のアルバイトでアウト。残念がっていた。
時間になると、三組ともモコモコから、すっきりの勝負衣装になり、広場の三カ所に別れて歌い始めた。
野田さんと福島さんは、演奏する側がルール通り(アンプのボリュームや、場所とり)やっているかを見ると同時に、ミュージシャンの身に危険がないように張っている。なんせ年の瀬、酔っぱらいが絡んでくることもある。
直美はカメラとビデオの両方を使い分け、さらに合間を見ては、観客の人たちにインタビュー。
「あなたたち、ファンなの?」
タコ焼きの高校生に聞く。
「はい、うちら軽音やよってに、めっちゃ参考になります!」
「タダやしなあ!」
「これで刺激受けて、テンション上げるんですわ。で、来年はスニーカーエイジの本選めざします!」
スニーカーエイジというのは関西の軽音高校生の甲子園で、本選に当たるのが今月行われる舞洲アリーナの本選である。
「若い人が来るいうのは、ええこっちゃねえ。まあ、地元にお金がおちるのには、ちょっと時間かかるやろけどね」
「せやけど、あの桔梗いう子、いけてるね……ここから、スターが生まれると嬉しいなあ」
「うん、スター性はあるなあ」
OLとおぼしき二人はリズムをとりながら、軽く論評した。心なしか、東京のストリートパフォーマーよりも、観客との一体感が強いように感じた。
ササオカのデュオは、もうコンビと言った方が良く、曲の間のトークでも観客を飽きさせず笑いをとっている。
――がんばってるなあ――
大阪まで来て良かったと思った。東京に帰ったら、あの二人にも話してやろう。
杏奈と美花は、光会長の家に住み込み、アーティストとしての第一歩を踏み出した。出発の仕方はいろいろ。みんな頑張れと、直美は思った。
そして、演奏終了後のミュージシャンたちの口から、豊かな夢と厳しい現実を聞くことになった……。
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