第15話 揺れる心

「あなたも親がいないの?」

 初めて他人に興味のないイバラが美杉に関心を持った。自分と同じ境遇だという美杉に共感を感じたのかもしれない。

「うん! 私もお父さんとお母さんがいなくて寂しかったけど、でも、私にはお兄ちゃんがいたから。」

 美杉は、教室で転校してきた黒夢クロムと暴れている兄の望を感謝の瞳で見つめる。

「お兄ちゃん。」

 イバラも望を見る。

「そうね。もし私にも兄や妹など兄弟がいれば、ここまで心が闇に落ちなかったかもしれない。」

 イバラの孤独の深さを感じさせる。

「イバラちゃん! 私たち友達になりましょう!」

「と、友達!?」

 天涯孤独に生きてきたイバラには鳥肌が立つ聞きなれない言葉であった。

「両親のいない者同士、きっと仲良くなれるよ!」

「仲良くなれる!? わ、私に友達ができる!?」

 一人の時が長すぎて、幸せの申し出を素直に受け入れることができないで戸惑うイバラ。

「望お兄ちゃんもいれて、みんなで一緒にキャンプに行ったり、水着を着て流れるプールで楽しく一緒に流されようよ!」

「た、楽しそう。」

 イバラの心から棘の無い本音の言葉が出る。

「はいはい! 望が行くなら、私も行くわよ!」

 そこに希が出しゃばってくる。

「ダメです! 希さんは、お父さんもお母さんも生きてるじゃないですか!」

「ええー!? なんで!? いいじゃない!?」

「ピクッ。」

 敏感な乙女のイバラの心が、この目の前の女には両親がいるんだと感じる。美杉と両親がいないことを共有することで少しずつ溶け始めたイバラの絶対零度の氷が、再び強の冷凍のスイッチが入ってしまう。

「いいわよ。美杉ちゃん。キャンプや流れるプールに行ってあげても。」

 その時、イバラが口を開いた。 

「やったー!」

 素直に喜ぶ美杉。

「ただし、この幸せそうな女を不幸のどん底に落としたらね!」 

 心の屈折したイバラと遊ぶには条件付きだった。

「なぜ!? そうなる!?」

 希は、この女とは絶対に仲良くなれないと察した。


「フッフッフ。どうだ? このクラスの連中は私の悪夢の世界の中にいる。私の操り人形だ! ワッハッハー!」

 いつの間にか望のクラスメートは、クロムの悪夢に操られていた。

「クソッ!? クラスメートが人質では、反撃できない!?」

 望は、人質を取られて身動きが取れなかった。

「いけー! バッド・ドリーム・パペットどもよー! 死ねー! 幸せ野郎!」

「クッ!?」

 クロムが望に攻撃を仕掛ける。

「やめなさい!」

 その時、クロムの攻撃を止めたのは、イバラだった。

 つづく。

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