第16話 この女の1番の不幸は?

「やめなさい!」

 クロムの望への攻撃を止めたのは、イバラだった。

「た、助かったのか!?」

 望は、自分を助けてくれたイバラを見る。

「なぜだ!? なぜ止める!?」

 クロムには、イバラが攻撃を止めるのが不思議だった。

「少なくてもクラスメイトよ。手を出さないで。どうかしら? 学校の中で魔法を使って攻撃するのは、お互いにやめましょう。」

 イバラは、望に呼びかける。

「お、おお。学校の中くらいは平和に暮らしたな。」

 望もイバラの停戦の呼びかけを受け入れた。

「勝手に決めるな! 私だけでも、こいつを倒してやる!」

 しかし、クロムはイバラと望の休戦約束を反故にしようとする。

「おまえ、死の世界へ連れていくぞ?」

 イバラは、凄んだ目で、かなり低い声で、膨大な魔法力を放出して警告する。

「クッ!? なんなんだ!? たかが魔犬ヘルハウンドの魔法力だけで、これだけ威圧的で死を感じるオーラが出せるものなのか!?」

 クロムはイバラの闘気に気圧された。 

「わ、分かった!? 停戦に応じる!? 応じればいいんだろ!?」

 クロムは、クラスメイトを悪夢の世界から解き放った。

「それでいい。」

 イバラは、落ち着き普段通りの口数の少ない姿に戻った。

「覚えていろよ! 放課後になったら勝負だ!」

 クロムは去って行った。

「ふ~う、疲れた。」

 望は、ぐったりと疲れ切っていた。

「望お兄ちゃん、イバラちゃんが助けてくれたんだよ。」

「イバラちゃん?」

 美杉は、望にイバラは良い人だと言う。

「あり得ん。あんな暗そうな地味で陰気臭い奴が人助けをするなんて。」

 しかし、望は今までのイバラの行動から信じられなかった。

「イバラちゃんは良い人です! お姉ちゃんの言うことを聞きなさいー!!!」

「おまえは妹だろうが!?」

 少し望と美杉の中がぎくしゃくしてきた。

「望! きっと美杉ちゃんは、悪夢の魔法にかかっているのよ!? きっと、自分のことを良い女だと売り込めと暗示をかけているのよ!?」

 希は、美杉との間にイバラが割り込んでくることが嫌だった。

「誰がそんなことをするか。」

 イバラは、何事もなかったように不愛想に教室の窓から遠くを見つめていた。


「ただいま。」

 学校も終わり望は自宅に帰ってきた。

「お邪魔しています。」

「黒花イバラ!?」

 望が自宅に帰って来ると、イバラが祖母祖父と美杉と仲良く夕飯を食べていた。

「なぜ!? おまえがここにいる!?」

「美杉ちゃんに夕飯に呼ばれたので。」

 イバラは考えた。あの女を不幸にするにはどうすればいい? それは希の幸せを奪うことだと。 

 つづく。

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