クエスト 3:『悟りと真実』

 マサと再会し、その正体を互いに暴いてから、先の酒場へと戻ることになり、二人は町中を歩いていた。


「《イフ》?」


 その途中、マサが光太郎を見ながら疑問符を浮かべていた。

 だがそれは、質問ではなく、答えの出ているものだった。


「それがお前のアバターネーム?何故に《イフ》?」


「なんとなく」


「あ、そ」


 光太郎のアバターネーム《イフ》について、軽いノリで終わったところで、道中、イフは電子掲示板に目が留まる。

 そこに、この世界きっての大イベントについて書き記してあったから。


「なぁ?」


「ん、どうした?」


「《オーバーロード》はいないのか?」



 ――《オーバーロード》。


 それは、この世界に存在するアバター種族をもととしてつくられた三か剣士の国:ミーン』《武士の国:ビリーフ《騎士の国:プロウド》と他一か国である《謎の国:メイズ》の計4か国で開かれる変則デュエル大会であり、それを勝ち抜いた者に与えられる称号のこと。


 このゲームの醍醐味と言ってもいいほどの大規模なオンライン対戦であり、その4か国を制した者が《ダイナスト》というこの世界最強の証を献上される。


 補足として、イフたちがいる国は、アバターの種族が剣士のため《剣士の国:ミーン》だった。


「ああ……近いやつっていうのなら知ってるけど、正式になったやつはいないかな」


「そうなのか?」


 あまりのことに少し驚いてしまう。


 ゲームができて3年。

 なのに、誰一人として、制覇の兆しを持つ者がいないというこの現状に。


 イフが驚く姿に無理もないというように、マサはわけを口にする。


「だってよ、クエスト達成率が4大陸合わせて100パーセントのこの世界で、一つの国に200のクエスト。合計800ものクエストを達成して初めて攻略クリアだ。そんな中で、《オーバーロード》になるためには、その大陸の大会に出て、優勝しないとならない。それでいて、クエスト達成率が12.25パーセント、つまりは一か国の半分、100はクエストを達成していないと、大会規定として、参加はできても献上されねぇんだ」


「へぇ~」


 マサの現状の説明に相槌を浮かべるイフ。

 この世界の厳しさを身をもって知っているうえに、この世界の愚痴については現実リアルで司から耳に胼胝ができるほど聞かされていたから。


「全く、開発者の顔が見てみてぇもんだよ」


 やれやれというように「なんで開発者の顔が全員非公開なんだか……」と相変わらずの愚痴を溢すマサ。


 ただその疑問に、イフは平然と答えていた。



 ――何故なら、 



「あ、それ俺だね」


 それが、真実だと悟ってしまっていたから。


「そうかい……って、ん?」


「……?」


 それを平然と受け入れ気味だったマサ。

 が、案の定、再び動作が固まり、考え込んでいる。


「お前今、なんて言った……?」


「何も?」


 口を開いたと思えば、理解が追い付いていないようだったので、イフはあえてスルーすることにする。


「だよなぁー、お前が開発者って聞こえたのはやっぱ俺の空耳だよなぁ~!」


「うん、俺だね」


 再び、変な汗を垂らしながら現実逃避のような繰り返しをするマサに、イフはからかい口調で合わせるように答えるのだが、


「~~っ?」


「……?」


 マサがイフの言動に疑問符を浮かべ、イフも同様に疑問符を浮かべる事態。価値観の違いなのか、受け入れ方の問題なのか、二人の歯車は今一噛み合っていなかった。


 三度起こるラグのような静寂フリーズ


 そよ風と何かが隣を横切っていくことにイフは目を惹かれていると、マサはやっとかというように動き出す。


 ほんと、ラグを起こしていたんじゃないかというように。


「マぁああああジかああああああああああああぁぁぁぁッ!!」


 驚きは案の定のもので、イフは横切っていく生き物と触れ合いながら微笑ましくも答える。


「マジっす」


「ノリかっる!?嘘だろ!?」


「嘘」


「……」


「ではない」


「どっちだよ!」


「信じるか信じないかは君次第!」


「謎の絞め方してんじゃねぇよ!」


 からかいがいのある相手に、退屈しないなぁと思うイフだった。



「んじゃぁ、証拠見せろよ証拠」


 少しの間をおいて、「仮にお前が開発者だとして」という流れから、マサは証拠の要求をする。


 そのことに、「え~、んなもんねぇよぉ~」と答えるイフ。


 機嫌を損ねているのか、マサは「ほらみろ、嘘じゃねぇか」とよくある反応を見せていた。



 ――なので、



「うーん、俺にできる事つったら……」


 メニューウィンドウを開き、とある操作を行うイフ。

 画面をタッチしていき、最後、『よろしいですか?』というシステムの問いに『はい』を選ぶ。



 ――すると、



 空に花火が打ちあがり、破裂し、盛大な紙吹雪のエフェクトがあらわになる。

 そのことに周りは「何だ何だ?」「何かのイベントか?」という反応を示している。


 マサはというと、無言でイフの頭上を眺めている。

 周りは気づいていないだろうが、先の演出で最も変化したものが、イフの頭上にあったから。


 『テレレレッテレ~♪』というレベルアップの効果音。

 《Congratulation!!》というエフェクト。



 ――そして、



『《剣士の国:ミーン》の《オーバーロード》に昇格!』

 

 

 目を疑う光景が、そこにはあった。


「……」


「ふむ」


 無言のマサ。

 理解しきれていないようなので特別に、イフは追加でシステムをもう3回ほど作動させる。



 これが、現実だというように、相手の驚嘆する姿に深い面白味を感じながら――。



 『テレレレッテレ~♪』×2

 『Congratulation!!《武士の国:ビリーフ》の《オーバーロード》達成!!』


 『テレレレッテレ~♪』×3

 『Congratulation!!《騎士の国:プロウド》の《オーバーロード》達成!!』


 『テレレレッテレ~♪』×4

 『Congratulation!!《謎の国:メイズ》の《オーバーロード》達成!!』



 『おめでとう!君が《ダイナスト》だ!!』



「……」


「ふぅ……」


 システム作動を終了し、一息入れるイフ。

 未だ無言のマサ。もうこれはラグである。


 そのため、今さっきの会話を思い出させるように、会話を戻す。


「俺にできることつったら、こうやって《オーバーロード》になって、《ダイナスト》に昇格するくらいで……」


「それただのシステム悪用じゃねぇか!」


 平然と答えるイフに、言わせねぇよというように率直なツッコミが入る。そのことに、やっと動いたかと秘かに微笑する。


「ふ、製作者がシステムを悪用しないでどうするよ」


「ドヤ顔で言ってんじゃねぇ!」


 安定のツッコミはキレッキレだった。


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