44
宴もそろそろ終盤に近付いた頃、
突然、真っ赤な衣裳の第2夫人が席を立ち、巫女達が座っている席に向かって歩きだした。
何事だろう? 世奈の前で、立ち止まっている。
「巫女には似合わぬかんざしをしておるな。私が失くしたものと実によく似ている」
疑わしい目付きで、世奈の髪に差したかんざしに手を伸ばそうとしている。世奈は怯えながらも、かんざしを大事そうに押さえている。
あの、ド派手ババァ、世奈が盗んだとでも言いたいの!
思わず立ち上がろうとすると、チヌに抑えられた。同時に、友達らしき巫女が世奈の前に出る。
「これは、スヨンのものです!」
強い目力で、そう訴えている。
第2夫人の顔が、鬼の形相に変わっていく……。
「無礼者! 巫女の分際で、私に意見するのか!」
美しい庭園に怒声が響き渡り、騒ついていた空間がシーンと静まり返る。
あのババァ、いったい何様なの!
それでも、チヌが首を横に振って私を制止している。
今度は、巫女のリーダーが2人を庇うように前へ出た。
「申し訳ございません。無礼をお許しください! ですが、この者は、礼拝堂を出る時からこのかんざしを着けておりました」
キッパリと、そう言い切った。巫女達をまとめているだけあって、さすがだ。貫禄がある。
世奈は、大切にされているのだと思った。ここでは、上司にも友達にも恵まれているようだ。
「もう良い! そのかんざし、ちょうど飽きていたところだ。卑しい身分の者と張り合うつもりはない」
とことん、自分のものだと主張する第2夫人。
ムカつく……。もう黙っていられない。
私が席を立つと、チヌは黙って頷いた。
「あの!」
第2夫人と巫女のリーダーを割って、しゃしゃり出る。
「そのかんざしは、イケメン天使が世奈にあげたものに間違いないから!」
言葉が通じていないのか、第2夫人が私を見て唖然としている。
「何を申しておる?」
「だから……、そのかんざしは、私の兄上がこの巫女に贈ったものなの!」
今度は通じたようだ。その場に居る夫人達も、ひそひそと話しながらこちらに注目している。
「何を申す! 巫女が殿方に想いを寄せるなどあってはならぬことだ」
「はっ? そんな、アイドルじゃあるまいし」
意気込んで言ってはみたが、ちょっと考えた。
あれ、巫女って恋しちゃいけないの?
第2夫人が、勝ち誇ったような顔で私を見ている。
まずい、劣勢になっている……。そうだ! あの一件を思いだした。
「そうやって人を見下してるけど、あんたはどうなの? 国王と王妃の密会をこっそり覗き見してたじゃない!
そういうのを卑しいって言うんじゃないの!」
言ってしまった。これだけは、心に仕舞っておくつもりだったのに。
「お前は、何を……」
「偶然見たの! 離れの庭で」
第2夫人が口をパクパクさせながら後ずさりし、足早にその場を去っていく……。
「ヨナ様が、巫女を助けたのよ」「あのヘビン様に対抗できるなんて、勇敢な妃だわ」
夫人達から、拍手が湧き起こっている。
えっ、これで良かったの?
「お礼、申し上げます」
巫女のリーダーも深々と頭を下げ、世奈は瞳をウルウルさせながら私を見つめている。
とりあえず、世奈のかんざしも無事だったし、みんな喜んでる感じだし、良かったのかな。しかし、チヌは怒っているだろうと、恐る恐る振り返った。
意外にも、チヌは冷静で、何事もなかったかのように私を元の席に誘導している。
「このあと、あの巫女を南殿に参らせるよう手はずを整えてあります」
えっ、世奈を呼んでくれてるの? そうだよ、世奈と2人で話がしたかったのにすっかり忘れてた。気が効く。効き過ぎる。チヌは最高だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます