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 宴もそろそろ終盤に近付いた頃、

 突然、真っ赤な衣裳の第2夫人が席を立ち、巫女達が座っている席に向かって歩きだした。


 何事だろう? 世奈の前で、立ち止まっている。


「巫女には似合わぬかんざしをしておるな。私が失くしたものと実によく似ている」


 疑わしい目付きで、世奈の髪に差したかんざしに手を伸ばそうとしている。世奈は怯えながらも、かんざしを大事そうに押さえている。


 あの、ド派手ババァ、世奈が盗んだとでも言いたいの!


 思わず立ち上がろうとすると、チヌに抑えられた。同時に、友達らしき巫女が世奈の前に出る。


「これは、スヨンのものです!」


 強い目力で、そう訴えている。

 第2夫人の顔が、鬼の形相に変わっていく……。


「無礼者! 巫女の分際で、私に意見するのか!」


 美しい庭園に怒声が響き渡り、騒ついていた空間がシーンと静まり返る。


 あのババァ、いったい何様なの!


 それでも、チヌが首を横に振って私を制止している。

 今度は、巫女のリーダーが2人を庇うように前へ出た。


「申し訳ございません。無礼をお許しください! ですが、この者は、礼拝堂を出る時からこのかんざしを着けておりました」


 キッパリと、そう言い切った。巫女達をまとめているだけあって、さすがだ。貫禄がある。

 世奈は、大切にされているのだと思った。ここでは、上司にも友達にも恵まれているようだ。


「もう良い! そのかんざし、ちょうど飽きていたところだ。卑しい身分の者と張り合うつもりはない」


 とことん、自分のものだと主張する第2夫人。


 ムカつく……。もう黙っていられない。


 私が席を立つと、チヌは黙って頷いた。


「あの!」


 第2夫人と巫女のリーダーを割って、しゃしゃり出る。


「そのかんざしは、イケメン天使が世奈にあげたものに間違いないから!」


 言葉が通じていないのか、第2夫人が私を見て唖然としている。


「何を申しておる?」


「だから……、そのかんざしは、私の兄上がこの巫女に贈ったものなの!」


 今度は通じたようだ。その場に居る夫人達も、ひそひそと話しながらこちらに注目している。


「何を申す! 巫女が殿方に想いを寄せるなどあってはならぬことだ」


「はっ? そんな、アイドルじゃあるまいし」


 意気込んで言ってはみたが、ちょっと考えた。


 あれ、巫女って恋しちゃいけないの?


 第2夫人が、勝ち誇ったような顔で私を見ている。


 まずい、劣勢になっている……。そうだ! あの一件を思いだした。


「そうやって人を見下してるけど、あんたはどうなの? 国王と王妃の密会をこっそり覗き見してたじゃない!

そういうのを卑しいって言うんじゃないの!」


 言ってしまった。これだけは、心に仕舞っておくつもりだったのに。


「お前は、何を……」


「偶然見たの! 離れの庭で」


 第2夫人が口をパクパクさせながら後ずさりし、足早にその場を去っていく……。


「ヨナ様が、巫女を助けたのよ」「あのヘビン様に対抗できるなんて、勇敢な妃だわ」


 夫人達から、拍手が湧き起こっている。


 えっ、これで良かったの?


「お礼、申し上げます」


 巫女のリーダーも深々と頭を下げ、世奈は瞳をウルウルさせながら私を見つめている。


 とりあえず、世奈のかんざしも無事だったし、みんな喜んでる感じだし、良かったのかな。しかし、チヌは怒っているだろうと、恐る恐る振り返った。


 意外にも、チヌは冷静で、何事もなかったかのように私を元の席に誘導している。


「このあと、あの巫女を南殿に参らせるよう手はずを整えてあります」


 えっ、世奈を呼んでくれてるの? そうだよ、世奈と2人で話がしたかったのにすっかり忘れてた。気が効く。効き過ぎる。チヌは最高だ!!

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