世奈side

45

 竹林にある呪いの小屋については、今のところコウと私2人だけの秘密にしてある。

 マヤ様に話そうか、仲間に相談しようか、さんざん悩んだけれど……。副代表の策略ということは、最早、誰が敵で誰が味方なのか見分けることもできない。

 副代表は、何故、王妃を呪っているのか? 王室とは、どういう関係なのか? 私達の力で、その答えに辿り着くことはできそうにないけれど……。私達があの小屋を目撃したという事実だけは、人に知られてはいけないような気がしていた。


 私と美咲さんが未来から来た人間だということについては、コウはまだ納得していない。それを認めてしまうと、スヨンという私が消えてしまうのではないかというのが、コウの本当の気持ちらしい。

 だから、私はもうそれ以上は話していない……。


「スヨン、そろそろ行きましょ」


 今日は格別にお洒落をしたコウが、鏡に映り込んできた。淡いピンク色の衣裳に、白い蝶のような髪飾りを着けている。


「コウ、可愛い〜」


 鏡の中から見つめると、コウは顔を赤らめながら、

「あっ、そのかんざし!」と、私の髪飾りに大きく反応した。


 コウにだけは教えた。

 このかんざしは、ジュンユン様から頂いたものだと……。巫女は神に仕える者。だから、世の男性との恋愛は禁じられている。けれども、

「巫女だって、人を想う気持ちは自由よ!」コウはそう言って、私の心を自由にしてくれた。


「変じゃない?」


 自信のない私に、


「うん、凄く似合ってる」


 太鼓判を押してくれる。


「とにかく、今日はいつも通りの振る舞いをしましょう」


 私達の秘密がバレないようにと、コウが念を押してきた。


「うん、分かった」


 大きく頷いて、2人で部屋を出る。


 巫女達のハイテンションな声で賑わう礼拝堂。


「綺麗だわ!」「良い色ね〜」「とても似合っているわ」


 装束ではなく、それぞれ好みの衣裳を身に付け、いつになくみんなは浮かれている。


「あら、スヨンの髪飾り素敵ね」「ほんと、輝きが違うわ」


 そこに居る、誰のものより一際目立つ髪飾り。みんなが、私のかんざしに注目している。


 コウが、「ほらね!」と私に目で合図をする。


 私のことなのに、自分のことのように喜んでくれるコウは本当に優しい人だ。元の世界にもこんな友達が居たら、私の人生は違っていただろう……。


 心を弾ませ、巫女達が礼拝堂を出る。


 マヤ様と副代表を先頭に、河原沿いの砂利道を幸せそうに歩いていく。

 正直、コウと私は複雑だった。

 副代表が、巫女の列を気にして振り返るだけで、恐怖に襲われる……。


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