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 庭園の方から、綺麗な音色が聞こえてきた……。自分に酔いしれながら、再びチヌと共に渡り廊下に出る。


 赤い毛氈の上にはお膳が並べられ、3人の琴の演奏者が繊細な音を奏でている。まるで、高級旅館のロビーのような空間だ。


 煌びやかに着飾った王族の夫人達が、続々と集まってくる。


「参りましょう」


 チヌのあとに付いて、私も庭園に下り立つ。


「ヨナ様、お美しい〜」「素敵だわ〜」


 一気に注目の的に……。みんなの視線が私に注がれている。


 西殿の方から、第2夫人も下りてきた。真っ赤な衣裳に、ルビーを中心とした装飾品を着けまくっている。


 やっぱり!


 肌年齢から考えると、私より5〜6歳年上という感じだが、とにかくセンスがおばさんっぽい。派手さでは、もうナンバーワンだ。

 第2夫人も私を気にしているらしく、こちらを一瞬見てから、日除けの傘がある特等席の右端に堂々と腰を下ろした。私も同じ席の左端に案内される。真ん中にある王妃の席は、淋しげにポツンと空いていた。


 来賓席に視線を移し、世奈を探した。巫女達の装いも今日は装束ではなく、色とりどりの衣裳を身に付けている。


 あっ、世奈だ!

 清楚な水色の衣裳、さすが元女子高生だ。


 えっ!


 世奈の髪飾りを見て、私は驚いた。あれは、あの白い小花が散りばめられたかんざしは、イケメン天使が想い人に贈ると言っていたものだ。絶対にそう! 私が選んだんだから、間違いない。

 ってことは、イケメン天使は世奈のことが……、好き、なの? でも、でも、どういうこと? イケメン天使と私達とでは、住む世界が違うじゃない……。ここに来てから? そんなに一気に親しくなれる?


 桔梗のような紫色の花の前に座っている世奈が、私を見て微笑んだ。


 やっぱり、可愛い。


 頭の中は複雑に絡み合っているが、私も思わず微笑み返していた。

 第2夫人の合図で、宴が始まる。


 目の前のお膳には、綺麗な色のお菓子と花が浮いたお茶がある。


「チヌ! 食べてもいいの?」


 チヌがまわりを確認してから、頷いた。


 ちょうど甘いものが食べたいと思っていた。紅葉のような形をしたまんじゅうのようなものをひと口食べてみる。


「薄っ」


 甘さ控えめ過ぎの、かなりの薄味だ。ダイエットには良いかもしれないが、全然物足りない。


 花を見て、笑い合う……。退屈な時間だ。世奈と話がしたいが、かなり席が離れている。色々聞きたいが、この場では無理がある。


 それにしても、不思議だ。元の世界で自殺にまで追い込まれていた女子高生が、この世界では普通の女の子として当たり前に生きている。隣りに座っている巫女は、世奈の友達なのだろうか? とても親しげに話をしている。

 世奈は、この世界で生きている方が幸せなのかもしれない……。私は、どっちの世界が良いのだろう?

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