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「まぁ、ここでの暮らしも悪くはないなぁとは思ってるんだけど……。でも、やっぱり元の世界に帰らなきゃいけない気もするし……」


 凄い人だと思った。どこでも、どんな状況にも順応していける人なのだと。

 でも、きっと、元の世界に帰らなきゃいけない人なんだ。美咲さんを失いたくない人が、たくさん待っているはず……。だけど、どうして、美咲さんまでこんなことになってしまったのだろう……。

 もしかして……、あの人なら何か知っているかもしれない。


「あの……、美咲さんのお兄さんに聞いてみたら分かるんじゃないですか?」


「お兄さん?」


 美咲さんが、前のめりになって迫ってくる。


「私、この世界に来た時、川原で美咲さんのお兄さんに抱きかかえられてたんです」


「抱きかかえられてた?」


 瞬間的に、美咲さんの中で何かが繋がったようだ。更に、前のめりになって迫ってくる。


「そうそう! 私の兄と名乗るあの男が駅のホームで世奈を抱き上げて、そなたも一緒にとかなんとか言って……。そうだよ! あいつが私達をここに連れてきたんだよ!」


 えっ!

 ということは、私はあの人に助けられたの?


「ヨナお嬢様! 間もなく祝宴が始まります。王様がお待ちですよ」


 美咲さんと母娘のように仲の良い、先程の使用人の声が聞こえてくる。


「ゲッ、待たなくていいから! もう勘弁してよ……。この環境は受け入れられるけど、あの国王だけは絶対に無理!」


 そっか、これは政略結婚だったんだ。やっぱり美咲さんは、国王のこと好きじゃないんだ。


「そうですよね。国王かもしれないけど、美咲さんには合わない気がします。結構、年も離れてるんじゃないですか?」


 うっかり、国王の悪口を言ってしまった。反射的に、まわりを警戒する。


「ほんと、いい歳して図々しいよ! どうせなら第10夫人とかで、存在忘れて欲しいんだけど」


 面白い発想をする人だと思った。私だったらとても耐えられない状況を、笑いに変えている。笑ってはいけないことなんだろうけど、思わず吹きだしてしまった。


「世奈! あんたさぁ、可愛い顔してんだから明るくしてた方がいいよ。ちょっと暗過ぎだったから」


「えっ……」


 嬉しかった。

 けれども、私は人に顔を見られることに慣れていない。


「ヨナお嬢様! 早く、お支度を!」


 使用人の声が、切羽詰まったものに変わった。


「はいはーい」


 美咲さんがお茶目に笑いながら、軽い返事をした。

 私も立ち上がり、あっさり部屋を出ていこうとしたら、美咲さんに引き止められた。


「ねぇ、またここに来てね! この世界では、世奈だけが頼りだから」


 必要としてくれている。迷惑を掛けているのに、どうしようもない私なのに、こんなに綺麗な人が私を信頼してくれている。


「何か分かったら知らせに来ます」


 嬉しくて、すごーく嬉しくて、思わずそう言っていた。


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