おそらくはパジャマと思われる薄ピンク色の衣装のまま、部屋を出て、庭園に飛び降りる。


「ちょっとあんた、なんで天国になんて連れてくんのよ! 私が死んだなんて誤解でしょ?」


 キレながら近付いていくと、イケメン天使はフッと笑った。


「安心しろ! 其方は生きておる」


 生きてるなら、ここはどこ?


「ヨナお嬢さまーっ」


 先程寝床に居た、異国の女が追い掛けてくる。


「ここで私は、其方の兄である。もしも、其方がこの世界の者ではないということが知れたら」


 知れたら?


 イケメン天使が、喉を切るように手を当てた。


「処刑される」


 えっ、処刑って……。首斬られちゃうの?


「ちょっと、いい加減にしてよ! 勝手に連れてきて……。今日、大事な会議があるんだから、早くなんとかしてよ!」


 護衛が怪訝そうな表情で、2人のやりとりを眺めている。


 そっか、この人の袖に入ればまた元に戻れるかもしれない……。


 断りもせず、ふんわりとした青い袖を被ろうとする。


「ヨナお嬢様、何をなさっているのですか! 兄上に失礼ですよ」


 異国の女に止められた。

 50過ぎと思われるこの賑やかなおばさんは、どうやら私専属の使用人らしい。


「チヌ、まぁ良いではないか。これからヨナと市場に出掛けてくる」


 イケメン天使が、最もらしい顔で使用人を宥めている。


 このおばさんは、チヌっていうのか……。って、名前なんてどうでもいいし!


「いけません。明日は大切な婚儀があるのですよ。お静かにお過ごし下さいませ」


「すぐに戻ってくるから許せ」


 イケメン天使とチヌが、私を放置した状態で揉めている。


 婚儀? って、誰かの結婚式?


「では、お早めにお戻り下さいませ」


 意外にも、チヌは簡単に納得してしまった。

 

 ちょっとーっ、市場なんて行ってる場合じゃないから!!


 そう訴えたいけれど、この世界の人間ではないことがバレるのはヤバい……。


 なんか、よく分かんないけど、私はヨナとかいうお嬢様で、イケメン天使の妹で……。

 あーっ、いったいどういうことなのよ!


 訳が分からないままチヌに手を引かれ……、

 気が付くと艶やかな水色の民族衣装に着替えさせられていた。


 わぁ〜、私って何着ても似合っちゃう。


 一瞬にして、衣装に心を奪われた。

 鏡に映る自分が、満足そうに微笑み返している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る