瓦屋根の外門をくぐり抜けると、屋敷の外ではイケメン天使と護衛が待ち構えていた。2人の向こうには、穏やかな青い空が広がっている。


「ここで、私の妹ヨナを演じていれば、全てうまくゆく」


 そう言って、イケメン天使が歩きだす。


 うまくゆくってことは、元の世界に帰れるってこと?


 なんか、納得できないけど、とにかくバレないようにするしかないのか……。


 そのあとに付いて歩きだすと、護衛も無言で歩きだした。


 えっ!


 先程は取り乱してしまい気付かなかったが、この護衛もなかなかのイケメンである。

 イケメン天使は、親戚に2人くらい居るような親近感のある顔だが、護衛はドキッとするほど好みのタイプだ。


 思わず見惚れていると、目が合った。

 切れ長の瞳が、私を捉えている。


 ヤバっ! ちょー、イケメンなんですけどーっ!


 心臓が、ドキドキと鼓動を打ち始める。浮かれ気分で、ジャリッジャリッと小石を踏みしめ、砂利道を歩いていく……。


 やがて視界が開け、透き通った川の流れが見えてきた。川岸には黄色い花が咲き乱れている。


 おっ、長閑のどかだね〜。


 川沿いを暫く進んでいくと、野菜や鶏、生地などを売っている店が軒を連ねる賑やかな通りに入った。


 ここが、市場?


「好みのものを選ぶが良い」


 キラキラした小物がたくさん並べられている店の前で、イケメン天使が振り返った。

 爽やかな笑顔を向けている。


「えっ! 私?」


 髪留め? あっ、かんざしか。へぇ〜、いいじゃーん。


 一番手前に置かれている、赤い大輪の花が飾られたかんざしを手に取る。


「これ素敵!」


「では、それにしよう。あともう一つ、私の想い人にも選んでくれないか」


 想い人? あ〜、彼女ね。こういうの選ぶのは専門だから任せて! この人が好きな女のタイプは……。


 白い小花が散りばめられたかんざしを手に取った。


「これは、どうでしょう?」


 仕事用の自分になっていた。


「良い! 似合いそうだ」


 どうやら、そのかんざしを付けた彼女を想像しているらしい。

 全く、おめでたい男だ!


 護衛は、まわりを警戒しながら私達2人をただ見守っている。

 その振る舞いが、また凛々しい。


 なんてカッコイイの? どうせなら、この人から頂きたかった。


「この後、寄るところがあるゆえ、ヨナを頼む」


 店主からかんざしを受け取ると、イケメン天使は護衛に私を委ね……、ニヤリと微笑みながら去っていった。


「えっ! 寄るところって……。自分が連れて来たのに、なんでそんなに勝手なのよーっ!」


 とは、叫んでみたけれど……。


 ということは、この護衛と2人きり?


 私は、しっかりと状況を把握した。


 ちょっとちょっとイケメン天使、意外に気が効くじゃない!


 人混みに消えていく青い背中が、少し頼もしく見える。

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