『魔物』が消えた世界

第34話 島へ

 マルシルのおばあちゃんがやってきた翌日、月が変わって四の月に入った。

 私は研究室の机でノートパソコンを開き、期限が迫っている助手の勤務評価をつけていた。

「うーん……キキとマルシルが凄いんだよね。まだ見せてくれないけど、絶対なにか隠し持ってる。その未知数も込めて今のところはB+くらいかな。真面目でよく働くし。後は、パステルは文句なしにA+。いなかったら困るし、これで魔法が使えたらいいんだけど、そこは追々だね」

 私はカタカタとキーボードを叩き、ビスコッティの評価に入った。

「魔法は円熟期で順調。もう、私からほとんどアドバイスする事もなくなったし、いうことないんだけど、真面目すぎてお堅い魔法ばかりなんだよね。こういうのとか作ればいいのに」

 私は呪文を唱えた。

「オメガ・ブラスト……フレグランスな香り!!」

 突き出した右手から大量のシャボン玉が吹き出て、研究室が埋まった。

 まるで、洗濯したての服の香りだけが残り、私は笑った。

「なんだこれ。まあ、こうやって適度に遊びながら覚えるんだよ。魔法は危険だって意識が強すぎるだね。これ、逆に事故の元なんだよね。だから、ちょっと削って「C-」かな」

 私は評価シートに打ち込み。データを保存してパスワードをかけた。

「えっと、今は……」

 研究室の時計をみると、午前三時だった。

「おーい!!」

「はい、師匠。どうしました?」

 談話コーナでおばあちゃんと一緒に掃除していたビスコッティがやってきた。

「悪いけどひとっ走りしてくれる。購買でアイス!!」

「はい、分かりました。いつものドクペ味ですね」

 ビスコッティがへカートⅡを肩に、エレベータで下に降りて行った。

「アイスを買いに、対物ライフルなんてどうするんだろ……。さて、今のうち!!」

 私はファイルを開き、さっき書いた勤務評価データをCD-Rに焼いて、機密情報を示す赤封筒に入れてから、校内便の配達ボックスに収めた。

「よし、一つ仕事完了。こういう事務作業は得意じゃないんだよね」

 私は笑い、ノートパソコンのファイルにもう一度パスワードを書けて保存し、全てのウインドを閉じて、電源を落として閉じた。

「さて、なにしようかな。そうだ。アリサ、一緒にトラップ仕掛けない?」

 警備で研究コーナを歩いていたアリサに、私は声を掛けた。

「トラップ……。どこかに、ゲリラでもいたんですか?」

 アリサがナイフを抜いた。

「そうじゃないよ。ビスコッティが購買に行ってくれてるから、トラップでも仕掛けて遊ぼうかと」

「はい、待って下さい」

 アリサはインカムのトークボタンを押した。

「こちら四。隊長、マルタイがビスコッティの邪魔をするためにトラップ設置を求めているのですが、よろしいですか?」

『なに、また喧嘩でもしたの? 遊ぶな!!』

 犬姉のでっかい声が、インカムのスピーカー越しですら聞こえた。

「怒られちゃいましたので、ダメです」

 アリサが笑った。

「ちぇ、つまんないな……私がやろう」

 私は呪文を唱え、エレベータの扉の上に金だらいを設置した。

 しばらくしてエレベータが動き、リズが出てきた瞬間に金だらいが勢い良く天井まで上がり、ドゴーンとリズの頭に命中して貫通し、そのまま残骸が消えた。

「いっってぇ……なに、工事中?」

 リズが頭を撫で撫でしながら入ってきた。

「パトラがどっか行っちゃってさ、ここきてない?」

「ん、知らないよ」

 私は無線のチャンネルを合わせ、トークボタンを押した。

「パトラ、いる?」

『ん、いるけどヘルプ。寮のベッドと壁の間に挟まって出られないよ』

「分かった」

 私は苦笑した。

「寮でベッドと壁の隙間に挟まって出られないって!!

 瞬間、リズが吹き出した。

「なにやってんだ、アイツ。分かった、救助してくる。ありがとう」

 リズが笑ってエレベータに乗っていった。

「うん、今夜は平和だねぇ……」

 私はぼんやり呟いた。


 談話コーナを覗くと、掃除も終わったようで、寮に帰ればいいのにみんなが床でごろ寝していた。

「ったく、研究で煮詰まってるわけじゃないのに」

 私は笑った。

「師匠、私たちも休みますか?」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「今はもう朝六時だよ。寝な方がいい」

 私は笑った。

「そうですか。飲みます?」

 ビスコッティが、空間の裂け目からお酒を取り出した。

「それもいいけど、たまには魔法薬を作ろうかな。えっと……」

 私は研究室の方に戻り、いつもキキが使ってる装置を点検した。

「大丈夫そうだね。えっと、傷薬でも作るか……」

 私はノートを取り出し、文字を目で追った。

「ビスコッティ、シンシラカバとエルダってあったっけ?」

「はい、基礎薬の原料です。材料庫にあると思いますよ」

 ビスコッティが装置脇にあるロッカーを開け、粉状の材料が入った瓶を二つ取り出した。

「ありがとう。それじゃ、やりますかね……」

 私はビスコッティが出してくれた材料二つを、重さ計りながら乳鉢に入れゴリゴリと押しつぶしながら混ぜた。

 ビスコッティが装置に水を入れてアルコールランプに火をつけ、私は混ぜた材料を装置の水温が上がって、適温になるまで待った。

「何度?」

「はい、八十五度。適温です」

 私は装置の投入口から材料を入れ、中のお湯の色に注意を払った。

「青色なら問題ないね。材料も入れたし、五分くらいかな……」

 私は部屋の時計をチラッと見た。

「それにしても、急に魔法薬なんてどうしたんですか?」

「これも、魔法が錆び付かないようにするための方法だよ。たまーにやらないと、狙撃手になっちゃうからね!!」

 私は笑った。

「師匠も魔法薬……出来たんですね」

 ビスコッティが驚きの目で私をみた。

「そりゃ、魔法使いなら基礎くらいはどっかで触れるし、専門家でなくても作るだけならタダだもん」

 私は笑った。

 装置内のお湯の色が微妙に変化し、時計をちらっと見てから、私は呪文を唱え始めた。

「ええ!?」

 ビスコッティが声を上げたが、私は笑みを浮かべてそのまま詠唱を続けた。

 装置全体が明るく光りはじめ、ガラス管の中でボコボコと泡が立ち始めた。

 私は呪文の詠唱を続け、装置の末端にあるお湯の出口にビーカーを置き、コックを開けて中身を流し始めた。

 ビスコッティが、慌ててアルコールランプの火を全て消し、真面目に驚いた顔で私を見た。

「あれ、なにか実験ですか?」

 程よく起きたのか、目を擦りながらキキがやってきた。

「はい、実験なんてもんじゃないですよ。師匠が基礎薬だけで、なにか魔法薬を作っちゃったようです」

 ビスコッティがいうと、キキがポカンとした。

「基礎薬だけで?」

 キキが首を傾げた。

 しかし、装置が光っていたり、私が呪文を詠唱していたりして、明らかに何かが起きているのは確かだと認識したようで、興味深そうに私を見つめた。

 装置内の青色のお湯が全て出るとコックを閉じ、出口に置いたビーカーに手をかざして、私は違う呪文を唱えた。

 ビーカーの薬液が微かに光り、徐々にその光りが強くなっていった。

「……邪なるもの。全て去れ」

 ビーカーが爆発したように光り、残ったのは薄明かるい光りを放つ、黄緑色の魔法薬だった。

「はい、出来た。疲れるねぇ」

 私は額の汗を拭いた。

「昔は魔法薬はこれしかなかったんだって。万能薬エリクサーだったかな。呪文は難解だし、タイミングは難しいしで、かなり高価だったらしいけど、今は材料も豊富だし作りやすいようになってるから、エリクサーだってそんなに高くないでしょ?」

 私は笑った。

「え、エリクサーを古法で作っちゃったんですか!?」

 ビスコッティが驚きの声をあげ、キキがポカンとした。

「一応、資料読んで研究したからね。捨てるのももったいないから、どっかにしまっておくといいよ」

「捨てるなんてとんでもないです。えっと、空きの薬瓶は……」

 キキが空いた薬瓶にビーカーの中のエリクサーを入れて、大事に材料庫の中にしまい、ビスコッティが装置をバラして掃除を始めた。

「はぁ、なんかスッキリ。お腹空いたな」

 私は笑った。


 八時頃になって全員が目を覚まし、マルシルのおばあちゃんが朝ご飯を作るいい匂いが談話コーナに広がった。

「えっ、古法でエリクサーなんて作っちゃったの?」

 談話コーナにやってきたリズが、驚いたような声を上げた。

「うん、時間が半端でたまにはやってみようかなって」

 折りたたみ椅子に腰を下ろし、私は笑った。

「それ本当。大変だったでしょ?」

「ラッキーで一発成功したよ。あれは神経使うから……」

 私は笑みを浮かべた。

「あたしはあんまりやらないけど、大変なのは知ってる。パトラ、どう思う?」

「エリクサーを古法で一発調合なんて、プロの薬師でも滅多に出来ないよ。だから、今はサポートの材料を使うし、呪文だってもっと簡単だし、安価になったのはそのためなんだ。それ見せてくれる?」

 パトラが笑みを浮かべた。

「はい、持ってきます」

 キキがすぐに薬瓶を持ってきた。

「これです」

 キキが差し出した薬瓶を受け取り、パトラは一滴手にとって舐めた。

「うん、完璧にエリクサーだよ。よくできたね」

 パトラが笑みを浮かべた。

「そっか。よし、あたしもやってみるか。呪文は知ってるんだけど、タイミングが微妙……」

「ダメ、魔法薬は私がやるって決めたでしょ。ダメ!!」

 パトラがリズにゲンコツを落とした。

「いいじゃん、練習だよ」

「私がいるからいいの!!」

 パトラがリズの首を絞めた。

「こら、朝から喧嘩しない。朝からなに盛り上がってるの?」

 犬姉が笑った。

「はい、師匠が面白い事をやったので、その話題です」

 ビスコッティが笑った。

「そっか、もうメシだって。ここ、なんでもある空間になってきたな……」

 犬姉が笑った。

「みなさん、ご飯が出来ました。取りにきてください!!」

 マルシルが声を上げ、私たちはそれぞれ朝ご飯を取りにいった。

「ここの購買は、なんでもあっていいですね。大勢いらっしゃいますし、作り甲斐があります」

 マルシルのおばあちゃんが笑った。

「でしょ、しかも無料だし!!」

 私は笑った。

 献立はシンプルで、ご飯と味噌汁、玉子焼きや小鉢だった。

 私は折りたたみ式テーブルに座り、食事を済ませた。

「優しい味だね」

 私は笑みを浮かべた。

 今日は平和なのか、魔物がいなくなったせいなのか、今のところ緊急の仕事は飛び込む様子がなかった。

「師匠、新聞などによると、国内各所で魔獣の被害が出ているようです。半分魔物の獣なので、数が多くて大変なようですね。国軍や国内の冒険者にまで広く声を掛けて、討伐作戦が行われているようですよ」

 ビスコッティがへカートⅡの整備をしながらいった。

「そっか、魔物がいなくなっていいのか、悪かったのか。やったのは自分なんだよね」

 私は苦笑した。

 魔獣とは魔物っぽい獣の事だ。

 発生原因は不明だが、完全に魔の力に支配された魔物の影響を受けて、微妙に魔物になってしまったと考えられていた。

「まあ、確かに微妙な所ですね。お陰で好き勝手やってた、強盗とか盗賊などの輩も減った様子だそうです。数人規模の小さなところなど、魔獣に襲われたら一撃でしょうからね」

 ビスコッティが笑った。

「そりゃそうだ。そうなると、これからはそれなりにナメちゃいけない連中が出るって事だね。覚えておく」

 私は笑みを浮かべた。

「そうでもないよ。魔獣だって国中にみっちりいるわけじゃないし、警備隊じゃないんだから基本的には敵の一つ。特にこの地域は平和な方だよ」

 近寄ってきた犬姉が笑った。

「はい、先ほどスラーダさんの里と交信しましたが、通常の防御体制で里が守れているそうです。前より楽になったとか……」

 アリサが笑った。

「そっか、ならいいや」

 私は笑った。

「さて、なにやろうか。ビスコッティ、恐怖の業務評価出したよ!!」

「うげっ……またCですよね。約束ですから」

 ビスコッティが苦笑した。

「それが、C-なんだな。理由は簡単。思考が固すぎる。変な魔法作れ!!」

「ぎゃあ、マイナスが付いた!?」

 ビスコッティが頭を抱えた。

「そっか、そろそろ警備隊もやらなきゃまずいな。アリサ、覚悟しろ!!」

 犬姉が笑った。

「……怖い。いいことあまりなかったし」

 アリサがため息を吐いた。

「犬姉の評価か。厳しそうだねぇ」

「うん、当たり前!!」

 犬姉が笑った。


 午前中は特になにもなく、レポートと同時に書いていた、犬姉とアリサの後発的魔力発生なんちゃらの論文を書き終え、私はそれを誰の目にも簡単に触れないように、鍵が掛かって、なんかヤバそうな感じの禁書庫に保管した。

「師匠、手紙が届きましたよ」

 椅子に座っていると、ビスコットティが手紙を持ってきた。

「なんだろ……」

 それは国際郵便で、お隣のケンロック王国からのものだった。

「ああ、あの人たちだね。無事にやってるかな……」

 私は封筒を開けて中を読み、『代表、マールディア』の文字を見て笑みを浮かべた。

「あの追いかけっこは面白かったな。まあいいいや、それだけ?」

「はい、手紙はないです。どうしますか?」

 ビスコッティが、笑みを浮かべた。

「そうだねぇ……久々にトラックでドライブしたいけどダメだよね……」

「はい、この積雪で街道はそこら中で通行止めです。このカリーナからでも、ケンロック王国方面にしかいけません。お陰で、ここから先は空路でしかいけないので、空港が物流の中継地点みたいになってしまいました。急遽、空港に積み替えの荷捌き場や旅客ターミナルが作られたくらいですからね」

 ビスコッティが笑った。

「全く、気象なんて微妙なものを弄るなって感じだよ」

 私は笑った。

「おーい、仲良くなにやってるの?」

 リズが近寄ってきた。

「ねぇ、金だらいの魔法教えて!!」

「ヤダ、あれはあたしの個性!!」

 リズが笑った。

「あのね、どうやってあんな基本的な装置から、古法でエリクサーなんて作れたの?」

 パトラが問い掛けてきた。

「パトラなら知ってるでしょ。魔法薬は、昔は装置なんか使わなかったって」

「ああ、そういう意味じゃなくて、あれで何度やっても出来ないんだよ。キキに教えようと思って、一緒にやってるんだけど……」

 パトラが小首を傾げた。

「どうもこうもないよ。基礎薬作って呪文唱えただけ。まあ、私の癖とたまたま合っただけだと思うよ。出来るとは思ってなかったから、私も驚いた」

 私は笑った。

「うーん、困ったな。せっかくだからと思ったんだけど……」

「まあ、材料費は掛かるけど、普通にやった方が結果として安上がりだと思うよ。ビスコッティの方が詳しいと思うけど……」

「私にも分かりません。師匠がぶっ壊れたとしか……」

 ビスコッティが笑った。

「そっか、もっと研究しよう。リズ、やろうよ」

「ヤダよ、魔法薬は面倒だし趣味じゃないもん」

 リズがパトラを蹴飛ばした。

「あっ、そういえば師匠の誕生会の時、島にこぢんまりしたホテルを作ってくれるというお話しがありましたよね。完成したと連絡がありました。見にいってみますか。オーナーは師匠になっています」

「あっ、あったね。今からでれば、まだ明るいうちにつくか。いこう!!」

 私は椅子から立ち上がった。

「分かりました。全員集合を掛けます」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「あの、おばあちゃんも連れていっていいですか?」

 近くにいたマルシルが問いかけてきた。

「もちろん、面白いかもね」

 私は笑った。

 こうして、私たちは遠出の準備を始めた。


 準備が終わり、校舎前からバスで空港に移動すると、大忙しという感じで飛行機が絶え間なく離着陸をしていた。

「うわ、こんな空港だったっけ?」

「例の増便ですよ。カリーナ所有の飛行機が優先権を持っているので、いつものYSでも問題ないですよ」

 ビスコットティが笑った。

「そっか、ならいいや。早く行こう」

 駐機場からステップを下ろしていたいつものYSに乗ると、私は適当な席に座った。

 隣に珍しくキキが座り、ある件で急遽大量印刷した「魔法基礎」を取り出した。

「あの、教えて下さい。よろしくお願いします」

「うん、いいよ」

 私は笑った。

 飛行機がプッシュバックされ、止まったところでエンジンが始動した。

「さっそくなのですが、ここが……」

「ああ、そこはね……」

 キキに教えていると、飛行機が誘導路を走り始め、途中で止まった。

『渋滞だよ。誘導路で詰まってる。三番目なんだけど、これだからもう……』

 機内に犬姉のぼやきが流れた。

「混んでるなぁ……」

 私は苦笑した。

 待ってるうちにキキに魔法を教える時間が出来たので、私は退屈しなかった。

「あっ、そうだ。パステルいるかな……」

 私は立ち上がって機内を見渡すと、荷物を整理しているパステルを見つけた。

「パステル、頼んでいい?」

「はい、なんですか?」

 パステルがこちらを見て笑みを浮かべた。

「島の地図を作りたいんだよ。そろそろ、色々出来てきたし」

「はい、分かりました。お任せ下さい!!」

 パステルは、いつも通り元気に笑顔を浮かべた。

 結局、一時間近く待ってようやく滑走路に入った飛行機は、すぐさま滑走して離陸した。


 今日は気象が穏やかなようで、飛行機は順調に島を目指して海上を飛行していた。

 出発が思いの他遅くなってしまったので、到着する頃には暗くなっているかも知れなかった。

「はぁ、どんなホテルができたんだろ……」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですね、素敵だといいいですね」

 キキが笑った。

「オープンしたら賑わうかな。今はブラック・エルフのみんなにやって貰っているけど、さすがに誰かに頼まないとダメか……」

 私は苦笑した。

「師匠、手配しましょうか?」

 ビスコッティが、通路を歩きながら笑みを浮かべた。

「そうだね、当てはあるの?」

「はい、マルシルが話していたのですが、一緒に里を抜け出してきた人が五人いるそうです。カリーナ近くの村や町でひっそりしているようで、呼べば集まるそうですがどうですか? ブラック・エルフにも抵抗がないようです」

「それいいいね。オープンは実際に見てからだけど、みんなで堂々と暮らせた方がいいから、呼んじゃえば」

「分かりました。伝えておきます」

 ビスコッティが笑みを浮かべて通路を歩いて行った。

「エルフの島ですね、まさに」

 キキが笑った。

「エルフとファン王国海兵隊の島だよ。対照的だね」

 私は笑った。

「はい、面白いです」

 キキが笑った。

「よし、軽く寝るよ。まだ掛かるでしょ」

「はい、私は自習しています」

 キキが笑みを浮かべた。

 こうして、島への飛行は順調に進んだのだ。


 島の空港に着陸した時には、やはり空はもう暗くなっていた。

「いつも、ここは温かいねぇ。よし、家に行こう」

 駐機場から暗い中歩いて、すぐ近くにある家の鍵を開けて中に入った。

 自動で明かりが点いて空調が動き始め、私は驚いた。

「師匠、建設部がここも直そうって感じで弄ったみたいです」

 ビスコッティが笑った。

「無事に到着したようですね。では、時間がちょうどいいので、晩ご飯を作りましょう」

 マルシルのおばあちゃんがキッチンにいって、冷蔵庫を開けた。

「食材はあるようですね。腕によりを掛けましょう。マルシル、手伝って」

「うん、分かった」

 マルシルが返事して、おばあちゃんと一緒に料理を始めた。

「はぁ、着いたね。ハンモック作ろうか」

 私たちは、全員でハンモックを作りはじめた。

「しっかし多いね。面倒だから、あるだけ全部出してるけど」

 私は笑った。

「ハンモックとは、人間の家出は珍しいですね」

 料理をしながら、おばあちゃんが声を掛けてきた。

「最初にここを作ってくれたのが、スラーダっていうエルフなんだよ。だから、エルフ風なんだって」

「そうですか。スラーダさんは有名です。変わっている事で」

 おばあちゃんが笑った。

「まあ、変わってるね。よし、全部出来た」

 広大な空間の半分をハンモックが占め、残り半分の居間にみんなが集まった。

「さてと、ゆっくりしよう。温泉もあるし!!」

 私は笑った。

 おばあちゃんとマルシルが手早く料理を作り、少し早めの晩ご飯が出来ると、私たちはゆっくり食べ、楽しく過ごした。

 食事が終わると、みんなで片付けをして、一息吐いた。

「よし、アリサ。周辺警戒だ。先に私がいくよ」

 犬姉が銃を肩に下げて、家から出ていった。

「スコーンさん、地図作りですが、島全体は当たり前として、細かい所も作成しますか?」

 パステルが笑みを浮かべた。

「うん、任せるよ。あまり頑張らなくていいからって、いっても無駄か」

「はい、頑張ります!!」

 パステルが笑った。

「よし、お風呂入ろうかな……」

「師匠、お風呂でお酒飲みましょう!!」

 ビスコッティが笑った。

 こうして、私たちは雪でどうにもならないカリーナから、私の島に移動したのだった。

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