第32話 手抜きじゃない突貫工事

「へぇ……アイツって、全エルフの攻撃を跳ね返したんた。とんでもない敵だね」

「はい、師匠。いわば、あれは冒険者風に俗っぽいいい方をすれば、ボスですね。アイツを倒さないと、世界がまた壊されてしまうところでた。お疲れさまでした」

 カリーナの研究室で、私は膨大な量の報告書を読んでいた。

「結果としてだよ。そんなヤバいヤツだったらって考えたけど……。ゾッとしないね。それをわざわざ掘り起こして、封印を解除しちゃうなんて……」

 私は苦笑した。

「今、あの迷宮は専門にしている魔法使いが、血眼になって調査しています。掘り起こしてしまったなら、最後までケリをを付ける。立派だと思いますよ」

 ビスコッティが笑った。

「そういってくれると嬉しいけど、とんでもないお宝だよ。

 私は苦笑した。

「冒険をしていると、希にこういう事もあります。気落ちしないで下さいね。しかし、あれほどの敵を一人で……」

 パステルが研究室エリアにやってきて、小さく笑みを浮かべた。

「剣に助けられたよ。エクスカリバーがなかったら、私もダメだったろうね」

「運がいいんです。冒険者に必須です」

 パステルが笑った。

「運ね……。さて、報告書を読まないとね。今のリーグは違うけど。パステル細かすぎ!!」

 私は笑った。

「それは細かくなりますよ。お呼ばれしたようですが、動くキューブで内部の構造が変わるんですよ。マッピング不可能な迷宮は。そうありません」

「二千年も持ちこたえたんだもん。もうなんでもありでしょう」

 報告書に寄れば。外気に触れ、太陽光に当たらない場所なら、半永久的にもつ結界だったようだ。

「そんな結界があったなんて知らなかったよ。さて、読んでサインしていかないと」

 机の上にあった書類の束を処理済みのカゴに放り込み、ビスコッティーがそれを持って校内便の棚に置いていった。

 最後は私だったが、「分かりません!!」で済んだら楽だがそうもいかず、この際明かしてしまう……というか明かすしかない蘇生術について少し触れ、ケタスとの戦闘記録を付けて終えた。

 表紙に自分の名前を書き、確認欄にビスコッティがサインした。

「師匠、これで迷宮関係の処理は終わりました」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「おい、終わったってよ!!」

 私は研究室エリアに儲けた水槽で、メダカ三匹気持ちよさそうに泳いでいた。

「さて、次はなにやるかな。朝から始めて、もう昼だよ」

 私は伸びをした。

「お疲れ様でした。これ」

 ビスコッティが冷えたドクペをくれた。

「これこれ、この変な味が好きなんだよね。誰がいったか『知的炭酸飲料』!!」

「どこが美味しいのか分かりませんが、癖になりますね」

 ビスコッティが笑った。

「さて、遅くなったけど、今日のコンディションチェック」

「はい、まずはナイフ」

 私は鞘から抜いたナイフを構えた。

「続けてドラゴンスレイヤー」

 私はナイフをしまうと同時に、ドラゴンスレイヤーを引き抜いた。

「はい、それしまってエクスカリバー」

 私は光り輝くエクスカリバーを抜いた。

「はい、しまって。次は拳銃」

 私は銃を抜き、特別参加の銃を構えた犬姉に向けた。

「遅いよ。それじゃ、私の銃弾六発は食らってる!!」

  犬姉が談話コーナに移動した。

「はい、次は魔力」

 私は呪文なしで、魔力を空打ちした。

 室内が臭くなり、私の目も染みた。

「ですから、最小で。臭いです」

「これでも絞ってるんだよ。でも、ぶっ壊れたアフターバーナーみたいになっちゃう。これだけ魔法の道具を持ってれば、当然なんだよね」

 私は小さく息を吐いた。

「そうですか。実際に魔法は?」

「それは呪文で制御してるから平気。しっかし、凄い臭いだね」

 換気扇は最大のパワーで回っているが。私たちは談話コーナーに移動した。


 談話コーナは相変わらずで、今は昼ご飯の支度の真っ最中だった。

「おっ、終わったか?」

 犬姉が笑った。

「うん、大変だったよ」

 私は近くの折りたたみ椅子に座って、目をシパシパさせた

「お疲れ。今日はジャンボチャーハンだよ!!」

 キキとマルシルが手伝いをして、大皿を折りたたみテーブルに置いた。

「アリサ、メシまだでしょ。交代送る」

『はい、隊長。ありがとうございます』

 犬姉が無線でアリサを呼び出し、しばらくすると談話コーナにやってきた。

「今日は豪華ですね。いつも乾燥したパサパサのパンが二つとか、マズいレーションですからね」

「そりゃ、警備中はいわば戦時体制だもん。いいから食うぞ」

 私たちは特盛りのチャーハンに、レンゲを入れて食べはじめた。

「大雑把かと思ったけど、美味しいね」

「そりゃ、メシ作ってナンボよ。軍隊じゃないけどね」

 犬姉が笑った。

「リズ、いつもの大食いはどうした?」

「それがねぇ、どうにも調子が悪くてね。風邪だと思うけど」

 リズが笑った。

「へぇ、リズでもそんな事があるんだね」

「一応、人間だからねぇ」

 まさかのリズの離脱だったが、主に私が中心に大皿チャーハンを食べ終えた。

「リズ、医務室に行った方がいいよ。昨日の戦いで、魔力が高い順で吸収されていたみたいだから」

「いや、大丈夫。フラフラするだけ……」

 リズが苦笑した。

「それが魔力切れの兆候なんだって。スコーンもよくなさそうだよ。これ飲んで」

 パトラが薬瓶を二本出して、テーブルに置いた。

「まあ、パトラがいうなら……」

「うん……」

 私はその苦い薬を飲んだ。

「十五分くらいで効いてくるはずだよ」

 パトラが笑みを浮かべた。

「はぁ、困った時のパトラだ」

 リズが笑った。

「ありがとう。さて、これからどうしようか?」

「研究者でしょ。研究しなさんな!!」

 犬姉が笑った。

「今は研究ネタに困らないけど、書類の束のお陰で肩こっちゃった。気晴らしがしたい」

 私は大きく欠伸をした。

「さっきの魔法薬の副作用だね。猛烈に眠くなる。慣れているはずのリズでさえ、こんなところでいびき掻いてるし」

 折りたたみ式の椅子から転げ落ちそうなリズを背負って、パトラは狭いテントに寝かせた。

「スコーンも横になったほうがいいよ。狭いけど、リズの隣に寝て」

「ありがとう、こりゃ強烈だ……」

 私はリズの隣に横になりそっと目を閉じた。


「おーい、大丈夫か」

 リズの声で、私は目を覚ました。

「うん、大丈夫。よく寝たな……」

 私は腕時計をみた。

 ただ今深夜一時。昼寝にしては長すぎた。

「あっ、起きた。とりあえず、水飲んで」

 パトラが水の瓶を持ってきてくれた。

「大分削られたね。こりゃ、強烈だ」

 リズがそっと立ち上がった。

「ちなみに、エルフのマルシルはキャパがデカいから、この程度じゃ問題ないよ。私は半分だけ平気!!」

 パトラが笑った。

「どんな単位だ……」

 リズが笑った。

「師匠、おはようございます」

 ビスコッティが笑った。

「この部屋の警備は問題ありません」

 アリサが笑みを浮かべた。

「モグラが一匹きたけど、迎撃してやったからね!!」

 犬姉とが笑った。

「やっぱりきたの?」

 私は苦笑した。

「カリーナだから守れたといえるでしょう。よく考えられた配管です・

 アリサが笑った。

「そっか、また魔力切れか。気合いでどうにかなるもんじゃないしなぁ」

「剣に救われた……まさにその通りかもしれません。エクスカリバーがなかったら、師匠も……」

 ビスコッティが苦笑した。

「だろうね。あれが魔族か。二度と遭いたくない」

 私は笑った。

「私もです。師匠が休んでいる間に色々文献を漁りました。ケタスは突然現れて世界中に魔物を放ち、メチャクチャに破壊したそうです。その動機は不明ですが、結果としてエルフと人間が共闘して、ようやくあの迷宮に封印したそうです。その時代も過ぎて、エルフと人間は距離を置くようになり、現在に至ったそうです。まさか、あんな雪原に埋まっているなんで、誰も考えなかったでしょうね。取りあえず今は立ち入り禁止にして、様子を見ているようです」

「そりゃそうだよ……。あれ、そういえばマクガイバーは?」

「はい、次の冒険を探しに、旅立ってしまいました。お礼にと、全員分の杖の設計図を置いていきましたよ。今は暇な時間なので、みんな必死になって作っています」

 ビスコッティが小さな笑みを浮かべた。

「もう少し仲良くなれればなぁ。えっと、杖の設計図は……」

 ビスコッティから渡された設計図を見ると、事細かに注意点が書かれていた。

「マクガイバーらしいね。とことん拘っているよ。さっそくやってみよう」

「はい、師匠。サポートの準備は整っています」

 ビスコティが、魔性石の入った箱を持って、小さく笑みを浮かべた。

「用意がいいね。さて、始めるか……」

 私は工具で杖の先をガードしているカバーを外した。

「さて、全部で百二十個か。これ以下だと、杖が破裂しちゃうんだよね。よし、地味な作業を始めるか」

 私は杖の魔法石の交換作業に入った。

「……こりゃとんでもない設計だね。切り札としか使えない」

 私はせっせと杖のセッティングを変えていった。

「よし、出来た」

 私は完成したばかりの杖に、実際に使えるか魔力を込めてみた。

 これで不具合があればげんなりだが、私の杖は問題なかった。

「さて、みんな終わった?」

 みると、みんなそれぞれの場所で、すっかり寝てしまっていた。

 時計をみると朝五時。まあ、寝ていても不思議ではなかった。

「さすがに凝った杖だよ。時間掛かっちゃったな。久々に学食にでもいってくるか」

 私は杖を片手に、学食に向かった。

 エレベータを降り、雪が解けて地面が見えてきた駐輪場から、比較的マシなマシンを引き出した。

「……ん?」

 なんとなく気配を感じ、首に下げていたビノクラで辺りを確認した。

「……気のせいだったかな。なーんてね」

 私は拳銃を抜いて肩越しに銃口を後に向け、なんか用事があったらしい黒ずくめが倒れた。

 私は倒れた男のポケットを漁り、パスポートとIDを取り出した。

「名前はゴンザレス・マックイーン……なんて偽名だ。商社マンね」

「はい、商社マンですよ。なんでも取り扱います」

 背後に振り向く勢いで手刀を放ったが、あっさりかわされた。

 私は内心ホッとした。

 ご飯を食べに行くつもりだけだったので、ドラゴンスレイヤーとエクスカリバーは研究室に置いたままで、拳銃しか持ていなかった。

「なんでもね……。いっておくけど、寝起きだよ。機嫌最悪だから」

 私が苦笑した時、学校中に凄まじい警報が鳴った。

「それは失礼を。商社なのでビジネスライクにいきましょう。我々はとあるクライアントからあなたの身柄を要求された。多額の料金を頂いたので、我々も引き下がれません」

 朝からきた馬鹿野郎は、そこで言葉を切った。

「まあ、そんなところだと思ったよ、いくらついたの!!」

 私はその男に銃口向けた。

「それは秘密です。ところで、ビジネスライクといったのに」

 男がなにか取り出して、力強く息を吹き出した。

 首にチクッと何か小さな痛みを感じた。

「それらどう……あれ、ろれつが」

「こんな時用の即効性の睡眠薬です。さすがに、アラスが作った魔法薬は効きますね」

「だ、誰が……」

 私は手に持っていた拳銃をカタカタ震わせ、男に向かって撃ったが外れた。

「はい、こんな危ないオモチャはいらないでしょう」

 男が私から銃を奪った。

「おい、急げ!!」

 他にも黒ずくめがどこかに潜んでいたようで、ほとんど意識がない私は担架に乗せられてどこかに運ばれていった。


 目を覚ますと、小型の輸送機に縛られて寝かされ。

 ちゃんと計画されているようで、猿隈をかまされていて、音声発動式魔法を使えなくされていた。

 ここで焦ってはいけないので、私はあくまで寝たふりを貫いた。

 どこに向かうのか分からないが、パイロットがもう直ぐ国境だぞと告げた。

「レーダーに反応あり、二機は随伴機のようですが、一機が急速接近中です」

「この低空飛行についてこれるほどとなると、ヘリですかね。あの学校には多数配備されていますから。振り切りなさい」

 男のイライラした声が聞こえた。

「無理です。恐ろしく速くて……」

「くそ、こんなところで高度を上げたら、レーダーに引っかかって大騒ぎになる。まあ、こっちには人質がいるんだヘタな事は……」

 いきなり爆音が聞こえ、飛行機がガタガタ揺れた。

「エンジンをやられました。着陸するしかありません

 けたたましいアラームの中、別の男性の声が聞こえた。

「やむを得ん、胴体着陸だ。その商品を椅子に座らせろ。間違っても傷つけるな」

 私は意識が虚ろなフリをして、二人の男に椅子が椅子に座らされて。そのままぐったり演技を続けた。

 目を閉じているので機内の様子はあまり見えなかったが、とにかく慌ただしい雰囲気に包まれていた。

「攻めて草原地帯ならな。このままじゃ森林地帯に突っ込むぞ!!」

「なるべく安全なところにおります」

 そんな声が聞こえた時、飛行機がバラバラになりそうな衝撃がきて、私はさすがに目を開けた。

 機内はメチャクチャで、全員気絶していたので、私は腰の後ろに挿してあったナイフでロープを切り、猿ぐつわを外した。

「全く、いい迷惑だよ」

 私は苦笑した。


 さて、飛行機から降りないと思っていると、扉に外からレーザー溶断装置の線が入ったので、私はなるべく近寄らないようにした。

 程なく扉が取り外され、ビスコッティが飛び込んできた。

「師匠、大丈夫ですか?」

「なんとかね。なんだったの、これ?」

 私は苦笑した。

「話は外で。犬姉が仕上げをするっていっているので、私たちは下がりましょう」

 私たちが下がると、上空を飛んでいた戦闘ヘリからミサイルの一斉射撃が始まり、ほとんどガラクタになっていた飛行機を粉々にした。

「あの輩は前から、手配が掛かっていた犯罪組織です。正体不明だったのですが、今回判明したので犬姉も容赦しないですよ」

 ビスコッティが笑った。

「そうなんだ。まあ、あっちに任せて、私たちは帰ろうか」

 夕闇迫る空の下、私は背を伸ばした。

「あの、皆さんの分を作りました。変な呪縛ではなく、健全な飛行の魔法で。どういう状況か分からなかったので二機用意してもらったのですが、帰りはホウキで帰りませんか?」

 キキが空間の裂け目から、ホウキをたくさん取り出した。

「おっ、いつの間に!!」

 私は思わず声を上げた。

「スコーンさん、お体は?」

 キキが聞いてきた。

「うん、大丈夫だよ」

「では、これがホウキです」

 キキが取り出したホウキは、電飾バリバリでイカしたオッチャンでも出来そうな、ド派手な物だった。

「このホウキの先端に、名前が彫ってあります。間違いありません」

 自分も………というか全員分ド派手なホウキをキキが片手に笑った。

「……な、なんじゃこりゃ!?」

「はい、夜間でもはぐれないように派手にしました」

「派手っていっても……。まあ、キキの力作だから乗ろう」

 私はホウキにま違った」

「……ちょっと教わった経験があるからね。浮く位は」

 私はホウキで浮くことに成功した。

 他のみんなが悪戦苦闘する中、キキが教えて全員飛び上がり、私はホウキの上で周囲を確認した。

 辺りは夜になり、春とはいえ、かなり冷え込んできた。

「出しかに、デコってるだけあって目立つね、そういう意味ではいいか」

『こりゃいい。誰がどこにいるか分かる。なくても分かるんだけど、目視は大事だ!!』 無線に犬姉の声が聞こえたが、私は聞き流した。

「よし、いくよ」

 私は緩やかにホウキを発進させ、徐々に加速していった。

 犬姉機が爆音も高らかに、集団の先頭に立った。

「寒い。さすがに夜だね。キキはこれで飛んでいたのか……」

 想像すると、かなり覚悟がいる飛行だった。

 そのまま何時間か飛び、いい加減寒くなってきた頃、前方に明るい大きな建物が見えてきた。


『おかえりなさい』


 暗闇に文字が浮かび、私はカリーナと知って特大の安心感を覚えた。

『先に帰ってて、空港からだから時間がかかる』

 無線に犬姉の声が入ってきた。

「分かった。研究室にいるよ」

 私は笑ったのだった。

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