第31話 ウエルカム?

 迷宮……大昔の人たちが作った遺物の中でも、特に重要度が高いなにかの役目があったもの。

 洞窟……地殻変動などで、ひょっこり地下に出来た空間。これを利用した迷宮もある。

 遺跡……迷宮を含めた、洞窟以外の遺物全般の事。

 いずれも過去の記録などが残されている可能性があり、魔法使いの中では大変重要視されている。

 しかし、それを専門にしている魔法使い以外、探索の大変さから自ら赴く事はなく、冒険者などから買い取るのが常だった。

「……とはいえ、出ちゃったもんね」

 翌朝、たった一日という離れ技で、地下二千メートル近くに埋まっていた迷宮を掘り起こし、崩壊しないように細心の注意を払って地上に移設し、さも今までそこにありましたといわんばかりに、古ぼけた建物がでーんと建っている姿を見ていた私は、各種保護系の魔法で、出来るだけ影響がないように作業している、王宮魔法使い建設部の皆さんをみて、改めてどえらい事をやったもんだと、正直ビビっていた。

「はい、おはようございます!!」

 テントから這い出したばかりで、眠気を覚ましていた私にパステルが元気よく挨拶してきた。

「おはよう……。もうちょっとで作業が終わるらしいよ。そしたら、チーム・スコーンのメンバー全員と犬姉、アリサで初回突入するらしいよ」

「分かりました。迷宮がそのままの姿で残っているって、すっごいレアケースなので楽しみです」

 パステルが笑った。

「確かに凄いね。地下は十層まであるって聞いたけど、地上は一階だけかな?」

「入ってみないと分からないですが、恐らくそうでしょう。これは探査し甲斐があります「カリーナの探査チームもじきにくるみたいだから、きたら交代になると思うよ。これはもう、私たちだけじゃ対応出来ないね」

「そうですね。もう少し単純なものかと思いましたが、ここまでされてしまうと、文句もいえません」

 パステルが苦笑した。

「一応、聞いた話だけど、保存状態はびっくりするくらいいいみたいだよ。そろそろ、みんなも起きると思うから、朝ごはんがてら打ち合わせだね。さて、どんなもんだか」

 私は笑みを浮かべた。


 みんなと朝ご飯中に話題になったのは、どこから侵入するかだった。

 色々案は出たがせっかく出入り口が表に出ているんだから、そこから入ればいいというのが、決定した事だった。

 一休みして、私たちはいよいよ遺跡を前にした。

「さて……」

 リズが呪文を唱え、虚空に浮かんだいくつもの『窓』に浮かんだ情報を確認した。

「地上は一階だけだね。行こうか」

「待って下さい。どうも、嫌な魔力が……」

 いつも通り、パステルが先頭にたち、朽ちてその痕跡しかない迷宮の入り口に向かった。外壁は相応にボロボロで、かつては荘厳だったであろう建物は見る影もなかった。

「ん、あの鳥野郎気になるな。ちっと突っついてみていいか?

 マクガイバーが杖を構えた。

「はい、他の装飾品は大ダメージを受けているのですが、あれだけ無傷なんです。あり得ません」

 パステル隊長が指を指した先には、屋根にまるで魔獣のような顔形をした石を削ったのか組み立てたのか分からないのだが、鋭いくちばしを持った何かが、こちらを睨み付けるようにしていた。

「ビスコッティパンチで、あれぶん殴ってみて!!」

「師匠!!」

 ビスコッティパンチが、私の顔にめり込んだ。

「ごめんなさいは?」

「……ごめんなさい」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「ここは魔力が強い。魔法より、武器で突いた方がいいかもな。銃ってヤツがよくわからねぇんだが、ちょっかいかけてみようぜ」

 私は頷き、肩に下げていたドラグノフを構えた。

 肩からマクガイバーが下り、私はスコープを覗いて照準を合わせた。

 発砲音と共に吐き出された弾丸は、石像のくちばしにヒットして弾かれた。

「あれ……。ただの石像じゃないの?」

「師匠、石像が動きますか?」

 ビスコッティの声に、慌ててスコープを覗くと石像の目が赤く光り、ゆっくりこちらを向いた。

「ぎゃあ、あれなに!?」

「ガーゴイルです。古い迷宮などで、お宝を守るために配置される事が多い、鳥形をした低級の魔族です。ぶっ壊しましょう!!」

 パステルがRPG-7を用意している間に、アリサがへカートⅡを撃ったが外した。

「バカ、相変わらず近距離はだめね!!」

 ビスコッティもへカートⅡを構え、ドンと一発撃った。

 瞬間、ガーゴイルが飛び立ち、弾丸が掠めて飛行態勢が一瞬乱れたが、まっすぐこちらに飛んできた。

「……ほらよ!!」

 マクガイバーが杖をかざし、吐き出した光球がガーゴイルを粉々に破壊した。

「まっ、低級の魔族だったら、俺でも相手出来る」

 マクガイバーが私の肩に飛び乗った。

「……ま、魔族って。たまに魔法書に出てくる悪魔?」

「はい、師匠。いわゆる悪魔です。今の技術が効くか分かりません。慎重にいきましょう」

 ビスコッティが小さく息を吐いた。

「では、行きましょう。この迷宮は怖いですよ」

 パステル隊長が表情を引き締めた。

 私たちは歩を進め、警戒しながら迷宮の入り口に接近した。

「罠はなさそう……」

「いえ、あります。そのまま進むと、体が粉々になってしまいます。エンジュ!!」

 マルシルがなにか魔法を唱えた瞬間、入り口でバチバチと火花が散り、パステルが驚きのの声を上げ、地面を転がった。

「格子状に、高魔力のエネルギー線を通してあるんです。この時代の罠ではポピュラーなものですね。私も先頭を歩きましょうか?」

「は、はい、死ぬところでした……」

 パステル隊長の顔色がよくなかった。

「パステルが引くほどか、気をつけよう」

 私は小さく息を吐いた。

「では、行きましょう。あれがあったということは、この建物は完成したからもう触るなという証なんです。そうそう、酷い事はないと思います」

「はい、行きましょう」

 マルシルは杖を片手に、パステルと並んで先頭を歩き、五歩ほどは背後を私たちはついていき、ついに迷宮に第一歩を記した。


 迷宮の中は何かが腐ったような臭い、かび臭さ、埃まみれの空気と、お世辞にも快適とはいいがたい、屋根が高いホールのようになっていた。

「……地階はこれだけかな」

「リズ、どう?」

 パステル隊長の呟きに、私はリズに確認した。

「そうだね、詳細探査でも引っかからないから、なにもないね。ここだけだよ」

 リズが返してきた。

「ありがとう。ここなんだろう?」

 私は辺りを見回した。

 特になにもなく、私たちはゆっくり奥まで進んだ。

「うーん……」

 その時違和感を感じて、腰の剣を見るとドラゴン・スレイヤーが青く光っていた。

「うげっ、ドラゴン接近警報。ドラスレに反応が出たよ!!」

 私はドラゴンスレイヤーを抜いた。

「も、もう!?」

 パステルが腰を抜かした。

「とりあえず、戦闘態勢!!」

 私が叫ぶと犬姉、アリサ、ビスコッティ、リズが最前列に立ち、マルシル、私とマクガイバー、キキ、パステルが後衛の二列目に立った。

「なんだおい、いきなり大物じゃねぇか。どれ、久々に暴れるか」

 マクガイバーがニヤッとした。

「いいか、俺たちは二連装砲だ。とにかく……生きろ」

「二連装砲って……。まあ、実際そうだけど」

「アハハ。この戦艦は主砲が多いぜ!!」

 リズが剣を抜いて構え、呪文を空だきして、左手の平でボッと魔法光を放った。

「……私も準備しておくか。テスト:オメガ・ブラストエクステント。レベルマックス」

 前方につきだした左手の平が、たまたまビスコッティの後頭部に当たって巻き込んで、部屋の反対側当たるほど伸びた青白い魔力の空撃ちは終わった。

「……師匠、なにやってくれるんですか。魔力光は臭いんですよ。くっさ……」

 ビスコッティがへカートⅡのレバーを引いた。

「こ、殺さないで。わざとじゃないんだよ!?」

「戦闘準備に入っただけです。師匠ももうテストはいいでしょう」

「あっ、そうか。がんばろ」

 そんなことをやっているうちに、床にサモンサークルが描かれ、真っ赤な竜鱗も素敵な中型クラスのレッド・ドラゴンが、せり上がるかのように出てきた。

「うわ、いきなりレッド・ドラゴンが出てきた。

「メガ・ウオール!!」

 リズが防御魔法を唱え、出遭いのブレスを防いだ。

 室温が一気に上がり、ブレスを受けた床の石が溶解して真っ赤になった。

「みんな、竜鱗だよ。頭の黄色いヤツ。めっちゃ暴れるけど、そこしか弱点がない」

「はい、分かってます。牽制してみます」

 ビスコッティがへカートⅡを撃ち、前足に当たったが簡単に弾かれた。

 それでもしつこくやっていると、頭にきたのかレッド・ドラゴンがビスコッティを目がけて前足を振り下ろしてきた。それで隊列は散開し、ビスコッティは後方に離れて水の魔法で気温を一気に下げ始めた。

 ドラゴンは変温動物なので、寒くなると動きが鈍くなるのた。

「さて、私は……」

 ドラゴンスレイヤーを構えた。

「俺たちは二連装だ。お前は剣で斬れ、俺はなんとか魔法でやってみる。コイツは楽しみだぜ」

 いつの間にか肩に戻ったマクガイバーがニヤッと笑った。

「分かってる、まずは腹を行くよ!!」

 私は剣を構え、思い切りダッシュした。

 気が付いたようで、ドラゴンは私の方を向いて、ブレスを何度も吐き出したが、手にしたドラゴンスレイヤーが勝手に炎を吸収してしまうため、気をつけるのは前足の踏みつけか、尻尾のなぎ払いだけだった。

「おりゃ!!」

 素早くドラゴンの腹下に飛び込んで斬り裂き、マクガイバーがその傷に杖を突っ込んで魔法を放つという攻撃を繰り返し、私たちはそのまま反対側に出ると離れた。

 腹から臓物をまき散らしながらも、レッド・ドラゴンは私の方に向かってきた。

 しかし、その体力は全くといっていいほどなく、私の目の前でレッド・ドラゴンは床に倒れて動かなくなった。

「こんな事を積極的にしたくはないんだけど、私たちは先に進みたい。あなたは止めたい。不幸だね」

 私は力を入れて竜鱗を斬り飛ばし、いきなりの戦闘を終えた。

「ビスコッティ、全員集合で怪我とかチェックして!!」

「はい、師匠。もう始めています。軽い火傷程度で問題ありません」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「ならよかった」

 私はドラゴンスレイヤーを鞘に収めた。

「はぁ、疲れた。基本的に苦手なんだよね」

 私は苦笑した。

「だったら剣なんてやめちまえばいいのにっていいてぇが、お前さんどこかで訓練を受けて、今でも実戦で使ってるな。だったら、ちゃんと剣も整備しておけよ。魔法剣なんて、久々にみたぜ」

 マクガイバーが笑った。

「もちろんやってるよ。オモチャじゃないからね!!」

 私は笑った。


 いきなりの罠、召喚魔法によるドラゴンとの戦いを終えた私たちは、全員無事を確認した。

 次は、下に下りる階段探しで、リズの調査系魔法が役に立った。

「ん、ここ不自然な空間があるな。そこの床見て」

 パトラが床に特殊チョークで丸を描くと、パステル隊長とマルシルが確認した。

「ここに、回せるなにかありますね。心配なので、魔法で開けましょう。下がって下さい」

 みんなで距離を空けると、マルシルが呪文を唱えた。

 床の小さな金具か回転し、カチッと音がした。

「では、空けますよ」

 マルシルの魔法で蓋が開き、中から大量の矢が飛びでてきて、バラバラと頭上に散った。

「やっぱりありましたね。パステルさん、メモは大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。これが一番乗りの恐怖なんです。基本的に機械式の罠は一回作動すれば二度目はないので、まだ安全なんですけどね」

 パステルが笑った。

「しっかし、これはハードだね。私たちだけじゃ誰か死ぬよ」

 犬姉が苦笑した。

「だから、これを専門にしている魔法使いを全員呼んだんじゃん。どうする、先に進む?」

 私はパステルに聞いた。

「はい、下りてみるだけ下りてみましょう。なにがあるか分からないので」

「分かった。みんな行くよ」

 私は小さく息を吐いた。

 まずは、魔法の明かりの中でパステルとマルシルが先行し、罠などの解除をしながら、階段をゆっくり下りていった。

「そういえば、この迷宮の公式な名前が決まったそうです。『コラージュ・スコーン』だそうです」

 ビスコッティが笑った。

「なにそれ、コラージュって。ルーン語で、暴れ者って意味じゃん。今は当たってるけど!!」

 私は笑った。

「はい、全て解除しました。先に進みましょう」

 パステル隊長が笑って進み始めた。

「解除出来たのは、機械式だけです。気をつけて下さい」

 マルシルが緊張感を感じさせる声で聞いてきた。

「魔法式は、近寄らないと分からないんです」

「じゃあこうしようか」

 私は呪文を唱えた。パルテルとマルシル、頭引っ込めて!!」

 パステル隊長とマルシルが飛び跳ねるように階段に伏せたのと、私が無数の炎の矢を束ねて飛ばしたのは、ほぼ同時だった。あちこちで、爆発する音が聞こえてきた。

「さすがに甘くないね。魔力感応式も無数にあったよ。これでクリアかな」

 私は苦笑した。

「はぁ、次々大変です。でも、久々に冒険心がくすぐられます。生きてるなって感じで!!」

 パステル隊が笑った。

「そっか、ならよかった。これだけ予算と人を使って、パステルが満足してなきゃ意味がない。まあ、そうでもなきゃ勝手に書類を提出したって、私のサインがないって弾かれておしまいだったけど」

 私は笑った。

「そ、それは、ごめんなさい。もうしませんので」

「まあ、私のチームらしいけどね。さて、いこうか」

 私たちはさらに階段を進んだ。


 階下に下りると、パステルとマルシルの罠解除が始まった。

 地下一階は上と違って神秘的で、淡く光るブロックで壁と通路が作られていた。

「手付かずか……」

「はい、誰も侵入した形跡がありません。なんの目的なのか分かりませんが、かなり重要な建物でしょう」

 パステルが罠を探しながら、小さく笑った。

「おーい、探査系の魔法だと、ここは部屋もなければなにもない、ただの通路みたいだよ。生体反応も私たちだけだし、どう考えてもただの通り道だよ」

 リズが魔法をコントロールしながら、小さく息を吐いた。

「はい、そうだと思います。罠チェックを厳しくしているのは、それだからなんです。通過するところに罠ありです」

 私たちはそのまま慎重に進み、途中に一個だけあった弓の屋をパステルが壊しただけで、私たちは下に向かう階段にたどりついた。

「予想ですが、ここは宝物庫のようなものです。出入り口の異常な警戒さからして、埋めたあと二度と地上に出さないという意図を感じます。そうでなかったら、こんな一本道なんて作りませんし、絶好の罠ポイントでオマケのようなものが一つあっただけです。魔族が関わった迷宮です。迂闊に進むのは危険ですが、どうしましょうか。作戦を練り直した方がいいかも知れません」

 パステルが困り顔で、私に問いかけてきた。

「パステルが戻った方がいいっていうなら戻るよ……但し、階段があったらね」

 私は苦笑した。

「えっ!?」

「みてみなよ。さっき下りた階段がないんだよ。リズ、どうなってるの?」

「それがねぇ、この一画ごともの凄い勢いで壁が組み替えられて、高速移動中なんだよ。今は、ここから動くなが正解だね。危ないから、座っておいた方がいいよ」

「そ、そんな……」

 パステルはなにか考えている様子ながらも座った。

「快適なのはいいんだけど、目的地が分からない。このブロックが高速で移し替えられてる。どこかに向かっているみたいだけど、まさに暴れ者だね」

 リスが笑みを浮かべた。

「そうなんだ……どこにいっちゃうんだろう」

 しばし誰もなにもいわないでいると、軽い衝撃があった。

「止まったよ。なんだ、この巨大な扉?」

 リズが、不思議そうな表情を浮かべながらいった。

「こりゃ、強烈だね。とんでもない魔力だよ」

 私は突如現れた扉の向こうから、とんでもない魔力が流れ出ているのを感じ取った。

「これ、魔族の魔力です。かなり高位ですよ」

 マルシルが目を閉じた。

「おいおい、こりゃやべぇなんてもんじゃねぇぞ。俺の魔法じゃ太刀打ちできねぇ」

 マクガイバーが私の肩の上で杖を構えた。

 しばらくして勝手に扉が開き、よく分からない力で中に引き寄せられた。

 そこには異形の物体としかいえないものがあり、私の腰の剣で今まで出番がなかったエクスカリバーが強烈な光りを放った。

「……今度はこれか」

 私はエクスカリバーを抜いて構えた。

「みんな、注意。絶対魔法は使わないで。どんどん吸収して強くなる!!」

 リズが声を飛ばした。

「分かりました。その方が気合いが入ります」

 アリサがナイフを抜いて構えた。

「師匠は後に……」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 しばらくすると、異形の物体は人間のような姿になった。

「出力を抑えたところで、漏出する魔力は抑えられん。久々にメシを食ったぞ」

 男が笑みを浮かべた。

「……あっ、ケタスです。私の子供の頃に、世界をメチャメチャに破壊し、エルフ族と大戦争を行った結果、なんとか倒してどこかに封印されたと聞いていましたが、まさにこれは」

 マルシルが冷や汗をかき始めた。

「うむ、そんな名で呼ばれていた頃もあったな。まさか、倒されてこの地に封じられるとは思わなかったが……。機は満ちたか」

「これで腑に落ちました。なぜ上の階が罠だらけでドラゴンまで出てきたのは。少しでも、あなたを外に出さないようにと……」

「それは違うな。あれは、絶対中に入るなという意味だろう。あんなもの効かないからなさて、初対面のご挨拶はこれまでだ。こんな牢屋まで作ってくれたお陰で、逆に内部は意のままに動かせるので、我が城のような気分でいい。腹が減って堪らんので、勝手に招待した。なんなら、このまま召し抱えてもいいぞ」

 ケタスが笑った。

「……冗談でしょ。結局、倒せばいい。それだけ」

 私は光り輝くエクスカリバーを構え直した。

「むっ……。そこの剣をどこから。そういう事なら、遊んではいられないな」

 始めてケタスの表情に少し動揺が走り、凄まじい魔力を放った。

「っつ……。なんて魔力だよ。物理干渉が……あっ」

 物理干渉とは、本来は魔力は実在するものは素通りするのに、それでは済まずに破壊してしまう現象の事だ。

 慌てて周りをみると、私以外の全員が大変な事になっていた。

「ほう、どうやらその剣は本物のエクスカリバーだな。所有者を守る結界を自動で張った」

「……そんなことはどうでもいいよ。かなり、キレちゃったかな」

 私は剣を構え、一気に間合いを詰めて、袈裟懸けにケタスを斬って、後に間合いを取り、今度は剣を水平に構えて何度も突き刺し、後方に跳んで間合いを開けた。

「うむ、かなり痛いな。だが、話に聞いていた程ではない。噂は噂か……」

 ケタスがニヤッと笑みを浮かべた。

「……」

 私は、再び剣を構え呪文を唱えた。

「『光りの矢エボリューション』!!」

 私は同時に剣を片手に突っ込んだ。

 攻撃魔法は吸収されてしまったが、光り輝く剣はそのままケタスの胸板を貫いた。

 剣を力任せに引っこ抜いて、私は側方に飛び退いて距離を空けた。

「無駄だ。死ね」

 ケタスが私の方に手を向け、白い火球を撃ち出したが、私はそれを難なく避け、牽制の意味で火球を一発撃ちだし、そのまま距離を空けた。

「なるほどな、それなりに戦ってきた様子だな。では、私もそれなりに……」


 ……47103263827。唱えて下さい。

 どこからか声が聞こえ、私はその通りにした。

「……主よ。よくぞ開放の呪文を唱えた。あんな小童、敵ではない。いけ」

 聞き覚えのあるエクスカリバーの声が聞こえ。刀身から放たれる光と魔力が、凄まじい暴風を巻き起こしたが。

「なんだと、手抜きしいていたのか?」

 私はそれには答えず。ケタスに一気に近寄って、その首を斬り飛ばし、胴体と生き別れになった体が、たちまち灰になって吹き飛んだ。

 残った頭部に私は思いきり体重を掛けて踏みにじったあと、エクスカリバーで滅多斬りにした。

「フン、外道……私か」

 私は光りが消えたエクスカリバーを鞘に収め、小さく息を吐いた。

「……ファイア・アロー」

 私は試しに攻撃魔法を放ったが、特に問題なく発動した。

「よし、まずはビスコッティからいって、マルシルか……。物質干渉でこれじゃ、堪ったもんじゃないね」

 私は杖を出した。

「危ねぇ野郎だったな。お前さんも大したもんだ。杖でなにするんだ?」

 どこにいたのか、マクガイバーが私の肩に乗った。

「蘇生。壊滅だもん。倫理なんかいってられる状況じゃない」

 私は杖を掲げ、あんまり使いたくない蘇生術で、ビスコッティを起こした。

「あれ、師匠?」

 ビスコッティがキョロキョロ辺りを見回した。

「説明はあと。見ての通りだから、やるよ」

 私は小さく息を吐いた。


 全員を起こしたあと、私は状況を説明した。

「なに、物理干渉で!? 攻撃すらされてないのに」

 リズが声を上げた。

「全く、堪ったもんじゃないね。さて、まずは帰ろう。あの野郎……」

 犬姉が小さくため息を吐いた。

「アイツがいなくなってから、迷宮の構造が戻っていくよ。この部屋は最奥部にあったみたい。帰るのが面倒だね!!」

 リズが苦笑した。

「あの、滅多に使うなといわれているのですが、転移の魔法で外に出ましょう。キリがありません」

 キキが呪文を唱え、私の視界が暗くなった。


 視界が戻ると、そこは建物の外だった。

「まさに暴れ馬どころじゃなかったね。結局、これは結界の一種みたいなもんだったか」

「それも、かなり大規模なね。これは、研究したくても大きすぎるな。あのブロックは、後で研究しよう」

 リズが笑った。

「まあ、これで安全でしょ。初動探索者の任務は果たしたよ」

 私は笑った。

 初動探索者の任務は、真っ先に一番乗りして、迷宮内の調査や危険物の排除を行う事だった。

 迷宮とした微妙ながら、大仕事をは片付いた。それで、十分だった。

「なんかご飯いらないや。テントで寝させて!!」

 私は雪空を眺め、小さく苦笑したのだった。


 私がテントで休んでいると、猫缶を食べていたマクガイバーが、ふと顔を缶からを上げた。

「おい、また空飛ぶうるせぇのがきたぜ。重低音バリバリでたまったもんじゃね」

「どっかのヘリコプターでしょ。初動探査が終わったから、どんどん後陣がくると思うよ」

 私は笑った。

 しばらくすると、輸送ヘリではあり得ない重低音が響き、何事かと私はテントを出てヘリポートに向かった。

「な、なんじゃアレ!?」

 ヘリポートに到着したのは、どこかの戦場にでもいた方が相応しいのではないかという、武骨すぎてやる気がありそうなヘリっだった。

「あれ、ここじゃなくて、カリーナの校庭に配達をお願いしたのにな」

 どこからか、犬姉が出てきて笑った。

「なにあれ!?」

「うん、たまにはボーナスくれ、なんでもいいからくれっていたら、校長先生がいいっていったから、私好みの戦闘ヘリをくれっていったら、本当にくれたんだよ。予備機も合わせて二機。もちろん、新品じゃないけどアパッチを大改造したら、新しく作った方が安く上がったって、オマケ付けでね!!」

 犬姉が笑って、到着したばかりのヘリに近寄って、パイロットと話しはじめた。

「あれは、ここに置かれたら邪魔だな……。しっかし、専用機ってどんな仕様なんだか」

 私は笑った。

「師匠、やりましたね。まあ、またサシで勝負させてしまって、私としては複雑ですが」

 ビスコティがやってきて、苦笑した。

「あれは想定外でしょ。エクスカリバーがなかったら全滅だよ。さて、後は迷宮なんかの専門家に任せよう。私の研究は終わった!!」

 私は笑ったのだった。

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