第28話 助手試験完全終了(改稿)

 全員が公的に冒険者と認められたその日、そろそろ晩ご飯を考える時間となっていた。「そこのスペース使って、祝勝会でもやって盛り上がろう。アリサと私の警備時間帯をずらして!!

 ビスコッティが買ってきて、テーブルに山と積まれたハンバーガーを一個取り、犬姉が頬張った。

「私はお酒!!」

 ビスコッティが、とっておきをテーブルに並べはじめた。

「……たこ焼き」

 呪文を唱え、テーブルに手をかざすと、山のようにたこ焼きが現れた。

「……出来た」

 私は小さく笑みを浮かべた。

「こら、そんなもん召喚しなくたって、焼けばいいじゃん」

 リズが笑った。

「おっ、たこ焼きもある。アリサ、焼きそばを焼け。二分だ!!」

「ラジャ!!」

 こうして、なし崩し的に祝勝会は始まった。

「ビスコッティ、お酒!!」

「はいはい、飲みますね」

 犬姉のマスにお酒をつぎながら、ビスコッティが自分のマスにもついだ。

「……シャボン玉」

 なんとなく呪文を唱えて手を天井に向けてかざすと、大量のシャボン玉が降り注いできた。

「うわっ?!」

 私は慌てて逃げ出し、ビスコッティがすかさず料理の防御に入った。

「師匠、ボンヤリしてなにやってryんですか?」

 分からないけど、気合いがはいらないんだよね。ビスコッティ」

 私が呪文を唱えると、模型のように小さな飛行機が飛び、なぜかめだつ黄色いヘルメットをした超小型ビスコッティが、テーブルの上に着地しては次々にフォーメーションを組んでいた。

「師匠?」

 笑みを浮かべたビスコッティが私の顔面に、拳を盛り込ませた。

 瞬間、配置についていた子ビスコッティが一斉に射撃を開始し、ビスコッティがぶち切れた。

「あなたたちも私なら、ちゃんと加勢しなさい!!」

 その時バタバタとおおきなヘリの音が聞こえ、ビスコッティにを機関砲でボコボコのけちょんけちょんにしたあと、輸送機が三機通りかかかり、無数の私を降下させて飛び去っていった。

 パラシュート降下するチビ私に向けて、先に着いていたビスコッティたちが一斉に射撃を始めた。

「撃ってるよ、ビスコッティが撃ってるよ。何人もやられてるけど、まだ撃ってるよ!!」

 私は悲しくなって涙が出た。

「これが空挺だよ。降下中は無防備だから、もう気合いだね」

「いたた……なんで、私だけあんなデカいアパッチが……。師匠、なにやってるんですか!?」

「……ビスコッティに一杯殺されてる。でも我慢しないと。この子たちが可哀想」

 ビスコッティがテーブルの上を見てハッとした。

「ぎゃあ、なんで私と師匠が撃ち合いやってるんですか。作戦中止です!!

 大人ビスコッティがいっても、戦況に全く変化はなかった。

 無事にテーブルに降下したちっこい私たちは、素早く隊列を組んビスコッティ立ちと派手な撃ち合いをはじめた。

「おっ、面白そうじゃん。リズ、やろうぜ!!」

「え~、犬姉とやるの ……」

 あまり乗り気ではないようだが、ヤル気満々の胃に姉に押され呪文を唱え、小型の飛行機がブンブン上空を飛びはじめた。

「ありゃ、大好物のF-4じゃん。こりゃ負けられいね!!」

「私も出ました。やっぱりMig21です!!」

「ちょっと、なんであたしだけB-52なの。いい機体だけど、爆撃機じゃん!!」

 リズが呼び出したのは、八機の爆撃機だった。

「しめしめ……」

 犬姉がリズ機に向かおうとすると、一気がオレンジ色の球体になって吹き飛んだ。

「なに……!?」

「どちらにお出かけで。まだ勝負は付いていません」

 犬姉率いるF-4隊にビスコッティのMiG-21部隊がしぶとく食いつき、リズのB-52隊は無傷のまま低高度で地上のチビビスコッティ隊に肉薄していった。

「よし、いくぞ!!」

 B-52が盛大に爆撃を行うなか、大混乱のビスコッティ隊をボコボコにやっつけ、私のチビ部隊は待っていた大型ヘリに乗ってあっという間に離陸していった。

「……勝った?」

 チビ私たちが喜んでいるところをみると、どうやらミッションプリコンリートらしい。

 この結果に、犬姉とビスコッティが固まった。

「しまった……地上部隊」

 犬姉が呟いた。

「師匠に負けちゃいましたね。犬姉相手では結構いい勝負でしたが」

 ビスコッティが笑った。

「あたしは爆撃機だったから、地上のサポートするしかない。だったら、スコーンにやっておこうって思っただけだよ!!」

 リズが笑った。

「コホン。これも召喚魔法です。師匠?」

 ビスコッティがへんな笑顔を浮かべた。

「怖い、怖いよ!!」

 私はリズの後に隠れると、服の襟元を取って、そのままぶん投げた。

「師匠、怖いと何でも投げる癖は直して下さい。リズ、師匠に悪気はないので」

「い、いいけどさ、なんで素人にぶん投げられたかな。そっちの方が問題だよ」

 リズが苦笑した。

「投げるのは師匠の特技なんです。人を投げるのも得意ですし、車だってなんだってぶん投げます。ナイフ投げなんて最高ですよ」

 ビスコッティが笑った。

「……暴れてる時は、近寄らないようにしよう」

 リズがポソッと漏らした。

「師匠はすぐ終わりますので……」

 私は笑顔のビスコッティをみた。

「ごめんなさいは?」

「……リズ、ごめんなさい」

 私は小さく息を吐いた。

「いや、全然気にしていないよ。えっと、ここにアジトを設置して……」

 リズがまたなにかはじめた。

 ボロ雑巾のような建物を宙にうかべ、周囲に五人ほど汚らしい姿の人たちが歩き始めた。

 召喚魔法を使っているとはいえ、なんだかシュールな光景だった。

「長距離バスジャック事件発生。犯人は五人の目出し帽を被った連中で、どれも黒ずくめと下ろされたバスの運転手の証言あり。こんな事件が舞い込んできたらどうする?

 リズが笑った。

「決まっています。助けますよ。実行犯が五人ですか。十人までは可能性がありますね。それ以上は、グループが分裂する可能性があります」

 ビスコッティの言葉に頷き、リズが建物の中に二人追加した。

 いかにも悪そうなオッサンと、ずる賢そうなオッサンがおかれ、全体のディテールがハッキリしてきた

「ボスと側近がこのくらいかな。規模としては、かなり小さいね」

「あの、人質の皆さんは?」

 キキが遠慮がちに聞いた。

「すでにこのあばら家を発って、近くの大きな街に向かって草原を走ってる。夜道が危ないのは連中も一緒だからね」

 リズが鉄格子状になった荷馬車をアジトから遠ざけはじめた。

 アジトから険しい山道にさしかかり、先に出ていた荷馬車の動きは鈍かった。

 これが勝手に動いているので、私は面白かった。

「よし、チャンスだよ。バスの運転手の証言から山道を探していけばいい。アジトはあとでいいから、いまは飛行の魔法で先回りが優先だよ」

 リズが頷くと、私たちも姿を変えて駒になって山沿いを飛行していった。

「当然、ビノクラくらいはみんな持ってるし、使わない手はない……」

 そのうち、鉄格子状の檻のようになった荷馬車が、悪路で悪戦苦闘しているのが見えた。 私はその近くの上空に止まり、ドラグノフを構えた。

 追ってリズが並んで狙撃銃を構え、ビスコッティが無反動砲を構えた。

 罵声や土星まで聞けるリアルさで、私たちは世界に入り込んでいた。

 リズの合図でビスコッティがカール・グスタフを放ち、車輪の一つを弾き飛ばして進めないようにした。

 リズが小さく笑みを浮かべ、狙撃銃を構えると、オロオロする五人の頭を次々に穴を空けながら、私に合図送ってきた。

 私は頷き、鉄格子の中から出てきた皆さんを山道に座らせた。

 その間、迫ってきた五人を銃剣でなぎ払い、ビスコッティが黄色の信号弾を打ち上げた。 すると、近くに待機していたブラックホークが飛来して、救助作戦が始まった。

「よし、仕上げ行くよ!!」

 

 山道に下りたリズが、私の肩をポンと叩いた。

「うん、いこう」

 この悪路で馬車からアジトまで脇道をがあるとは思えず、私とリズは山道を馬車が進んでいた方とは逆に歩いた。

 しばらくすると、リズがハンドシグナルで停止と配置につけと指示してきたので、私はは手近な木に登って、狙撃銃を構えた。

 リズがあばら家とすらいえないぼろ屋に入ると、いきなり銃撃戦が始まった。

 それをビノクラで監視していると、外から五人頭が悪そうな連中がやってきたので、狙撃銃のスコープを覗いた。

 体力と筋力だけはありそうな先頭の男照準を合わせ、こめかみを根らって一発撃ち込んだ。

 それで乱れた隊列に向かって、私は一人一人弾丸を送り込んで始末した。

「よし、他にいないね」

 私はビノクラをで首位を確認してから白煙弾を打ち上げ、ぼろ屋の中から床二人を縛って引っ張り出してきたリズが笑みを浮かべた。

 

「うん、これ面白」

 私は笑みを浮かべた。

「面白くありません。カール・グスタフをぶっ放しただけじゃないですか!!」

 なんか気に入らなかったらしく、ビスコッティがビシバシ私の顔を叩いた。

「……あれ、機嫌悪いから」

「……みれば分かる」

 私とリズはヒソヒソした。

「はい、こういう思考実験のような事も、冒険者ライセンスのプラスポイントになります。みっともない初心者グリーンなど、とっとと卒業しましょう」

 パステル隊長が笑った。

「そうなの、もっとやろう!!」

 私は召喚魔法を操作して、天空に伸びる岩山の山頂付近に宝物庫を作った。

「あっ、これってお宝ざくざくなかんじの……」

「そう、生き返れればね!!」

 私の言葉を聞き、パステルが小さく笑みを浮かべた。

「いいじゃないですか。俄然ヤル気です」

「私たちはどうしますか。私はいきます」

 キキが笑みを浮かべた。

「もちろん行きますよ。ポイント稼がないと」

 マルシルが頷いた。

「あたしはいくよ。パトラもね、犬姉は負けられん!!」

「師匠がいくならいきます。今度もカール・カスタフだったブチ切れますが」

「それはないよ。そもそも、銃という名の武器はない!!」

 私は笑みを浮かべ、みんなを世界に案内しった。

「ああ、銃がない。ナイフ、ナイフなんですね!!」

 ビスコッティが喜び、せっせとナイフを研ぎ始めた。

「へカートⅡがない……せめて、杖で」

 アリサが世にも珍しい、対物ライフルみたいな杖を取り出した。

「それでぶん殴ったらだめだよ。壊れちゃうから!!」

 私は笑った。

 

 私は必死こいて最上階に辿りつき、いよいよ三つ並んだ宝箱と対峙した。

「動かないで下さい。この時のために、私はここにいるんです」

 パステルがチリッと靴音をたて、少し宝箱に近づくと、警告音と共に壁が爆発して、三つの宝箱が空に放たれた。

 それどころか攻撃魔法で攻撃してくる始末で、パステルの目が点なった。

「どうよ、この獲れる物なら獲ってみろ宝箱!!」

「うわ、ムカつく!!」

 犬姉が杖をかざし、いつ覚えたのかド派手な光りの矢を放った。

 面白い事に犬姉が向く方に光りの矢が飛び、不完全な爆発ながら一個に黒煙を吐かせた。

「銃もない、剣も届かない、もう魔法しかないよ!!」

 私は笑みを浮かべた。

「魔法って……」

 キキが杖を振りかざし、山間の谷で大爆発をおこした。

「ああ、お宝が……」

「大丈夫です。この宝箱にはお宝は入っていません。ならば、必殺技出しますよ」

 パステルが呪文をとなえると、流麗なデザインをした戦闘機が一機現れた。

「では、いってきます。銃が乗せられないって、徹底してますね」

 パステルがコックピットに乗り込み、戦闘機は発進していった。

「あ-ズルい。しかも、スホイのイカしたやつ!!

 犬姉がアリサの胸ぐらを掴んだ。

「……今すぐ作りなさい。隊長命令だ。」

「じ、自分でやって下さい。ビスコッティさんが、自力で作って飛んでいきましたよ」

「なんで!?」

 ちょうどビスコッティの戦闘機が飛んでいったばかりで、室内はもの凄い熱気が詰まっていった。

「いっとくよ、これは召喚魔法の世界だからね。ほしかったら、自分でやる!!」

 私は笑った。

「オーケイ、そういうことならこれを出してやる。今のところ敵なし、F-15!!」

 犬姉のイメージで戦闘機が作られ、主翼に魔力法をしこたま積み込んで発進していった。「さて、いったね。かかったな、その他から箱は背後に付いたら離れない。ただそれだけ!!」

 犬姉の戦闘機をひたすら追いかけ続ける青い宝箱は、紫の宝箱と交錯すると場所を変わり、メチャメチャに攻撃を始めた。

「今度は逆。いい加減気が付かないから、一個墜とすかな……あっ、ビスコッティが動いた」

 それまでのらりくらりと飛んでいたビスコッティが、すっと一個の背後につき、そのまま体当たりした。

 グチャグチャになったビスコッティの機体は、一秒もかからないうちに元に戻った。

「……そう、物理攻撃は効かない。魔力法なら墜とせるけど、効率が悪いだったら」

 私は呪文を唱え、まずはボロボロになった犬姉機を追っている宝箱にドカンと攻撃魔法を叩き込んだ、

 その一瞬で宝箱はバラバラになってしまい、穴だらけになった戦闘機が帰ってきた。

「なんなの、もう!!」

「シンプルだよ、魔法で倒せ。これ、魔法実習も兼ねてるから」

 私が笑みを浮かべると、犬姉はガクッと首を落とした。

「早くいって……」

「それじゃつまらないでしょ。今度パステル隊長が暴れ出したよ。凄まじい勢いで宝箱を叩き落としに掛かってる!!」

 完全に燃え尽きた犬姉は取りあえずおいておいて、パステル隊長の様子を覗った。

「……そう、キャノピーをそうやって透過させて撃つんだよ。他の武装なんかゴミなんだから、それに集中して」

 私が笑みを浮かべると、キキがいきなり攻撃魔法を放った。

 なにがあっても避ける宝箱だったが、このダブル攻撃は私でも予想していなかったので、二人の魔法が箱の角を掠った瞬間、爆発を起こして、宝箱が迷走をはじめた。

「ま、マズい!!」

 思わず叫んだ時、頼れるビスコッティがMiG-21で追いかけはじめ、ドカンと強烈な攻撃魔法で撃墜した。

「これでおしまいかな。面白いね、これ!!」

 私は笑った。


 召喚魔法で遊び、再び静かになった研究室で、私は机の鍵を開けて中身を取り出した。「極資料はいいとして、これだ!!」

 私は賞状用紙を三枚取り出すと、パステル、キキ、マルシルの順に手渡した。

「助手検定最終合格証……今まで助手じゃなかったんですか!?」

 パステルが声を上げた。

「あくまでも仮だったんだよ。雇う方も怖いから。これなら大丈夫、三人とも合格だよ。まあ、ビスコッティに聞いて!!」

 私は机の引き出しを施錠して、小さく笑みを浮かべた。

「みなさん、師匠の嫌がらせとか嫌みではないんです。真面目な助手検定だったんですよ。遊んでいるようで、性格とか見てますからね」

 ビスコッティが笑った。

「だって、怖いもん。これで、みんなでチームスコーンだよ。犬姉とアリサは警備だからどうしていいかわからん。

「アリサはここ担当だし、仲間に入れてあげてよ。私はどうでもいいや!!」

 犬姉が笑った。

「そうはいかないよ。警備の仲良しでいいか。堅苦しくていかん!!」

「はい、ありがとうございます。あの、隊長は?」

 心配そうなアリサに、私は笑った。

「もちろん仲間だよ。でも、素直にうけとらないだろうから、アリサに任せた!!」

「はい、お任せ下さい」

 アリサが笑った。


 正規助手認定まで待っていたのだが、私は出入り口になるエレベータに小さな名札を掛けた。

 表面の黒字が出勤、反対側の赤字が退勤だ。

「まあ、レトロだけどね」

「こういうのがいいんじゃないですか」

 ビスコッティが笑った。

「……あと、クランペット不採用の件は頼むよ。滅多に出てこないし、どうも信じられん。最低でも、呼べば来てくれないと」

「あの子は簡単には無理でしょう。分かりました、私の手駒で使います」

 ビスコッティが苦笑した。

「うん、残念だけどね。私の助手にはつらいかな。さて、正式に助手も増えたし、なんかやるかっていいたいけど、雪で空路すら怪しいもんね。今のところ、パトラとキキの魔法薬実験くらいか」

「はい、あとは師匠が個人的にやっているメダカの飼育くらいです。このまえ、卵がぎっしり水草に付いていましたよ」

「おっ、生まれたんだ。そろそろ水槽を分けないと、大人に食べられちゃうな」

「気になったので、勝手にやっておきました」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「ありがとう。そっかそっか、元気でいいねぇ」

 私は自分の椅子に座り、ノートパソコンを開いた。

 校内システムを開いて人事データを入力して閉じ、私はため息を吐いた。

「気にすることはありません。談話コーナでみんな盛り上がっています。いきましょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、私は苦笑した。


 毎度の事だが、晩ご飯は鍋を挟んだ豪勢なものになり、リズがドローンを飛ばして遊びはじめた。

「こら、屋内で遊ばない!!」

「それをいうなら、屋内でたき火はやめなさーい」

 酔っ払ってるふうで、実は全然酔わないというビスコッティ見たいなリズは、実はお酒はあまり好きではなうようだ。

 場が温まるまで付き合い程度に飲んで、あとはウーロン杯ではなくウーロン茶にしているらしい。

「これ、機密情報だからね!!」

 情報提供者のパトラが笑った。

「その辺は気が合いそうだなぁ。私もあまり得意じゃないんだよ」

 私は苦笑した。

「私はエルフ酒で鍛えてあるから平気だけど、リズは頑張っても中ジョッキ二杯かな。もったいない!!」

 そのビスコッティとリズは、寄りによってサシで窓際に座ってなにか話し合っていた。「どうしたの?」

 なにか図面を見ていたリズに、パトラが声を掛けた。

「うん、研究棟が一つじゃ手狭になってきたから、もう一棟建てるかって話をしていてね、ビスコッティは必要なら急いだ方がいいっていうし、建設部が駐屯してるから作業は早いだろうって話でさ。パトラはどう思う?」

「先生が許可を出せばいいと思うよ、実際狭い部屋は大変らしいから」

 パトラが笑みを浮かべた。

「それもそうか。明日聞いてみよう。研究科は、事実上私が世話役だからねぇ」

 リズが笑った。

「狭いのに、こんな立派な面積の部屋をもらっちゃっていいのかな。様子見ながら機密情報を書架に出してるけど、あとは研究題材次第なんだよね」

 私はガラスが張られた壁があり、向こうが見える特別室と名付けた部屋を見た。

 中はいい加減整理したかった機密情報で、ヘタに機密などと部屋に名前を付けたら、目をつけられてしまうというので、わざとよく分からなくしてあった。

「ここは、いわば特権階級なんだよ。これは、スコーンたちが来る事になって、そこまでの資料でごく普通に決まった事だから、これが実力だと思って。

 リズが笑った。

「なんだ、それならいいや。最近は犬姉とアリサについて以外の研究をしていないな。これも結論がでたし、黒いフォルダに入れて保管してあるよ。外には出せないからね」

「なんだ、もう終わっちゃったか。意外と簡単だったのか、徹夜してやったか……」

「毎晩徹夜だったよ、大変なんてもんじゃなかったよ」

 私は苦笑した。

「共同研究なんだから、ちゃんと声を掛けてよ」

 リズが呆れたような声を出した。

「慣れてないんだよ。全部一人でやっちゃうから。レポートは……」

 私は書架室に入り、特別室と書かれた扉の鍵を開け、中から黒いフォルダを積み上げて持ってきた。

「これが前部だよ、読み終わったら、最後ページと表紙にサインして!!」

「分かった、凄いなこりゃ……」

 リズが未読のファイルをパトラに預け、持っていた一冊を真剣な顔をして私のレポートを読み始めた。

 まるで機械かなんかのように、一冊読み終わるとリズはパトラから二冊目を受け取り、また黙々と読み始めた。

「あっ、これね。リズが全集中で読む事に移行した証拠だから。動きが変だけど気にしないで」

 この繰り返しで、リズはあっという間に私のレポートの最終ページにサインして、表拍子にもサインした。

「いいじゃん。いいところみてる。参考になったよ!!」

 リズが声をあげると、空中に星が現れ、すぐに弾けて消えた。

「今のは冒険者として相応しいことをすると、ポイントがたまったよって合図が出るんです」

 パステルが笑った。

「へぇ、おもしろいね。読み終えたら戻してくるよ」

 私はパトラからリズが読み終えたレポートのファイルを回収し。特別室の書架に置き直した。

 扉を締めて鍵を掛けると、小さな星が弾けた。

「あれ……」

「重要なところには鍵を掛けるか、それなりの措置を取る。冒険者の基本です」

 パステルが笑った。

「ああ、稼がれた。パトラ、早くあの部屋掃除しろ!!」

「無理」

 パトラがリズを蹴っ飛ばした。

「蹴ったなこの!!」

 リズがパトラに蹴り返したが、、パトラは無視した。

「こ、この……」

「おーい、鍋が煮えちゃうぞ!!」

 犬姉ののどかな声が聞こえた。


 豪華鍋の夕食を終え、アリサは門番に立ち、犬姉は夜回りの番らしく、部屋から出ていった。

「はー、面白かった。風邪引くなよ」

 リズが笑った。

「リズ、そろそろ本腰入れないとまずよ。機嫌は一週間後だから」

 パトラが二丁下げてたライフルを一丁、リズに渡した。

「はぁ、そうだね。こっちも仕事が山積みでさ、裏ばっかり!!」

 リズが笑った。

「裏の仕事か……」

 私は呟き、小さく息を吐いた。

「まあ、大した事はないんだけどね。いつも通り。カリーナの機密情報を狙ってくる連中だから。これも冒険者の仕事かねぇ」

 私が呟くと、巨大な星が飛んで消えた。

「はい、中にはそういう仕事もあります。内容は話せませんよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「全く、大変な学校だねぇ」

 私は笑った。

「師匠、人ごとではないですよ。気をつけてください」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

 鍋の片付けまで終わり、私も片付けないと、リズはパトラを連れて自分の上機嫌で研究室に戻っていった。

「師匠、こんな暇なときくらい、寮に戻ってゆっくりしてはどうでしょう。たき火を消しますね。

「うん、わかった。久々だから、場所を覚えているかな」

 私は笑った。

 部屋の片付けが終わり、私たちはエレベータで一階に下りた。

「今晩は、今日は全員帰りです。特別四の警報装置を作動しておいてください」

 私は守衛のオッチャンに声を掛けた。

「はい、お疲れ様。特別四、機械警備開始」

 守衛さんが私の研究室にある警報装置を作動させた。

「またよろしく!!」

「ああ、気をつけてな!!」

 私たちは研究棟を離れ、久しぶりとなる寮の方に向かってあるいっていった。

「師匠、そういえば何回か部屋替えがあって、落ち着かないのでなかなか取れない個室が運良く取れました。場所はここです」

 ビスコッティが寮の地図を見せてくれた。

「……よく分からない」

「一度行けば分かるくらい簡単なのですが……」

 ビスコッティが困った顔をした。

「私が案内します。毎晩マッピングの練習できるくらい広いです。ここならわかります」

「では、お願いします。師匠、寮に着いたらパステルにお願いして下さい。私は家族部屋に行きますので」

 ビスコッティが笑い、渡り廊下にあった自転車を留め具から引き抜いた。

 あまりも雪が凄いので、屋外駐輪所の自転車は使いたくても使えなかった。

 校舎内の廊下を走り、自転車を下りて女子寮入り、ビスコッティは家族で入居している家族部屋が並ぶエリアにむかっていった。

「はい、では行きましょう!!」

 パステルが笑った。

「個室って何階なの?」

「その前に、ご存じなかったかも知れませんが、スコーンさんは最初の段階で最重要警護のAランクで、そういうエリアだったので味気なかったかも知れません。個室があるのは、昔からあるボロい方だけなので、自動的にそちらに移動となります。新しい方の寮は、変な豪華ホテルみたいにしてしまって、校長先生のだまらっしゃい!! でオール四人部屋になったそうです。エレベータもない四階建ての最上階が個室なので、スコーンさんが気に入るか心配ですね。

「うん、ボロい方がいいよ。ハイテクで最新の建物って疲れるから、寮ぐらいはだらっとしたい!!」

 私は笑った。

「これはビスコッティさんから預かった鍵です。個室階以外は、幼年の寮に使われているそうです。幼年科は入学から卒業まで、外出も許可されないハードなところですから、寮ぐらいはということでしょう。かなり気楽なようです。個室階の中に入れないように門番がいますが、外出時は戸締まりと扉の鍵だけは忘れないで欲しいそうです」

「分かった。それで、寮にはどう行くの?」

「はい、こちらです。特別棟に矢印が書かれた方です。いきましょう」

 パステルについて廊下をすすむうちに、土と水が混ざったニオイがしてきた。

「いいね、田舎っぽい!!」

「もうすぐです。まだ門限ではないので、管理人さんがザリガニ釣りでもやってると思いますよ。寮の周りは池になっていて、管理人さんの日課らしいです」

 そのまま進んでいくと、あしもとはすっかり雪になっていた。

「やっぱ、今年は積もったね。寮ってあれか……」

 進む先に素朴な建物が発っていた。

「あの、通路で落ちた民椅子に座っている方が管理人さんです」

 私たちはゆっくり進み、ノンビリ釣り糸を垂れているオバチャンに声を掛けた。

「今晩は、新人を連れてきました」

 本来はビスコッティの役だが、家族に会いたかったのだろう。

 どうやら、役目をパステルに任せたようだった。

「おや、珍しい時間だね。例の個室に入るって若い子だろ。話は聞いているよ。スコーンって子だろ。まて、三十メートル級を狙ってるんだ。今は案内はできないから、部屋に行くなり、ここで待つなりしてくれ」

 オバチャンはタバコを吹かしながら、夜闇の先に光る浮きを見つめていた。

「あれ、ザリガニって。なんか違う記憶が……」

「普通のはです。ここは、冒険者的にも熱くなれますよ!!」

 パステルが笑って、雪の上に座った。

 私も隣に座って待つ事しばし、浮きに当たりがきてオバチャンが立ち上がった。

 瞬間、凄まじい勢いで糸が引かれはじめ、電動リールが悲鳴を上げた。

「な、何が釣れるの……」

「だから、ザリガニだよ。みてたまげないでね!!」

 オバチャンは格好いい笑みを浮かべて、凄まじい勢いで抵抗するザリガニと戦った。

 ドバンっと大きく飛び上がったものは、規定外という言葉消してしまえといわんばかりの、まるで空飛ぶ爆撃機だった。

「よし、四十メートル級だ。手出しするなよ!!」

 オバチャンが元気に叫んだ。

「スコーンさん、この池で四十メートルといったら新記録です。捕まえた人の名前が公的に残るので、私たちはじっとしていましょう」

 パステルが笑った。

「だってこれ、ザリガニじゃないでしょ。いっしょなのは見た目だけじゃん。どうしていいか分からないもん!!」

「ザリガニはザリガニです。所以が不明なのですが、適当につけっちゃったんだと思います」

 パステルが笑った。

 管理人のオバチャンとよく分からない生物との戦いは、実に二時間もかかった。

 最後の一息で連れたものを岸に寄せると、夢に見そうな巨大ザリガニが池に浮いていた。

「……しゅごい。研究する!!」

「はい、どちらを研究するんですか?」

 パステル隊長が笑った。

「魔法使いとしてはオバチャン、学者としてはザリガニ」

 私は笑った。

「さて、遅くなったね。これを捌くのはあとにして、部屋まで案内するよ」

 私たちは立ち上がり、旧寮の中に入った。

「部屋は四階の403で、昼の間に掃除をしてあるよ」

 オバチャンは管理室のカウンターに『403』とプレートがついた、いかにも鍵という形をしたオールディな逸品を私に二本手渡し、古さが滲み付いた落ち着きのある寮の階段を上っていった。


 四階には五つほど部屋が並び、私の部屋になる403号室を開けると、使い込まれた木木製の床や落ち着いた感じの心地いい部屋だった。

「あんまり派手に壊さないでおくれよ。今はここにいないけど、リズってお転婆がいてね、やたら壊すし楽しかったど、この寮は私が守るっていって、結界魔法で固定しちゃってね。なにやってもぶっ壊れないから、このままでいやってなって、結果として無事に残っちゃったんだよ」

 オバチャンが笑った。

「リズってあのリズだよね、やるならやりそうだよ。よほど気に入っていたんだね」

「まあ、長く暮らすからね。毎日ガキの相手ばかりで大変だよ。今日はもう直ぐ門限だよ。ゆっくりやすみな」

 オバチャンが部屋から出ていった。

「私も帰って休みます。お疲れ様でした」

 パステルが笑顔で部屋から出ていくと、私は出入り口の鍵をかけ、魔力ランプの明かりを一つ一つ小さくした。

「魔力灯も見なくなったな、調整が大変だから。これも懐かしい」

 私はいい感じの明るさになった部屋で、机の椅子に座って酒瓶を出した。

「ふぅ、疲れた。たまには飲もう!!」

 私は笑い、椅子に背もたれを預けたのだった。

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