第27話 冒険者になろう(改稿)

 短い二の月も半ばを過ぎ、私たちは相変わらず好き勝手やっていた。

 相変わらす、広すぎる研究室はいつまでもキャンプスペースではアレなので談話コーナとしたが、危ないので撤去した罠だらけの床に代えて、私が暇つぶしに亜空間に作った迷宮もどきに通じる蓋があった。

「ねぇ、ビスコッティ。アレどこだっけ。綴じるヤツ」

「はい、師匠。上の棚にありますよ」

 私は椅子から立ち上がり、ホチキスを取った。

「あった、ありがとう」

 私は書いたレポートをホチキスで留め、黒いフォルダに入れて机の引き出しに入れてしっかり施錠した。

「これまで二人に協力してもらって、肉体的な変異はないってなると、四大精霊がいった事は嘘じゃないね。確か、誰しも歩いていどは均等にっていったし、そうなったら少なくとも肉体は同じじゃないとダメだしね。これが結論だね。犬姉とアリサは普通の魔法使いであって、特別視するものではない。やっと終わった。

 私はノートパソコンを閉じると、それを鞄にしまった。

「キキは魔法薬練習上手くやってる?」

 パトラの指導を受けながら、キキは必死に装置を操作していた。

 こうやって、時間があればパトラがキキの魔法薬作りを手伝ってくれるので、私としてはとても助かっていた。

「はい、なんとかやっています。爆発はしないので、安心して下さい。

 キキが笑みを浮かべた。

「爆発は勘弁だよ。さて、ちょうどいい時間だし、ご飯の準備をしようか」

 私は笑った。

 ここの学食は変わっていて、朝はメニューが選べるのに、昼は肉か魚の定食しかなく、夜はまたメニューが選べるようになるという、二十四時間営業からなのか、変わったサイクルだった。

「はいよ、そうくるだろうと思って、もう準備出来てるよ!!」

 犬姉の声が談話コーナから聞こえ、私は笑った。

「さすがだね。キキ、パトラも一緒にどう?」

「それがさ、今一番手が離せないところでさ。もう少し掛かるから、先に食べてて」

 パトラが笑みを浮かべ、キキがヒーヒーいいながら装置を操作していた。

「分かった、それじゃお先に」

 私とビスコッティは談話コーナに向かった。


 談話コーナでは、パステルと犬姉が豪快に料理を作り、アリサとパステルがせっせと盛り付けては、折りたたみテーブルに運んでいた。

「こりゃ、豪勢だね。なんかいいことあった?」

 私は笑った。

「はい、こっっそりマルシルが冒険野郎試験……じゃなかった、公認冒険者試験をパスしまして、はれて冒険者としても活動できるようになったんです。ここで許されるか分からないのですが、ご報告です」

「そっか、そんな試験があるんだね。私は構わないけど、規則的にはどうなのかな……」

「研究に支障がない限り、資格を取るのは自由だよ。実際に活動出来るかは、その状況によるけどね」

 たき火の端に座っていたリズが、銃弾の箱を開けてより分けていた。

「そうなんだ。私も取ろうかな。宇宙戦艦操縦免許とか?」

「なんですかそれ。そんなものはありません」

 ビスコッティが笑った。

「ビスコッティ、知ってる。裏社会でも、資格を作ろうかって妙な話が出てるの。聞いた時笑っちゃったよ」

 犬姉が笑った。

「なんですか、それ。プロの評価は報酬の金額のみ。違いますか?」

 ビスコッティが笑った。

「そういう事。なんでも、フリーランスの裏人間をなんとか生活させるって思惑らしいけど、だったらまともに働いた方がいいってね」

 犬姉が笑った。

「それはそうです。好き好んでやるものではありません」

 ビスコッティが笑った。

「ねぇ、ビスコッティ。『殺しの免許』があるってホント?」

 私が問いかけると、ビスコッティと犬姉が思いきり吹き出した。

「な、ないよ。合ったら大変だ」

 犬姉がまた小さく笑った。

「師匠、勝手に変な免許作っちゃダメですよ。コロシは犯罪ですからね」

 ビスコッティが苦笑した。

「そっか、あるわけないか。いや、攻撃魔法には許可証があるからさ」

 私は苦笑した。

「あれはあって当たり前。悪用された時にトレースするからね」

 リズが笑った。

「お待たせしました。装置の停止完了です。

 キキとパトラが談話コーナに入ってきて、一息ついた。

「お疲れ、もうご飯出きてるって。これから食べるところだよ!!」

 私は笑った。


 昼ご飯が無事に終わり、私は談話コーナで新聞を読んでいた。

「へぇ、王都でなんか要人が暗殺されたみたいだよ」

 その言葉に真っ先に反応したのは、隣に座っていたビスコッティだった。

「魔法庁長官じゃないですか。また、波が起こるかもしれません」

「なに、そんなのがぶっ殺されたの?」

 犬姉が笑みを浮かべながらやってきた。

「王都の要人警護体制じゃ、いずれこういう事が起こると思っていたけどね。ザルだもん、あそこ」

 犬姉が小さく息を吐いた。

「……大口径を使用した遠距離狙撃ですか。どこから撃ったのやら」

 アリサが苦笑した。

 王都は高い壁に囲まれた大きな街なので、一体どうやったのか謎だった。

「撃てるポイントは三つしかないね。それ以外は狙撃じゃ無理」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「はい、事実所は二カ所です。三カ所目は当てに出来ません」

 ビスコッティが苦笑した。

「……怖い話だね。魔法庁長官か。次は国王兼任でピーちゃんがやるって、この国にとって、魔法は大事だからねぇ」

 私はカップのコーヒーを飲んだ。

「さて、そんな話はどうでもいいから、スコーンとの合成魔法の呪文を作ったよ。四大精霊ばかりだけど、分かる範囲で裏ルーンも入れてみたよ!!」

 リズが笑って、印刷された紙束を私に手渡した。

「……こりゃ凄いね。でも、ここまでやるなら、裏ルーンもここまでやろう」

 私は白衣の胸ポケットから赤ペンを取り出し。リズの紙にサラサラと新しい文言を追加して、表ルーン文字に紐付けて置き換えた。

「ちょっと発音が難しいけどね。リズは滑舌もいいし、大丈夫かなって思って」

 私は笑みを浮かべた。

「こら、ハードルを上げるな。……確かに発音は出来るけど、舌を噛みそうだよ」

 リズが笑った。

「これをね、マクガイバーのテーマに乗せて唱えると、何かが起こる!!」

「馬鹿野郎!!」

 リズのゲンコツが私の頭にめり込んだ。

「これ、嘘じゃないから。サプライズに最適!!」

 私は笑った。

「まさか、マクガイバーが降ってきたりしないよね……。怖いからやめておこう」

 リズが笑った。

「面白いんだけどね。前奏から?」

「当たり前だよ、あれがなきゃ始まらないもん」

 リズがしばし考え、頭を掻いた。

「結界系だし、ここでも安全か。やってみようか」

「やるんだ。いいよ!!」

 私は呼吸を整え、リズと目を合わせて頷いた。

「リードするからついてきて!!」

 私はそっと目を閉じた。

 どこからともなくマクガイバーのテーマが流れ出し、ボコボコと歌手やら楽器の人たちが現れた。

「よし……」

 やたら豪華なマクガイバーは、一番で終わらなかった。

 呪文が長いので、どうしても尺が足りないのだ。

『アルティメット・ウォール!!』

 私とリズの声が同時に響き、研究室エリアにいた私たちを包むように、紫色に光る強力な結界壁が展開された。

「こりゃ凄いね。戦車砲を撃ち込まれても平気そう……」

「うん、余裕で防ぐよ。これはレポートを書いている途中の魔法なんだ。面白いからお披露目!!」

 リズが笑った。

「これよくできてる。上手い事四大精霊の力と非精霊の力が調和して、これならなんでも防げるよ!!」

 私は笑みを浮かべた。

「よし、お披露目終了!!」

 リズの呪文で結界壁は消え、何事もなかったのようにエアコンの作動音が聞こえてきた。

「いやー、まだ煮詰まってないんだけどね!!」

「それであれなんだ。楽しみだね!!」

 私は笑った。

「さて、なにやるか……」

「師匠、そういえばパステルとマルシルがいません。探しますか?」

 ビスコッティが、無線片手に私をみた。

「そうだね。もし、怪我でもしてたら大変だし、一応呼び出してみて」

「分かりました、呼んでみます」

 ビスコッティが無線で二人を呼び出しはじめた。

「なんにもなきゃいいけど……」

「珍しいコンビだもんね。あたしも気になるよ」

 リズが魔法薬の練習に忙しいキキとパトラをみていった。

「忙しいんじゃないの?」

 工具で拳銃を分解し、なにやら整備しながら犬姉がいった。

「はい、異常があれば連絡があるのですが、特にないですね」

 いつも通り警備隊の制服を着たアリサが、この前の私の研究室はライフル必須という通達に従って、武器を堂々とへカートⅡに変えたアリサが笑みを浮かべた。

「あのさ、毎回思うんだけど、そんなヘビーなライフル扱いにくくないの。ここは広いけど屋内だよ」

 私は笑った。

「はい、これで撃ったらオーバーキルなのは分かっているのですが、どうしても手放せなくて。確かに邪魔なサイズですが」

 アリサが笑みを浮かべた。

「そっか、まあそこは本人次第だから、これ以上はいわないけど。ビスコッティ、二人は見つかった?」

「はい、師匠。二人とも飛行機で王都に行こうとしたようですが、雪で欠航していていけなかったようです。もうすぐここにきますよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「王都に用事があったんだ。なんだろ?」

「しかも、私は師匠にいわないでです。なにか事情があったのでしょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そうだねぇ、王都に用事があったのか、ピーちゃんにあったのか。事情だけでも聞いておこうか」

「はい、そうしましょう」

 ビスコッティが頷いた。

 しばらくすると、エレベータが動いて白衣を羽織ったパステルとマルシルがやってきた。

「ビスコッティから聞いてるけど、王都に用事ってどうしたの?」

「はい、冒険者免許の更新です。試験があるので、王都でしかでいないのです。免許に期限はないのですが、あまりにもサボってると、誰にも信用されなくなってしまうので、同じく冒険者免許を持っているマルシルと王都に行こうとしたら、失敗しました」

 パステルが苦笑した。

「なんだ、いってくれれば、なんとか出来たかもしれないのに。冒険者免許って、更新があるんだね」

 私はパステルが差し出した免許をみた。

 顔写真付きのそれには、氏名や住所などが事細かに書かれ、パステルもマルシルも住所はカリーナになっていた。

「この免許を縁取っている帯の色がパステルとマルシルで違うけど、なんか意味あるの?」

 二人の免許のサイズは同じだったが、マルシルは銅色でパステルは鈍い銀色に光っていた。

「はい、意味がないといえばないのですが、その冒険者のランクを示します。それまでの行動は免許に内蔵されているチップに保存されていますし、座学の試験もあるので頑張るほど高レベルになります。もっとも、更新しないとずっと同じ色で、マルシルは初心者期間が終わり、緑からブロンズに変える時だけ更新したままらしいので、一緒にどうだと誘ったのです」

「はい、面倒でつい後回しにしてしまっていて、いい加減怒られそうなので、更新しようかと」

 マルシルが頭を掻いた。

「師匠、冒険者試験ならここでも受けられた気がします。調べてみますね」

 ビスコッティがノートパソコンを取り出し、カタカタと弄りはじめた。

「えっ、ここで出来るんですか!?」

 パステルが声を上げた。

「はい、確か可能なはずです。旅好き研究者の中には、冒険者と変わらないような生活をしながら、研究している方もいますからね。冒険者資格を取ると、外出期間が無期限にもできるんです。その代わり、レポートなり論文なりを定期的に郵送ここに提出しないといけないですけれど」

 ビスコッティはしばらくノートパソコンをカタカタやって頷いた。

「やはり可能です。毎週やっているようで、次回は明日ですね」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そうなんですか、ありがとうございます。申し込みは……」

「はい、学生課でやっていますよ」

 ビスコッティが頷いた。

「ねぇ、聞くんだけど、冒険者免許って持ってると、なんかいいことあるの?」

 私は笑みを浮かべた。

「そうですね……。銀行で特別金利でお金を貸してくれたりしますが、それは関係ないでしょう。あとは……危険で初心者が入ってはいけないような迷宮や洞窟には、必ず門番がいるので、そこに入れるくらいでしょうか。もし旅暮らしなら、これは必須ですけれどね。これがないと身分証明ができず、宿に泊まる事すら出来ません」

 パステルが笑った。

「そっか、面白そうだね。ビスコッティ、私も取っていい?」

「それは師匠の気持ちの問題なので……オススメはしませんが」

 ビスコッティが苦笑した。

「よし決めた。この研究室全員で冒険野郎マクガイバーになろう!!」

 私は笑った。

「師匠、なかなか大変な試験なんですよ。一夜漬けでは話になりません」

「勉強は得意だよ。今から始めよう!!」

 私が笑うと、パステルが真新しい本を手渡してきた。

「更新試験対策に購入しました。これに書いてある内容を理解して、聞かれてもすらすら答えられる程度に頭に知識が入れば誰でも合格出来ると、一番人気の参考書です。よろしければ……」

「えっ、いいの」

 私は本を受け取り、ゆっくり読み始めた。

「ビスコッティ、これ急ぎ発注で明日に間に合わない? 全員に渡す!!」

「可能ですが、また師匠の癖がでましたね」

 ビスコッティが笑った。

「いいじゃん。魔法の資格はいくつも取ったけど、こういうのはないから!!」

「はい、分かりました。師匠が納得しないので、犬姉とアリサは巻き込まれて下さい。リズとパトラはどうですか?」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「嫌っていえる空気じゃないでしょ。試験なんて久々だよ。主席の底力見せてやる!!」

「うん、私は興味があったからいいよ」

 リズが早くも勝ったような笑みを浮かべ、パトラが笑った。

「なに、私も冒険者ってか!!」

 犬姉が笑った。

「ある意味、毎日が冒険ですよ。警備隊は」

 アリサが笑みを浮かべた。

「というわけで、ビスコッティ。人数分の参考書を発注して!!」

「もうやってあります。地下書庫に在庫が大量にあるようなので、すぐにきますよ」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。


 こんな時に便利なのが談話コーナで、たき火を囲んで私たちは勉強していた。

 すでに資格を持っているパステルとマルシル、そして後出しで冒険者免許を持っている事を白状したパトラが先生役になって、私はコーヒー片手に静かに参考書を読んでいた。

 パステルは分からないが、マルシルもパトラも根無し草みたいな経験があるので、その苦労を熱く語り、質問をすればちゃんと答えてくれた。

「さすがに冒険者だね。ファン王国以外の事も書いてある」

「はい、冒険者になれば、どこに行くか分かりませんからね。免許があれば、国境を渡るのも簡単なんです。届け出用紙を書くだけですから」

 パステルが笑った。

「今の状態になっちゃったから、それははっきり無理っていえるよ。そこそこの魔法使いや関わりのある人は、国外に出る時は特別な許可がいるんだよ。機密情報が漏洩しちゃ困るからって」

 私は苦笑した。

「まあ、カリーナにいる魔法使いはほぼ該当するけどね。生徒のうちはまだしも、事実上職員の研究科まで極めちゃうと難しいね」

 リズが笑った。

「そっか。まあ、海外にはあまり興味がないからいいや」

 私は参考書を読みながら笑った。

 まあ、試験内容は常識的なもので、特に問題となるような事はなかった。

 今となっては大失態だったと知ったが、私はたき火に当たりながら参考書を読み進めるうちに、王都の魔法学校の入学試験を思い出していた。

「なぜか知らないけど、先に助手検定からだったんだよね。それに合格して、やっと魔法研究者としての道が開けるという……」

 私は苦笑した。

「師匠、それ魔法学校ですよね。私は助手検定だけで留めておいてよかったと思っています。というか、魔法使いになること自体考えていませんでしたからね。逃げるのに必死で飛び込んだようなものですから」

 ビスコッティが笑った。

「考えてみればここは贅沢な研究室なんだよ。全員が研究員試験に通るような助手なんだもん。リズとパトラはなんで同じ研究者同士にならなかったの?」

「それね、あたしが嫌がったんだよ。同じ研究者同士になっちゃったら、いわば喧嘩相手になっちゃうじゃん。それが嫌だっただけ!!」

 リズが笑った。

「嘘コケ。私の助けがなかったら、水虫の治療すら出来ないからだろ!!」

 笑ったパトラに、リズのゲンコツが襲いかかった。

「ったく……。まあ、研究者にしちゃうとパトラがハーフ・エルフってバレちゃうでしょ。だから、あたしの助手にして隠したようなものかな」

 リズが笑った

「そっか、色々あったんだね。さてと、今日は徹夜で参考書を読み込むか!!」

 私は笑みを浮かべた。


 翌日、冒険者免許試験は滞る事なく実施されるようで、私は久々に受験票を手にしていた。

「これすら懐かしいね。えっと、こっちか……」

 試験はこんな時にしか使われないらしい大教室で行われ、私は受験票に書かれた記号と番号で指定された席についた。

 一応、白衣でこいというので白衣を着ていたが、熱心な生徒も多いようで、白衣より制服姿が多く、会場はそれなりに混んでいた。

 同時に申し込みをしたのだが、みんなとは適度に席が離れ、私は気合いを入れ直した。「さて、得意の座学。落とすわけにはいかないね」

 私は呟いて、筆記用具を取り出して机上に置いた。

 こうして、冒険者免許試験が始まった。


 冒険者免許試験も、どこぞの怪しい団体がやっているものではなく、立派な国家資格である。

 回答はマークシート方式で行われ、絶対的に人数が少ないカリーナでは、一時間ほどで結果が出る予定だった。

 大教室前の掲示板の前でみんなと話していると、職員が合格者番号が書かれた大きな紙を張り出した。

「ぎゃあ、落ちた!!」

 いきなり一人の受験生が叫んだ。

「えっと、番号……。いくら魔法学校だからって、ルーン数字を使うなっての!!」

 ルーン数字とは、ルーン文字の時代に使われていた数字だ。

 ルーンといえば文字というくらい、魔法のために使われているため、特に意味を持たない数字は別扱いされてしまっていた。

「受験票は現代語の数字で、発表はルーン数字って、こっちの方が試験だよ。さて……」

 私は受験票を頼りに、自分の番号を探した。

「……あれ、ないな。あっ、記号か。紛らわしい」

 私は改めて受験票を手に、記号と番号が一致するものを探した。

「よし、あった。これで、私も冒険者か」

 私は笑みを浮かべた。

「師匠、ありました?」

 ビスコッティが笑みを浮かべて聞いてきた。

「あったよ。ビスコッティは?」

「もちろん、ありましたよ。師匠においていかれるわけにはいかないので」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「よっ、私たちも合格したよ!!」

「はい、なんとか」

 犬姉とアリサが笑みを浮かべた。

「さすが……。パステルとマルシル、パトラはすでに資格をもってるし、あとはリズとキキか」

 半ば巻き込まれる形で受験したキキも心配だし、もしリズが落ちたら笑うに笑えない。 しばらくヤキモキしていると、リズが笑顔で受験票を手に振った。

「ま、まさか、落ちたの!?」

「馬鹿たれ、このくらいナンボのもんじゃい。たまたま会ったキキも合格だって。スコーンを探し回っていたよ」

「あれ、探さないと……いた」

 私はウロウロしていたキキを背後から抱きしめてやった。

「合格です!!」

「うん、聞いたよ。さて、この後が免許作りで大変らしいよ。今日一日はこれだね」

 私は苦笑した。


 冒険者免許試験は、合格した受験票がそのまま免許証の引換券になっていた。

 合格者は再び大教室に集められ、まず視力などの身体測定が行われ、それが終わると大教室の片隅でやっている冒険者とは? という教育DVDを見せられ、職員による寸劇形式で冒険者として正しい行動を実際にやり、私は思いきり攻撃魔法で敵役の職員をぶっ飛ばしたくなる衝動を抑え、大丈夫ですか~とか間抜けなやりとりを行い、いい加減疲れてきた頃、ようやく免許証が完成して緑の枠に囲われたそれを受け取った。

「はぁ、ハンバーガー食べたい……」

 とにかく疲れた私は、みんなを集める気力もなく、そのまま研究室に帰った。

「あっ、お帰りなさい!!」

 先に研究室に戻っていたパステルが、笑みを浮かべた。

「試験どうでした?」

「合格だったけど、あの待ち時間が堪らないよ。なに、あの気の抜けた寸劇。わざと盗賊側に立ってやろうかと思ったよ」

 私は笑った。

「要するに、時間つぶしですからね。私たちも更新終わりましたよ!!」

 パステルが金枠のついた免許証を出し、マルシルが銀枠の免許を見せてくれた。

「おっ、昇格してるじゃん!!」

「やっと金枠です。最上位のプラチナまでは遠いですね。ここでこんな気楽に免許更新が出来るなら、頻繁にやる事にします」

 パステルが笑った。

「それで、この緑縁だけど、いつ消えるの?」

「それは初心者マークです。一年経てば、自動的にブロンズになりますよ」

 パステルが笑った。

「初心者マークって、なんか恥ずかしいな。一年は長いよ!!」

 私は笑った。

「これで皆さん冒険者ですよ。外を歩くときは、みんなそういう目でみられるので、変な行動はしないで下さいね」

 パステルが笑い、私は苦笑したのだった。

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