第二章 本格始動!!

第14話 認め合う者(改稿)

 カリーナに入って一ヶ月経った頃、私は研究室の椅子に座り、新しい呪文を開発していた。

 助手も増えて、ビスコッティとクランペットはもちろんパステル、キキにマルシル。あとリナ、アメリア。ナーガが加わり、結構な大所帯になっていた。

「よしっと……」

 私は開発中の呪文が書かれたノートを鞄にしまい、椅子から立ち上がった。

「では、定時なので帰ります」

 キキとマルシルが研究室を出ていった。

「さて、私も帰るか」

 椅子から立ち上がった時、校内中に警報が響いた。

「師匠、出番ですよ」

 内線電話で会話していたビスコッティが笑みを浮かべた。

「やっぱりね。今度の襲撃は?」

「はい、魔物ではありません。武装強盗団が百五十名ほど確認されたようです。

 ビスコッティが苦笑した。

「さて、やるか」

 私は・アサルト・ライフルを手に取り、苦笑した。


 急ぎ校庭にでると、すでに日が落ちかけていて。闇の中でリズとパトラが手を振っていた。

「おーい、こっちこっち!!」

 そのリズに近寄ると、すでにキキとマルシルが集まっていた。

「お待たせ!!」

 私はアサルト・ライフルを手に笑みを浮かべた。

 しばらくすると、クランペットとパステルも到着しリズが頷いた。

「もうちょっと待ってね。犬姉がすっ飛んでくると思うから。

 リズがいったそばから、上空を低空で飛ぶヘリが何機も確認出来き、迎撃態勢が整いつつある事が分かった。

「ゴメン、遅れた!!」

 装備満載の犬姉が慌てて校舎から出てきた。

「遅いぞ!!」

 リズが笑った。

「敵の一団はチロダル橋を渡って、さらに南下しているようです。間もなく、戦端が開かれるでしょう」

 どこかと無線通信していたクランペットが、眼鏡を直しながら頷き、暗視装置を片目につけた。

「さてと、今度のお小遣いも五百クローネかな」

 私は苦笑して、ビスコッティが渡してくれた暗視装置を片目につけた。

「はい、ケチ臭い学校ですからね」

 キキが笑った。

「そうですね。購買と食事がタダなのはいいですが……」

 マルシルが苦笑した。

「さて、いくよ。車のエンジンは温めてあるから!!」

 リズが笑い、私たちは用意してあった軍用車に飛び乗った。


 校庭の門から外に出ると、拠点防御にと配置されているファン王国海兵隊と同陸軍の部隊がそこここに陣地を張って準備していた。

「あたしたちの持ち場は、この辺だよ。最前線なんて燃えるじゃん!!」

 リズが笑った。

「さてと……」

 私はアサルト・ライフルと鞄を持って、車から降りた。

 遠目に大きな橋が見えるそこは、敵が通ればまさに最前線となるような場所だった。

「怪我しないようにね!!」

 狙撃銃を構えるリズと、スポッターを務めるビスコッティの後ろで、パトラが笑った。「そっちもね。さてと……私はアサルトライフルを手に、適当な場所に陣取った。

「リナたちは出先から急ぎ帰還中です。間に合うかどうか……」

 クランペットが時計をみた。

「王都の学会でしょ。飛行機を使っても、待ち時間を考えたら難しいか……」

 私は苦笑した。

「そうでしょうね。ここは、私たちだけで踏ん張るしかありません」

 マルシルが苦笑した。

「強盗が百五十人だったよね。面倒だねぇ」

 私は苦笑した。

「いえ、先ほどの通信で訂正されました。二百人オーバーです」

 クランペットが息を吐き、アサルト・ライフルを手にした。

「そりゃまた豪勢だね……」

 私は暗視型のビノクラを片手に、街道から分岐した細道を見つめた。

 しばらくして、細道から出てきた小型トラックに向けて、リズが発砲した。

 トラックが停車し、そこからワラワラと人が降りてくるのが見えた。

「さて、お客さんだよ!!」

 リズが叫び、配置されている各隊が一斉に射撃を始めた。

 そのうち二台目三台目と次々にトラックが現れ、停止した一台目を避けるように草原に踏み込んで接近してきた。

「よし、突っ込め。援護する!!」

 リズの声に私たちは茂みの間から駆け出し、アサルト・ライフルを構えて進んで行った。

 さすが本職というか、ファン王国海兵隊にはかなわなかったが、リズの援護射撃に助けられながら、射撃でボロボロの敵トラックに接近した。

 迫撃砲の攻撃が始まり、遠くで爆音を響かせ始めると。私たちは巻き込まれないように、そのトラックの陰に隠れた。

「危険です!!」

 パステルが手榴弾を放り投げ。接近していたらしい敵を吹き飛ばした。

「ここに留まるのは得策じゃないね。移動するよ!!」

 私の声と共にクランペットがトラックの陰から飛び出して、アサルト・ライフルをフルオートで放って弾幕を張り、飛び出した犬姉が手榴弾を投げ始めた。

「よし、行こう」

 私はパステルとキキ、マルシルを連れてトラックの陰から飛び出した。

 敵弾が足下にビシバシ命中し、土塊を巻き上げる中、私たちは木立の陰に隠れた。

「はぁ、疲れた。さてと……」

 私はビノクラを片手に様子を覗った。

 クランペットが肩を負傷しながらもこちらに接近してきていて、犬姉がガンガン撃ちながらクランペットを抱えてこちらに向かってきていた。

「マルシル、回復魔法の準備!!」

「は、はい。分かりました」

 二人が木陰に滑り込むと、すかさずマルシルがクランペットの治療に掛かった。

「パトラは護衛に残って。犬姉、いくよ!!」

「はいよ!!」

 私と犬姉は、溢れ出てくる敵の一団に向かっていった。

 付近にいたファン王国海兵隊のみなさんと一緒に、敵の中に突っ込むと……気が付いたら犬姉と私は孤立してしまっていた。

「あれ、ヤバいな……」

 犬姉が苦笑した。

 私たちの周りをグルッと取り囲み、銃を向けている敵の姿をみて、私はため息をついた。

「……うん、これはヤバい」

 私は小さくため息をついた。

「ねぇ、投降しておく?」

 犬姉が苦笑した。

「するしかないと思うけどね」

 私はため息をついて、アサルト・ライフルを地面に捨てた。

 今日は不要だろうと、あのドラゴンスレイヤーは持ってきていなかった。

「だよね、これ……」

 犬姉が苦笑して、銃を地面に捨ててヒラヒラと手を上げた。

「はぁ……」

 私がもう一度ため息をついた時、犬姉と仲良く両手を縛られ、私たちはまだ無事なトラックの荷台に放り込まれ、そのまま移動を始めた。

「いやー、鈍ったもんだよ。こんなの相手にこれじゃね」

 犬姉が苦笑した。

「ホント、頼むよ……」

 私は苦笑した。


 私たちを積んだトラックは、細道を猛然と加速しながら進み、大きな橋を渡ってひたすら草原の中を突き進んだ。

「さてと……」

 犬姉がゴソゴソ動き、ナイフで自分の手の縄を切った。

「よっ!!」

 荷台に乗っていた見張り二人をトラックの荷台から蹴り落とし、私の縄を切ると身を低くした。

「このまま終点までいって暴れるか、ここで途中下車するか。いうまでもないよね?」

 犬姉が銃を抜いて笑みを浮かべた。

「まあ、こうなったからにはね」

 わたしは小さく息を吐き、やはり予備の銃を抜いた。

「PPK/Sで残弾足りるかな。予備用でマガジンも二本しかないし……」

 私は手にある小型拳銃をみて、呟いた。

「ないよりはマシでしょ。大丈夫、私が片付けるから……」

 犬姉は笑みを浮かべ、拳銃をホルスタに戻した。

 しばらく夜道を進んでいくと、低空飛行するヘリコプターが追い越していった。

「あれ、先越されたか。まあ、いいや」

 犬姉は苦笑して、荷台にある後方ののぞき窓に向かって発砲した。

 それでトラックが止まった隙に犬姉は荷台から飛び下り、運転席と助手席の盗賊を引きずり下ろすと、そのまま撃ち殺した。

「まあ、あとは出番がないかな。野郎どもに混ざったら邪魔になるしね」

 犬姉が遠くをみて笑みを浮かべる先で、いきなり大爆発が起こった。

「始まったね。カリーナを相手にするとこうなるぞってね」

 私は拳銃をしまい、苦笑した。


 無事にカリーナに戻った時には、空には日が昇りつつあり、朝焼けで真っ赤に染まっていた。

「さてと、寮に戻る前にお風呂に入るか」

 私は帰ったその足でお風呂に向かった。

 長らく工事中だった温泉も開放され、それに合わせて洗い場などもリニューアルされ、タオルなどはお風呂のフロントに預けられるようになっていた。

 身分証をみせて、タオルなどを受け取ると、私は浴室に入っていった。

「リニューアルされて、ずいぶん広くなったもんだ」

 時間が時間なので、浴室内にいる人はまばらで私は適当な場所で体を洗い流し、丁寧に体を洗った。

 しばらくすると、洗い場に犬姉が入ってきて笑った。

「さっきはお疲れ。暴れ損ねちゃったね!!」

 犬姉が笑って、隣に座った。

「私はあれで十分だよ。あとで、拳銃の紛失届ださないと……」

「ああ、私もだからやっておいた。新しい拳銃をもらったから、カゴに入れておいたよ」

 犬姉が笑った。

「それじゃ、試し撃ちしないとね。癖とか掴んでおきたいし。犬姉もどう?」

「そりゃそうだね。でも、校庭のレンジだとこの時間は微妙だから、湯冷めしちゃうよ」

 犬姉が笑った。

「うん、研究室の片隅にレンジがあるよ。よかったらくる?」

「えっ、いいの。私は外周警備担当だから、研究棟なんて入った事ないよ」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。入り口の守衛室でビジター登録すれば、基本的には誰でも入れるから。研究室の片隅だから広いとはいえないけど、拳銃なら撃てるよ」

「分かった。それじゃ、早くいこうか。また硝煙で汚れるから、湯船は後の方がいいよ」

 犬姉が笑った。


 シャワーで適当に体を流した私たちは、研究棟へと移動した。

 守衛室で犬姉のビジターIDをもらい、中に入るとエレベータで四階まで移動した。

「どうぞ」

「こりゃ、広いね。噂に聞いていたけど……」

 犬姉が小さく口笛を吹いた。

「うん、まだ研究出来る状態じゃないからこんなもんだけど、そのうちグチャグチャになるよ」

 私は笑った。

「人の事いえないけど、ちゃんと掃除くらいしなよ。さて、レンジはどこにあるの?」

「うん、こっち」

 大きなフロアを仕切った向こうにいくと、犬姉が笑った。

「なんか、キャンプ出来る場所まであるじゃん。いいね、ここ」

「まあ、助手たっての希望で……。こっち」

 私たちは片隅にある、シューティングレンジに向かった。

 的が二つ並んだそこは、せいぜい拳銃が精一杯という感じの広さだったが、今回の用途には問題がなかった。

「へぇ、結構本格的じゃん。こりゃいい場所を知ったよ。また貸してね」

「うん、滅多に使わないしいいよ」

 ブースに入った犬姉が、拳銃をテーブルに置いた。

「どれ……」

 犬姉が銃を構えた瞬間、連続する射撃音が響いた。

「うん、悪くないね」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「さすがにやるね。私もやるかな……」

 私は犬姉の隣のブースに陣取り、もらったばかりの拳銃を構えた。

 十七発立て続けに撃つと、私は次のマガジンをセットした。

「うーん、ちょっと右寄りの癖があるね。対処はできるけど……」

 私は銃をテーブルに置いて、一呼吸入れた。

「ああ、その構えは自己流だろうけど、直した方がいいよ。今なら直せるから、構えてみて」

 犬姉が苦笑して、私の構えを手で修正した。

「こう?」

 私は一発撃って、小首を傾げた。

「うん、悪くないよ。あとは慣れるまでバカスカ撃ちまくって」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「うん、なんか違和感が……でも、撃ちやすいな」

「覚えが早いね。それでいいよ。あとは、ひたすら撃って慣れるだけだよ」

 犬姉がブース後ろのベンチに座って、無料に設定してある自販機からド○ペの瓶を引き抜いて飲みはじめた。

「ひたすら撃つね……」

 私は銃を構え、無心で撃ち続けた。

 都合百発近く撃ち込んだあと、私は銃をテーブルにおいて伸びをした。

「はぁ、当たるようにはなったかな」

「上出来だよ、覚えがいいね」

 ベンチに座った犬姉が笑った。

「師匠、ここにいたんですね」

 ビスコッティがヒョコッと顔を見せた。

「うん、朝練だよ」

 私は笑った。

「こら、ビスコッティ。ちゃんと銃の構え方ぐらい教えてあげなよ。私が修正しておいた」

 犬姉が笑った。

「あれ、教えていませんでしたか……。そうですね、ちゃんと教えていませんね」

 ビスコッティが犬姉が使っていたブースに入り、拳銃を抜いた。

「まあ、私の撃ち方は変なので、あまり参考にならないかもしれませんが」

 ビスコッティが拳銃を撃った。

「久しぶりにみたけど、よくそれで当たるよね。独特過ぎるから、スコーンは真似しない方がいいよ!!」

 犬姉が笑った。

「それもそうだね。明らかになにか違うからね。私じゃ真似もできないよ」

 私は苦笑した。

「はい、私の真似すると怪我をしかねません。だから、師匠にはちゃんと教えていなかったのです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そっか、ならどうにもならないね。寝なくていいの?」

「はい、その前にやる事が多くて。師匠、魔法薬の大型装置を設置したいのですが、研究室側の角でいいですか」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「魔法薬って誰が使うの?」

「はい、キキが使うそうです。共同研究というほどではないですが、パトラが指導するそうで……」

「うん、構わないよ。設置場所は任せるよ」

 私は笑みを浮かべた。

「分かりました。さっそくこれから取りかかるので、寝ている場合ではありません。そのうち、機材が到着すると思います」

「分かった、任せたよ」

 私は笑った。


 ひたすら拳銃の練習をして、研究室に保管しておいた残弾が尽きると、ちょうど朝ごはんの時間帯に入っていた。

「よし、朝ご飯だね。犬姉もよかったら」

「うん、まだ交代までは時間があるし、いくか!!」

 犬姉が笑った。

 仕切りの向こう側に行くと、エレベータが頻繁に到着し、ガラス管で作られた魔法薬精製装置の部品を研究室に設置していた。

「こりゃ大がかりだね。急に研究室っぽくなったよ」

 業者が組み立て中の装置をみて、私は苦笑した。

「師匠、順調ですよ。お昼前には終わります」

 工具が立てる騒音の中、ビスコッティが手を振って叫んだ。

「分かった、私たちは朝ごはんにいってくるから。なんかテイクアウトしてくる!!」

 私は叫び、犬姉とエレベータに乗った。

 エレベータで一回に下りると、ちょうどキキとパトラに出会った。

「あっ、もう研究装置の組み立てをやってるよ!!」

 私は笑みを浮かべた。

「えっ、お昼頃と聞いていたのですが……」

 キキが慌てたような表情になった。

「また、業者が勝手に日程変更したな。キキ、急ごう!!」

 パトラが苦笑して、キキと一緒にエレベータに乗った。

「よし、いこう」

「うん、今日は何食うかな。犬らしく鶏の骨とか?」

 犬姉が笑った。


 学食に移動すると、犬姉が空き席を指さし、私に取っておくようにといった。

「分かった、あとは任せたよ」

 私は椅子に座って待った。

 しばらくして、犬姉が一つのトレーにご飯を満載してやってきた。

「いやー、やっぱ女の子でも朝からこのくらい食わないとね!!」

 テーブルの上に置かれたトレーには、半端ない量のご飯があった。

「こ、これ全部食べるの?」

「うん、これでも控えたよ。ほれ、食え!!」

 犬姉がご機嫌で、巨大なハンバーガを手に取った。

「これ、胃もたれしそうだよ」

 私は苦笑して、巨大スペアリブに手をつけた。

 粗方トレーの上の料理を片付けて、私は小さく息を吐いた。

「……うげっ、食べ過ぎた」

「まだまだ甘いねぇ」

 犬姉が笑った。

「おっ、朝から豪勢だねぇ」

 朝ごはんの時間帯が終わりそうな頃、リズがテイクアウトの袋を提げてやってきた。

「はい、これ。忘れてるよ」

 全部で三人前の弁当を詰めた袋を私の前に置き、リズは小さく笑った。

「あっ、忘れてた。ありがとう」

「うん、このくらいは……。よし、犬姉。食後の運動で、久々に対決する?」

 リズが笑った。

「うん、いいよ。全敗してるのに、よく張り合ってくるねぇ」

 犬姉が笑った。

「だからだよ。もうムカついてしょうがないから、今日こそは勝ってやる!!」

 リズが笑った。

「対決って?」

 私が問いかけると、リズが私の頭の上に子リズ縫い包みを置いた。

「空戦だよ。当然実弾は使わないけど、ペイント弾で撃ち合って勝つか負けるか……だね。犬姉の野郎、いつも変な手で勝つんだよ!!」

 リズが笑った。

「変な手とは失礼な。れっきとしたコンバットマニューバだよ。スコーンも後ろに乗っけてあげるよ。ハンデ戦で、こっちがいつも複座型だから」

 犬姉が笑った。

「ほ、ホント!?」

 ……微妙に飛行機好きな私。

「こら、そんなに目を輝かせないの。大した事しないから」

 犬姉が笑った。

「よし、今日こそぶちのめす!!」

 リズが笑った。

「やってみろ!!」

 犬姉が笑った。

「それじゃ、いこうか!!」

 リズが笑みを浮かべた。

「よしよし、掛かってきなさい」

 犬姉がトレーを片手に返却口に向かっていった。

「スコーン、犬姉ってマジで強いからね。覚悟した方がいいよ。すっごい飛び方するから」

 リズが笑った。


 校舎前に置かれている小型軍用車で飛行場まで移動すると、そういえば、買ったまま乗っていなかったスーパーツカノが四機引き出され、なにやら爆装が施されていた。

「あれ、どうしたのかな……」

 犬姉が呟き、ポケットの無線機を取り出した。

 しばらく交信したあと、犬姉が苦笑した。

「リズ、一時休戦だよ。また盗賊団の住処を見つけたって。ちょうどいいからって、ひとっ走りしてこいって!!」

「なに、また出たの。この界隈で強盗なんて、いい度胸してるじゃん!!」

 リズが笑った。

「よし、スコーン予定変更だよ。後ろでいい子にしててね」

 私の手にあったヘルメットを被せ、犬姉は笑った。

「なに、なんかぶっ壊しにいくの?」

 私はヘルメットのあごひもをきっちり固定しながら、思わず笑った。

「まあ、そんなところかな。いくよ」

 私と犬姉は、爆装された一機にステップを使って上った。

 犬姉が前席、私が後席の狭いコクピットに収まると、校舎の方から急ぎで車がやってきた。

 駐機場で止まった車からビスコッティとクランペットが飛び下りて、慌てた様子で空いている二機に飛び乗った。

『よし、いくよ!!』

 犬姉の声が聞こえ、私は慌てて酸素マスクを口に当てて留めた。

 爆音と共にエンジンが始動し、開けっぱなしだった風防ガラスが自動的に閉じられた。

『スコーンはなにもしないでいいからね。そんなに難しくないから』

「わ、分かった」

 なにかしろといわれても困ったが、正面にあるパネル表示を切り替えてみたが、特に異常はない事が分かった。

『今回はファン海兵隊の支援だよ。盗賊団の村にある通信アンテナとレーダー設備の破壊が主任務ね。いくよ!!』

 プロペラの回転音とエンジン音が大きくなり、私たちを乗せた機はゆっくり滑走路に向かって誘導路を走っていった。

 そのまま滑走路に進入すると、私たちの機は速度を上げてスムーズに離陸した。

 急旋回で方位を変えつつ上昇し、カリーナからほど近い上空で四機が集結した。

『スコーン、大丈夫?』

 ヘルメットに内臓されたマイクから犬姉の声が聞こえた。

「うん、大丈夫だよ。まさか、実戦とは……」

 私は苦笑した。

『もうすぐ、敵のレーダー索敵範囲に入るよ。クソボロいレーダーだから心配はないけど、地対空ミサイルを配備しているみたいだから、覚悟はしておいてね』

 犬姉の小さな笑い声が聞こえた。

 飛行機は急激に高度を下げ、眼下の森林地帯を舐めるように飛んでいった。

『ブレイク!!』

 犬姉が叫ぶと同時に、ビスコッティとクランペット機が組になって別方向に飛んでいった。

『おい、犬の丸焼きになるなよ!!』

 こちらの組になったリズの笑い声が聞こえた。

『そりゃこっちのセリフだ。黒リズになるなよ!!』

 犬姉が笑って、程なく見えてきた小さな村のようなものに襲いかかった。

 地上から散発的な対空砲火が上がり、リズ機がそれを叩きのめしている間に、こちらは低空で村のようなものの上空に進入し、ちょうど真ん中にあった高いアンテナ塔にロケット弾を叩き込んだ。

 爆発と共にアンテナ塔が倒壊し、破片を器用に避けた犬姉は、次に慌ててカバーが外されようとしていたレーダーアンテナに爆弾を叩き込んだ。

 犬姉が爆発炎上するレーダーアンテナ上空を確認するように旋回していると、程なくファン海兵隊の大型ヘリコプターが四機飛来し、村の掃討作戦が開始されたようだった。

『スコーン、あとは航空支援の待機だよ。まだ終わってないけど、お疲れ』

 犬姉の小さな笑い声が聞こえた。

「こりゃ、私向きじゃないな。攻撃魔法一発で村ごと吹っ飛ばすかもね!!」

 私は笑った。

 しばらく旋回していると、いきなりアラームが鳴り、犬姉が急角度で機を上昇させながら、回避行動に入った。

 アラームが消え、機の頭上を飛んでいく一本の白煙をみて、私は唾を飲み込んだ。

「あ、あれって……」

『携行式SAMだよ。ふん、噛みつきやがって。お返ししてやる!!』

 犬姉は機を地上に向け、まだ地上部隊が到達していない場所にたむろして、土嚢を積んで陣地を構築しようとしていた連中を、機関銃で徹底的に掃射した。

『こんなもんだろ。ん?』

 犬姉が機の向きを変え、村から慌てて逃げ出すトラックの群れを眼下に捉えた。

『受けた命令は、強盗団の殲滅なんだよね。面倒だけど、追うか』

 犬姉が機の高度を地上すれすれまで下げ、トラックの車列を追うと、三台ほど連なっていたトラックが、全て白い布を竿に立てて戦意がないことを示した。

「撃っちゃダメだよ!!」

『分かってるよ。これで撃ったら、こっちが悪い!!』

 犬姉が笑った。

 トラックが全て停車し、すかさず飛んできた大型ヘリが一機着陸して、トラックの人たちを収容しはじめた。

『これでよし、すぐに片付くよ!!』

 犬姉が元気に笑った。


 結局、こちらは怪我人も出さずに戦闘は終わった。

 空になった村に地上部隊が放火して建物を燃やし、これで邪魔な強盗団の村が一つ消えた。

『よし、仕事上がりだし、行きつけの酒場に寄るか。スコーンは暇?』

 犬姉が笑った。

「うん、暇だよ。どこいくの?」

 私は笑った。

『うん、とっておきの場所だよ。どうせリズ公もくるんでしょ?』

『当たり前でしょ!!』

 リズの笑い声がスピーカーに響いた。

『ビスコッティとクランペットはくるかな。おーい、行くか?』

『はい、いきますよ。クランペットも暇なので大丈夫です』

『分かった。それじゃ、集まっていくよ。久々だなぁ』

 犬姉が機の高度を上げ、再び四機集合すると、大きく旋回して海上に出た。

 しばらく海上をいくと、短い滑走路が敷かれた小さな島が見えてきた。

『あれ、リズ公がボーナスで買った小さな島なんだけど。国有地払い下げだから、格安だったんだって。もう一カ所あるのは知ってるけど、自分の場所だって連れて行ってくれないんだよね』

 犬姉が小さく笑った。

「へぇ、いい場所だね」

 私は笑った。

 犬姉が操る飛行機は、島の滑走路に着陸してすぐに止まり、そのまま駐機場に入って止まった。

『さて、着いたよ。お疲れさま』

 犬姉の声と共に風防ガラスが開き、私は酸素マスクを外した。

 機体を器用に伝って地上に下りた犬姉が、置きっぱなしのハシゴを掛けてくれて、私はそれを使って駐機場に下りた。

 ヘルメットを外すと他の三機も次々と着陸し、狭い駐機場が一杯になった。

「こりゃ、帰る時は全員で一機ずつ押し出さないとダメだね。さて、まったりしよう」

 犬姉は笑みを浮かべ、私に手を差し出した。

 私はそれを掴み、特に建物らしい建物がない島の飛行場から出た。

「飲む? 冷えてないしノンアルコールだけど」

 犬姉が放ってきたオレンジジュースの瓶を受け取り、私は栓を開けた。

「この島って、いっちゃ悪いけど小屋の一つもないんだよね。ただ滑走路と砂浜があるだけ。まあ、それがよくもあり悪くもあり……」

 犬姉が笑った。

「まあ、ゴチャゴチャしてるよりいいよ。それにしても、なにかいい匂いしてこない?」

 私はどこからか漂ってくる、香ばしい匂いに鼻を動かした。

「そうだねって、呆れたよ。ビスコッティとクランペットがわざわざ複座型を使って、バーベキューセットを持ってきたみたいだよ。狭い駐機場でなにやってるんだか」

 犬姉が笑って大声を出した。

「おーい、砂浜でやれ。狭すぎるし危ないぞ!!」

 犬姉が苦笑した。

 その声で大移動が始まり、コンロで焼きながら器用にみんなして一式を持ってきた。

「危ないなぁ、なんであんな場所で広げちゃったの!!」

 犬姉が笑った。

「ビスコッティ。しっかりしてよ!!」

 私は苦笑した。

「いえ、砂浜を汚したら悪いと思いまして……。あっ、これまだ生焼け」

 ビスコッティが、タマネギの串を手に持って笑った。

「そのための砂浜だっていったのに、なんか悪いからって」

 リズが苦笑した。

「しっかしまあ、戦闘任務だって知って、よく積んできたね。まあ、チョロい相手だったけど」

 犬姉が苦笑した。

「はい、事前の情報をみて、大した戦闘にならないと思ったのです」

 クランペットが笑った。

「まあ、いいけどね。少しゆっくりしたら帰ろうか」

 犬姉が頷いた。

「しっかし、ここ何ヶ月ぶりだったかな。さすが、パトラ謹製の除草剤だよ。これだけ経っても草一つ生えないとは……」

 リズが小さく笑みを浮かべた。

「まあ、食べましょう。焼きそばいきますよ!!」

 クランペットが、鉄板で焼きそばを焼き始めた。

 空はいつしか昼間際の色に変わり、腕時計をみると大体そのくらいになった。

「まあ、学食も飽きたし、たまにはいいか」

 犬姉が私の頭に手を乗せて笑った。

「うん、このところカリーナから出てなかったからね」

 私は笑った。

「ちなみに、さっきみたいな盗賊団の始末も、外周警備部門の仕事なんだよ。手が足りなくて国軍の力も借りてるけど、基本的にはカリーナは自治自衛だからね」

 犬姉が笑った。

「へぇ、結構仕事があるんだね」

「そうじゃなかったら、あっという間に強盗団とかどっかの国の手先どもに荒らされて消滅してるって。まあ、私はよその国からスカウトされたようなものだけど、ここ数年は随分静かになったよ」

 犬姉が小さく笑った。

「へぇ、どこの国生まれなの?」

「そうだねぇ、これは秘密なんだけど。スタルファ王国だよ。第三王女だっていったら信じる?」

 犬姉が笑った。

「だ、第三王女!?」

「うん、半ば放り出されてるけど、一応は王族だよ。そんなこと、とっくに忘れそうだけどね!!」

 犬姉が笑った。

「スタルファ王国っていったら、このファン王国とは仲が悪いはずなんだけど……」

「うん、最初はね。旅行客に紛れて一際目立っていた学生時代のリズを狙ってきたんだよ。当時とは違う場所に空港があってね。その屋上の展望デッキでぼんやりしてたリズを、出会い頭でいきなり狙ったんだけど、こっちもまさかいきなりだったし、向こうも瞬間的に気が付いて防御結界を張られておしまい。とっ捕まるかと思ったら、まだ変に隙がある学校だったから、そのまま校舎に逃げ込んでね。購買にあった制服をパクって学生のフリをしてチャンスを覗ったんだけど、リズの周りって実はかなりガードが固いんだよ。国からは始末するまで帰ってくるなっていわれてたし、それでも狙うに狙えないし、どうしたもんだかって、こっそり厩舎を根倉に考えていたら、校長が代替わりして急に雰囲気が変わってね。厩舎でカップ麺食ってたら、見回りの校長に出くわしちゃってさ。思わず反射的に撃っちゃったんだけど、マガジン全弾撃ち尽くしても全部避けられちゃってさ。私の人生初の経験で、思わず唖然としてたら、なんかそのまま警備に雇われちゃったんだよね。これでも、結構自信あったからね」

 犬姉が笑った。

「そ、それはまた……雇われちゃったって?」

「うん、人手が足りないからこいって、ほとんど無理矢理だよ。三時間半も説教こかれて灰汁が抜けちゃってさ。一番謎なのは校長先生だよ!!」

 犬姉が笑った。

「へ、へぇ……確かに、滅多にみないけど謎だよね」

 私は苦笑した。

「しかも、ようやく寮の部屋をもらったら、リズの隣室だよ。なんの嫌みだって思ったけど、今さらリズをぶっ殺すわけにもいかないし、そのつもりがあったら、どっかでやってるよ。国ではとっくに死亡扱いになってるんじゃない?」

 犬姉が苦笑した。

「そっか、帰りたくないの?」

「うん、あの国は嫌いだから帰りたくないって、仮にも王族がいうセリフじゃないけどね。ここはこれでも平和でいいよ。ああ、この話は内緒ね」

 私は黙って頷いた。

「よし、焼きそばが焦げる前に食べよう。って、もう焦げ臭いしなにやってるの!!」

 犬姉が叫んだ。


 焼きすぎで焦げ臭い串焼きと焼きそばを食べ、私は砂浜に仰向けに転がって暇つぶしをしていた。

 間もなく雨期が開ける頃、初夏の日差しが心地よく差す中で、私は大きく欠伸をした。

「……暇ですな」

 私はぽつりと呟き、小さく笑った。

 少し離れたところでビスコッティが砂浜に穴を掘り、クランペットを埋めてたこ殴りにして遊んでいて、犬姉は煙草を燻らせながらナイフの手入れをしていた。

「おーい、タコが捕れたぞ!!」

 どうも積んできたようで、ウエットスーツ姿のリズが、銛で突いた大きなタコを片手に叫んだ。

「よし、さっそく塩ゆでにしよう。スコーン、手伝って!!」

 犬姉がナイフをしまい、笑った。

「タコって生きてるところは初めてみたな……」

 私は苦笑して立ち上がった。

 犬姉は鍋に海水を一杯にしてコンロに掛けて湧かしはじめ、私はどうしていいか分からず、ただリズが持ってきた砂浜のタコを眺めていた。

「リズ公、ちょっと鍋みてろ!!」

「分かってるよ、後はやるから!!」

 リズがウネウネするタコと格闘を始め、包丁でざく切りにして鍋に放り込んでいくのが見えた。

「なんで、処理が面倒なタコかねぇ。この辺りって、カニも捕れるはずなんだけどな」

 犬姉が笑って私のところにやってきた。

「暇だろうし、スコーンもあっちみたいに埋まってみる?」

「なにそれ、いいけど殴らないでね!!」

 私は苦笑して立ち上がった。

「殴ったりしないよ。ちょっと待ってて」

 犬姉は相変わらずビスコッティがクランペットをビシバシやってるところから、勝手にスコップを拝借してきて、手慣れた様子で砂浜に穴を掘り始めた。

「穴掘りは基本だよ。これが出来なかったら、簡単に命を落とすからね」

 犬姉があっという間に私のやや腰上程度の穴を掘った。

「これでいいかな。ちょっと入ってみて」

 私が穴に入ると、犬姉はせっせと砂を掛けて埋め始めた。

「舐めちゃいけないよ。これだけで、動けなくなるからね」

 私の胸まで砂で埋め、犬姉が笑った。

 そのまま私の横に座り、頭を撫でた。

「ねえ、私とまずはお友達からってどう?」

 犬姉が笑った。

「えっ?」

「これでも三十だけど、どうもね。久々にいい子がいたなって思っていたんだよ。男に興味がないわけじゃないけど、今はスコーンがいいな。どう?」

 犬姉が笑った。

「いや、いい人っぽいし、お友達にはなりたいとは思うけど……」

「だったらいいじゃん。スコーンが気に入らなかったら、それはそれまでって話でさ。犬みたいに、食いついたら離さないのはあくまで敵が相手の場合だからね。私だって、いい加減一人じゃ寂しいんだよね。どうかな?」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「そっか、寂しいんだ……」

「そりゃ、ずっと一人だもん。私だって、人間だぞってね!!」

 犬姉は私の頭を撫でた。

「私もなんだかんだで一人だし、いいかもね。よし、そうしようか」

 私は苦笑した。

「そうと決まれば話は早いね。さっきの秘密を明かしたのも、これが初めてなんだよ。怖い?」

「そりゃ怖いけど、不思議と安心するね。ところで、いつまで私を埋めておくの?」

 私は苦笑した。

「そりゃ気が済むまでだよ。もう少し待ってね」

 犬姉が笑みを浮かべた。


 しばらくして、犬姉が私を掘り起こした。

「そろそろ帰らないとね。さっきから、カリーナから無線で早く帰ってこいってうるさいから」

 犬姉は掘った砂を元通りに埋め、大声を上げた。

「おーい、帰るぞ!!」

 その声で顔がボコボコのクランペットをビスコッティが掘り出し、ちょうどよくタコの処理を終えたリズが片付け始めた。

「さて、これからが大仕事だよ。飛行機を滑走路にださないと」

 犬姉が笑った。

「あれ、押して動かせるの?」

「うん、軽いからね。この人数なら押して動かせるよ」

 犬姉が笑った。

「そっか、分かった」

 私は笑みを浮かべた。

 片付けを終え、全員で駐機場に戻った時には、時刻は夕方になっていた。

「さて、押すよ!!」

 全員で飛行機を駐機場から滑走路に押し出し、一定間隔で縦一列に並べると、先頭を行く犬姉と私が乗る機のエンジンが掛かった。

 短いなと思った滑走距離も、この機には十分なようで、あっさり離陸して上空で編隊を組んでカリーナを目指した。

 さほど距離があるわけでもなく、程なく見えてきたカリーナの滑走路に無事に着陸すると、犬姉は慣れた手つきで駐機場に機を駐めた。

「よし、これからまた移動だよ。そっちのYS-11にみんな待機してるって」

 駐機場のコンクリートの上に下りると、犬姉が笑った。

「えっ、移動って?」

「なんか、スコーンの島に行きたいって、パトラがいいだしたらしいよ。魔法薬精製装置が出来たから、試験用の薬草が欲しいんだって。あそこまで七時間近く掛かるでしょ。もちろん、私も護衛としていくよ。正式に命令がきたから」

 犬姉が笑った。

「そ、そうなんだ。こんな時間に出たら、深夜になっちゃうよ」

 私は苦笑した。

「大丈夫、滑走路が改修されて灯火類も完備になったみたいだから、夜間も使えるようになってるはずだよ」

 犬姉が笑った。

「へぇ、それはいいね」

 私は笑みを浮かべた。

「それじゃ、皆が降りてきたらいこうか。あっちの方が快適だしね」

 犬姉が笑みを浮かべた。


 みんなを乗せたYS-11は、夜闇迫る中カリーナを飛び立った。

 窓の外はすぐ夜になり、小刻みに揺れる機内ではリズの島で獲れたタコの試食会で盛り上がっていた。

「うん、この塩気がいいね……」

 私はタコの一欠片を食べながら、ポツリと呟いた。

 気象は安定しているようで、時々小さく揺れる程度で、飛行は順調だった。

「スコーン、まだ島の整備が終わってないけど、演習も兼ねてファン王国海兵隊のチームが島に行きたいって無線でいってきたよ。どうする?」

 操縦席から出てきた犬姉が笑った。

「うん、使ってないからいいよ。チームって何人」

「それは機密だからいえないって。OKなら、今からC-130で飛び立つっていってるけど……」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「分かった。OK出しておいて!!」

 私は笑った。

「分かった!!」

 犬姉が笑って操縦席に戻っていった。

 飛行機は夜闇の空気を切り裂き、私の島を目指して突き進んでいった。


 座席の背もたれに身を預けウトウトしていると、ビスコッティが隣の席に座った。

「師匠、島になにか施設が欲しくないですか?」

「うーん……そうだね。島一周のモノレールとか?」

 私は目を擦っていった。

「そうですね。狭いようで広い島ですからね。さっそく。手配しましょう」

 ビスコッティが笑った。

「港はあるんだっけ。クルーザーもあるなら、今のところ十分じゃない?」

 私は苦笑した。

「はい、後はビーチを整備しましょう。今のままでもいいですが、良さそうなビーチが島内に六カ所もあるので、手付かずではもったいないです。これは、独断で手配してあります」

「そうだね。基本的にはのんびりしたいから、魔法研究関連の施設は要らないかな。森の小道もお気に入りだし、下手に弄らない方がいいかも」

 私は小さく笑った。

「分かりました。では、モノレールの手配とビーチの整備を行いましょう。今回はやっと手が空いた王宮魔法使い建設部の手が借りられるので、順調に仕事が進むと思います。エルフのみなさんも、いい加減疲れてきた頃合いでしょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そうだね。もう二ヶ月近く経ってるもんね。そろそろ一度里に戻りたいでしょ」

「どうですかね。こういう仕事になると、一際燃えてしまうようなので、キリがつくまで帰ろうとしないでしょう」

 ビスコッティが小さく笑った。

「そっか、お世話になりっぱなしだね。なにかお礼しないとね」

「そうですね。まあ、それは後々考えましょう。もう間もなく着陸降下に入ります。準備しましょう」

 ビスコッティが座席ベルトを締めたので、私はリクライニングを元に戻し、同じようにベルトを締めた。

「そういえば、この機を飛ばしてるの誰だっけ?」

「はい、パイロットの手配が間に合わなかったので、犬姉とパトラが飛ばしています。二人ともベテランなので、問題はありません。追々、ファン王国海兵隊も到着するでしょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「そっか、島の一部を演習場に開放してあげようか。どのみち、広すぎて困っていたから」

「それもそうですね。きっと、喜びますよ。 カリーナの防衛だけでは、鈍ってしまうでしょうから」

 ビスコッティが笑った。

「さて、あのデコボコ滑走路ともおさらばか。あれはあれで、結構好きだったんだけどな」

「あれはダメです。いくら頑丈でも、飛行機の脚が痛んでしまいます。滑走路を延長すれば、ジェット機でも大丈夫ですが……」

「私はこれでいいよ。古いけど、味があって気に入ってるし」

 私は笑みを浮かべた。


 飛行機は明け方近くなって、色とりどりの灯りが点った滑走路に着陸した。

 いつの間にか平行誘導路も作ってくれたようで、飛行機はそのままスムーズに駐機場に入って止まった。

「さて、着いたね。ちょっと眠いよ」

 私は笑った。

「エルフの皆さんは、家からログハウスに移動したようです。もう、ほぼ完成したようです」

 ビスコッティが笑ってベルトを外した。

「そっか、あの家じゃ手狭だったかな」

 私は笑って、同じくベルトを外した。

「では、私は先入りしている王宮魔法使い建設部の皆さんと交渉してきます。モノレールのレール部分だけなら、あっという間に作れると思いますよ」

 ビスコッティが席を立って先に飛行機を降りていき、私はゆっくり席を立って前方の出入り口に向かった。

 ステップを伝って駐機場に下りると、明るい灯火の中でスラーダが笑みを浮かべて待っていた。

「スコーンさん、私たちの作業は終わりました。明日には里に戻りますので、今夜は家をお借りして宴を催しています。よろしかったら、どうぞ」

「あれ、もう終わったんだ。ありがとう!!」

 私は笑みを浮かべた。

「では、スコーンさん。行きましょう」

 外で待っていたクランペットと一緒に、私は家に入った。


 家の中ではテーブル料理に載せられた大皿料理をエルフたちが取り囲み、多いに盛り上がっていた。

 その輪の中にマルシルが溶け込んでいるのをみて、私はホッとした。

 私は各テーブルを回ってお礼述べて、ついでに料理を食べた。

 落ち着かない晩ご飯だったが、それなりに満足し、私は寝床のハンモックを張る作業に入った。

「あっ、手伝います。こんな事なら、畳まない方がよかったですね」

 スラーダがやってきて、私の作業手伝ってくれた。

「ありがとう。どうも、これが苦手なんだよね……」

「はい、慣れないと大変ですし、本来は二人で行う作業ですから」

 スラーダが笑った。

 とりあえず人数分のハンモックを設置すると、私は小さく息を吐いた。

「はぁ、疲れた……」

「でしょうね。慣れないと大変なんです」

 スラーダが笑った。

「おーい、メシが余ったって!!」

 リズの声が聞こえ、私は仕切りの向こうに移動した。

 エルフの皆さんはすでに家の外に移動を始めていて、リズ一味が残った大皿料理を囲んでいた。

「こら、リナ。好き嫌いしない。アメリアもそれ高級品なんだから、器用によけない、ナーガ、その避けたヤツばかり拾わない。パトラ、もうちょっとアクセル緩めろ!!」

 リズが大声を上げ、まあ、楽しそうだった。

「なんか、今日は食べてばっかりだな。まあ、お腹空いてるからいいけど」

 私は苦笑して、別テーブルに置いてある大皿をみた。

「うん、残ってるね。これ、食べ切っちゃダメなんだよね。失礼に当たるから」

 私は苦笑して、ポケットから無線機を取り出した。

「おーい、メシ余ってるぞ!!」

『師匠、それは後発のファン王国海兵隊の皆さんに取っておきましょう』

「そっか、分かった」

 私は無線機をポケットにしまった。

「おーい、ファン王国海兵隊を乗っけた機が、もう二時間で着くってさ!!」

 犬姉が入ってきて笑った。

「二時間か……まあ、ここは遠いからね。冷めた方が美味しいからいいけど」

 私は笑みを浮かべた。

「みんなで出迎えようかっていってるけど、どうする?」

「うん、特にやる事もないし、みんな大変そうだからたまにはね!!」

 私は笑った。


 外に出ると、生暖かく湿った風が吹いていた。

「ん、これは嵐かな……」

「はい、管制塔からの連絡によると、ちょっとした嵐が接近中のようです。見込みではちょうど一時間くらいだそうですが……」

 外にいたビスコッティが、笑みを浮かべた。

「そりゃ大変だね。降りられるかな……」

 私は苦笑した。

「まあ、なんとかするでしょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「姉さん、嵐がもう一つ生まれてくっつきました。中心平均気圧は……あっ、忘れた」

 駆け寄ってきたクランペットが、無線機でなにやら連絡を取り始めた。

 そのうち雨がぽつぽつ降り出し、風が強くなってきた。

「師匠、中に入ります?」

「いや、ここでいいよ。嵐の研究をしよう」

 ビスコッティが笑い、なにやら機材の準備を始めた。

「スコーンさん、なにが始まるんですか?」

 キキとマルシルがやってきた。

「うん、お迎え兼嵐の研究だよ。熱帯性低気圧なんて、ここじゃないとできないからね。あとは、ビスコッティの指示に従って。クランペット、もう中心気圧とかどうでもいいから、機械がぶっ飛ばないように気をつけて」

 私は時折吹く強風に煽られながら、小さく笑みを浮かべた。

「師匠、風力が五を超えました。これ、降りられますかね」

「うん、気合いと根性と腕でなんとかするでしょ。じゃなかったら、ファン王国海兵隊じゃないもん。しっかし、本降りになってきたね」

 派手に雷鳴が轟く中、ついに暴風となった家の外は、ついに離陸不可能となったようで、エルフの皆さんが慌てて家の中に避難してきた。

「師匠、風力八。北北西です!!」

 ビスコッティが楽しそうに叫んだ。

「クランペット……あれ、飛んじゃった?」

「いますよ、真後ろに!!」

 クランペットのゲンコツが私の頭にめり込んだ。

「……私の後ろに立つな」

 思い切り肘鉄を食らわすと、クランペットが家の玄関扉に張り付いた。

「よし、機材投棄。伏せろ!!」

「はい、師匠!!」

 ビスコッティが機材を放り投げ、慌てて地面に伏せた。

 そのままどれほど経った頃か、さらに強風と暴風が吹き荒れる中、夜空に着陸灯が三つ浮かんで見えた。

「よし、きたよ」

 私はインカムのボタンを押した。

「パステル、歓迎の挨拶!!」

『はい、上げます!!』

 無線にパステルの声が飛び込んできた途端、島中が爆発したかのような勢いで花火が打ち上げられて、派手に嵐の空に散った。

「よし、これで歓迎の花火は終わり……あっ、倒れた」

 二機並んだYS-11のうち、エルフご一行が乗っていた機が傾いて主翼が折れ、そのまま横倒しになった。

「師匠、風力十です。これ以上は、危険です。といっても、もはや撤退も出来ませんが!!」

 ビスコッティの怒鳴り声が聞こえた。

「これ、絶対降りられないような……」

 着陸灯が大きくなり、目の前の滑走路にやや傾きながら、四発プロペラ輸送機がおりてきた。

 そのまましばらく滑走路を走り、急ぎ平行誘導路に入ると、駐機場に駐まってエンジンは掛けっぱなしで待機していた。

「よし、もう一発!!」

 私は呪文を唱え、上空に『ようこそ』というメッセージを打ち上げた。

「師匠、匍匐で帰りますか?」

「だって、扉にクランペットが張り付いたままで開かないもん。このまま二時間もすれば抜けるんじゃないの。風力と風向だけ記録しておいて」

 私は暴風の中、笑みを浮かべた。


 雨が止んで風が少し収まると、輸送機の中からワラワラ人が出てきて、コンクリ埋め込みのフックにワイヤーを掛けて期待を固定する作業を始めた。

「さて、もう大丈夫だね。立てるかな。ビスコッティ、いくよ」

 私はそっと立ち上がり、風に煽られながらビスコッティと一緒に家の玄関扉に向かった。

 やっと扉から剥がれて、地面に倒れているクランペットを回収して、家の中に入ると私はタオルと間違えて雑巾で頭と顔を拭いた。

「あれ、これ雑巾だ。誰だよ、ここタオル掛けだって!!」

 私は苦笑した。

「びしょ濡れですね。師匠、シャワーでも浴びますか?」

「そうしようか。やれやれ……」

 私とビスコッティは、気絶しているクランペットを放り出して、シャワールームに向かった。

 なんか悲惨なほどグチャグチャなキキとマルシルも合流し、遅れてにこやかなグチャグチャのパステルも合流し、私たちはさっシャワーを浴びて普段着に着替えて部屋に戻った。

 どうやら一段落ついたようで、後発便で到着した軍服姿やらスーツ姿などの皆さんが、リズの誘導で大皿料理を食べていた。

「おーい、みんな無事だよ!!」

 犬姉が笑った。

「そっか、あの嵐で無事だったんだ。よかったよ。さて、私はちょっと寝るかな。ビスコッティ、クランペットをよろしく」

 私は仕切りの向こうにいき、適当なハンモックに横になった。

「師匠、スラーダの一行が無事なYSに乗って帰るそうです」

「いけね、そっちのお見送りも忘れていたよ。飛行機の割り当てが分からなくてさ」

 私はハンモックから下り、玄関の外に出て私たちのYSに乗って行くのを見守った。

「では、私たちは撤収します。さすがに、里が心配なので」

 スラーダが笑った

「うん、色々ありがとう。このお礼はいつかね!!」

 私は笑みを浮かべた。

 そのスラーダが一団の最後方について、飛行機に乗っていった。

 しばらくしてエンジンが掛かり、プロペラが風を切る心地よい音が聞こえてきた。

「せーの!!」

 私は呪文を唱え『ありがとうございました』と明け方の空に描いた。

 飛行機がプッシュバックされ、誘導路を走り始めた。

「すっかりお世話になっちゃったね。あとで、森を散策しようかな」

 私は滑走路に入っていく飛行機をみながら、思わず呟いた。

 飛行機が加速して飛び立っていくと、私は手を振って送り、そのまま機影が消えていくのを見守った。

「さて、寝るかな。軽くね」

 私は呟き、再び家の中に入った。

「おーい、クランペットは任せて。まだ起きないよ」

 リズがクランペットを無理矢理着替えさせ、小さく笑った。

「うん、ありがとう。さて、軽くね」

 私は黄色いハンモックを一瞥して、端っこの方の妙に落ち着く場所を選んで潜った。

 そっと目を閉じ、私はハンモック上でゴロゴロしながら、そのうち眠りに落ちた。


 ふと目を覚ますと、窓から朝日が差しこんでいた。

「よう、起きたか」

 犬姉が眠そうに頭をガリガリ搔きながら、私のハンモックに近寄ってきた。

「うん、おはよう」

 私はハンモックから下りた。

「昨日の嵐で、そこら中ゴミだらけだよ。片付けなきゃね」

 犬姉が苦笑した。

「あれ凄かったね。久々に怖かったよ。伏せてても体が浮いたもんね」

 私は欠伸をして、仕切りの向こうにいった。

 キッチンではキキとマルシルが朝ごはんの準備をしていて、いい匂いが漂っていた。

「師匠、どこかに散ってしまったファン王国海兵隊の皆さんなどを呼びましょう。まずは、私たちから」

 テーブルの上には目玉焼きとご飯、味噌汁が並べられていて、すでに起きだしたみんなが朝食をとっていた。

「ビスコッティ、焼き海苔!!」

「ありません」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「代わりに、食べるラー油なんていかがですか」

 ビスコッティは私に瓶詰めを手渡した。

「……なんだ、これ。まあ、いいや」

 私は適当な椅子に座り、ご飯を食べはじめた。

「うん、よく分からんけど美味い。研究しよう」

 私は瓶の中身を別皿に全部空け、じっと見つめた。

「……分からん。以上!!」

 私はお皿の中身を全部飲んだ。

「……うん、もっと分からん。以上!!」

 私が笑うと、クランペットがすかさずレシピを差し出し、そのまま家の外に出ていった。

「……なんだこれ。化学調味料か。どうりで分からん!!」

 私はレシピをビスコッティの鞄に押し込み、笑みを浮かべた。

 結局何事もなく朝ご飯を終え、私は外に出た。

「ん?」

 家の外でランとソノが組取りをやっていて、空は青く平和だった。

「あれ、直してるよ……」

 昨日の嵐で倒れてぶっ壊れたYS-11を、軍服をきた皆さんが取り囲んで起こし、なにやら作業をやっていた。

「あれ、直るのかな……」

 私が呟いた時、C-17輸送機が滑走路に滑り込んできて止まった。

 そこからなにやら大騒ぎで色々降ろし、ガンガン作業が進んでいった。

「へぇ、こんな事も出来るんだね。今後も頼ろう」

 私は笑みを浮かべた。

「なに、起きたの?」

 家の屋根を修理していた犬姉が声を掛けてきた。

「うん、いい天気だね。なに、ぶっ壊れたの?」

「うん、なんかでっかい機材がぶち当たったみたいでさ。これ、頑丈なはずなんだけどな」

 犬姉が笑った。

「……あれ、覚えが」

 私は頭を掻いた。

「ったく、あんな嵐に変な研究しないの。まあ、いいや」

 犬姉がハシゴを下りて、私にド○ペの瓶を放ってきた。

 栓を開けると、盛大に吹き出した中身が私の顔面に直撃した。

「……ヌルい」

 私は苦笑した。

「あーあ、やっちゃった。まあ、これでも使って」

 犬姉が塗れタオルを投げてきた。

 それを受け取り、私は拭けるだけ顔を拭いた。

「まさに、嵐の後の静けさだね。さて、直ったかな……」

 犬姉は笑って、手榴弾のようなものを家の屋根に投げた。

 小さな爆発が起き、犬姉は頷いた。

「大丈夫そうだね。まあ、このくらい頑丈な家なんだよ。」

 犬姉が笑った。

「……しゅごい」

 私は目を丸くした。

「そうでもなかったら、ここの嵐に耐えられないよ。さて、仕事終わり!!」

 犬姉が伸びをした。

「なに、暇なの?」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「まあ、朝ご飯食べたし、暇といえば暇かな」

 私は笑った。

「そっか。さっき連中からパクってきたんだけど、ドライブする?」

 犬姉が笑い、家の側に駐めてあった小型四輪駆動車に飛び乗った。

「あっ、いいね。いこう」

 私は犬姉の乗る車の助手席に座った。

「じゃあ、いこうか」

 犬姉が車のエンジンを掛け、やや拡張された森の小道に入っていった。

 そのまま湖に出て、湖畔をなぞるように進んで行くと、今までいった事のない景色が広がっていた。

 森をぬけると草原になっていて、人が通って出来た道とはいえない道の上を、車は走り抜けっていった。

「おっ、やってる!!」

 犬姉が笑うと、頑丈そうな鉄網で作られた壁が出来ていて、時々『危険につき、立ち入り禁止』と書かれた赤い看板が掲げられていた。

「ここがファン王国海兵隊のキャンプ予定地だよ!!」

「へぇ、厳重だね」

 私が呟くと、低空飛行のC-130輸送機が頭上を通過していった。

「おっ、もう簡易滑走路を作ったか。さすがに、手慣れてるというか早いね」

「へぇ、こんな場所に滑走路なんて作っちゃったんだ」

 工事中でガンガンもの凄い音を立てているキャンプ予定地脇を通過すると、ちょっとした山道に入った。

「あんまり起伏がない島だけど、一応この辺りが最高標高地点かな。道が整備されていないから、結構大変なんだよね」

 車は岩がゴロゴロしている道を器用に走り抜け、山道を通過した。

 派手に揺れる車内で、上空をテレビ局のマークを付けたヘリコプターと、AH-64Fが仲良く追いかけっこしている姿が見られた。

「……あれ、怪しいね」

 犬姉が車を駐め、車体後部から円筒形の物体を取り出して肩に担いだ。

 シュボッと音が聞こえ、白煙と共に吐き出された何かが、オレンジ色の炎をたなびかせてAH-64に向かって飛んでいった。

「さて、いこうか」

 半分登りかけていた大岩を乗り越え、車が動き出した途端、上空で花火が咲いた。

「……撃墜しちゃったよ。あれ、カリーナのじゃないの?」

「違うよ。ここには持ってきてないから。あのテレビ局も謎だけど、民間機だしね」

 犬姉がニヤッと笑みを浮かべた。

「スコーン、これ持っておいて」

 岩場の道を抜けると、一度車を止めた犬姉が私にミニミを手渡した。

「えっ?」

「いいから!!」

 犬姉は再び車を出し、細い道をひたすら走ると、程よく小さな砂浜に出た。

「さてと、そろそろかな……」

 犬姉がちらっと腕時計を確認すると、遠目にいきなり黒光りする艦体が浮上してきた。「のわっ!?」

「所属はいえないけど、昔からの友人でね。休憩したいっていうからさ!!」

 犬姉が笑った。

「……撃っていい?」

 私は呪文を唱えた。

「ダメ、変わったものみると、すぐにぶっ放すって評判だよ。お友達っていったでしょ」

 犬姉が笑った。

「……そっか」

 私は砂浜に転がっていた石ころを蹴飛ばした。

 潜水艦からボートが高速で接近し、砂浜に乗り上げて停止した。

「ほらきた!!」

 犬姉がボートに近づき、なにやら話し始めた。

「……ん、どこの言葉だろ?」

 聞き慣れないボートに乗った男たちの声に、私は小首を傾げた。

「おーい、スイカ割りやるって!!」

 犬姉が戻ってきて、車から青いシートとスイカをボコボコ取り出した。

「よ、用意がいいね……」

 私は苦笑した。

「まあ、大体持ってるよ!!」

 犬姉が砂浜にシートを広げ、横一列にスイカを並べていった。

「スイカ割りなんて、久々だな……あっ」

 砂浜に銃声が響き、程よく砕けたスイカを前にケラケラ笑い、煙草を吸ってからボートに乗って去っていった。

「さすが腕がいいね。おーい、食べよう!!」

 犬姉が嬉しそうに声を上げ、せっせと塩を振って回った。

「す、スイカ割り、ってそういう事ね」

 私は苦笑した。


 犬姉とスイカを食べていると、スパッと誰かが残り全部パクっていくのが見えた。

「ん、なんか通ったような……」

「気のせい気のせい。塩は多め。好みのはずだから!!」

 犬姉が笑った。

「あっそう……。スイカがこれしかなくなちゃったね」

 私は崩れたスイカをもぎ取りながら、モシャモシャ食べた。

「一個あればいいよ。あっちは大所帯だからね」

 犬姉が空を見上げた。

「そうだね。大所帯って知ってるの?」

「うん、知ってるよ。テレビ局のヘリでピンときたからね」

 犬姉が笑った。

「そっか、聞かないでおくよ。それにしても、いい天気だねぇ」

 私は笑った。

「さて、食べたら帰ろうか」

 犬姉が笑った時、インカムにビスコッティの声が飛び込んできた。

『あの、どちらにお出かけですか。道に迷っているのですが?』

 耳にインカムを付けっぱなしの犬姉が笑った。

「やっぱり迷ったか。帰れるかな」

 犬姉が笑い、無線で通信を始めた。

「あーあ、ビスコッティらしいけどね」

 私は笑った。


 二人でスイカを食べ尽くし、皮を砂浜を囲む茂みに穴を掘って埋め、シートを打ち寄せる波で洗うと、今度は私の運転で別の道から帰る事にした。

「それにしても、ビスコッティはどこなんだろ……」

「うん、一応湖まで来いとはいってあるんだけど、狭いようで広いからね」

 やや時間は掛かったが、湖の畔に到着すると、均整の取れた男の人たちが、パンツ一枚でジェットスキーやらなにやらで遊んでいた。

 私が車を駐めてそれを眺めていると、犬姉が笑った。

「なに、また何かの研究?」

「うん、二体上腕骨辺りの張り出しが気になったんだよ。いいねぇ」

 私は笑った。

「また、マニアックな。まあ、野郎どもも休暇が必要って事か」

 犬姉は笑って、車体後部のクーラーボックスから魚の刺身を取り出した。

「オーボエっていう魚の刺身だよ。醤油は忘れちゃったけど、味噌があるからそれでいいか」

「さ、刺身!?」

 驚く私の口に、犬姉が刺身の一切れと味噌を放り込んだ。

「……美味い」

「でしょ。この湖で捕れるって聞いて、気合いで釣ったんだよ。昨日だから、ちょっと鮮度は落ちてるかもしれないけど、脂が多いからこのくらいがいいかもね」

 犬姉が固形のレーションを囓りながら笑った。

「あれ、食べないの?」

「私はいいよ。スコーンにあげる。ビスコッティが醤油どっかやっちゃってさ。しかも、クランペットが忘れて……知ってる。クランペットってマイ醤油持ち歩いているの。刺身用の」

 犬姉が笑った。

「へぇ、ビスコッティはビスコッティらしいけど、クランペットがねぇ。知らなかったな」

「うん、なんか刺身だけはうるさいからね。プローンで食う刺身が一番美味いとか、よくわからない事をいってるよ」

 犬姉が笑った。

「プローンって、いわゆる伏せ撃ちでしょ。美味いって……」

 私は苦笑した。

「さて。おーい、ビスコッティ。そろそろ着いた?」

 犬姉が笑った。

『それが、ブッシュばかりで頭きて乗り越えていたら。完全に森の中で……』

「だと思った。トレーサー投げて置くから、追跡しなよ」

 犬姉が笑って、一掴みはある機械を地面に放り投げた。

「なに、どっかいっちゃったの?」

「うん、どこにいったのやら」

 犬姉が笑った。

「だったら、こっちが早くない?」

 私は呪文を唱え、上空巨大な火の玉を打ち上げて破裂させた。

「それ、森の中からじゃ多分みえないよ。まあ、いいか。ここまでくれば、道は一つしかないし、帰れるでしょ」

 犬姉が笑みを浮かべた。


 家に帰ると、ボコボコになった車に乗ったビスコッティが、なんか必死にノートパソコンのキーボードを叩いていた。

「ビスコッティ、なにやってるの?」

 犬姉が笑った。

「あっ、師匠。探しましたよ。もう暗くなってきたので」

 ビスコッティがノートパソコンを閉じて、小さく笑みを浮かべた。

「ごめん、ごめん。でも、そのボコボコの車はどうしたの?」

 私は苦笑した。

「ちょっとしたツーリングです。さて、お昼ご飯食べましたか?」

「そういや、スイカだけで終わっちゃったよ。まだ、満腹だよ」

 私は苦笑した。

「そうですか……スイカ?」

 額に怒りマークを浮かべたビスコッティが、車を降りてこちらに接近してきた。

「ヤバっ、逃げよう!!」

 犬姉が車を出し、再び車に乗り込んだビスコッティが後を追いかけてきた。

「へぇ、やるじゃん」

 犬姉がニヤッと笑みを浮かべ、小車で道を走り始めた。

「犬姉、あんまりビスコッティを虐めると後が怖いよ!!」

 私は笑った。

「そうかなぁ」

 犬姉が笑った。

 追ってきたビスコッティの車が、私たちの車に体当たりした。

「なんの!!」

 一瞬バランスを崩した車だったが、犬姉は巧みに車を操作してあっという間に元の体勢に戻した。

「イタズラっ子にはこれ!!」

 犬姉が蜘蛛のオモチャを取り出し、ビスコッティの車目がけてぶん投げた。

「ぎゃあ。でもスイカ!!」

 ビスコッティの大声が聞こえ、とにかくどこまでも張り付いてきた。

「あれ、根性みせたね。どうしようかな……」

 犬姉がいきなりハンドルを切って、道から外れたブッシュに突入した。

 背後からクラクションとパッシングでバカスカアピールしながら、ビスコッティの車が執拗に追ってきた。

「ったく、しょうがないなぁ」

 犬姉がハンドルを切って道に戻ると、車はそのまま小さな砂浜に出て止まった。

「はい、お着き!!」

 犬姉が笑った。

 砂浜には屋台が出ていて、いつきたのか芋ジャージオジサンが笑顔で焼きそばを焼いていた。

 その隣りでは、クランペットが金魚すくいの屋台を開いていて、せっせと金魚に餌をあげていた。

「こ、これは……」

「うん、暇だから屋台を開いてみたよ」

 犬姉が笑った。

「スイカ!!」

 ビスコッティが涙目で犬姉に詰め寄った。

「はいよ!!」

 車の後部からスイカを取り出し、犬姉がビスコッティの車にスイカを手渡した。

 ビスコッティは小さく笑みを浮かべ、いつも作業用に持ち歩いているナイフでスイカを切り始めた。

「それ黄色いからレアものだよ。ヘタだけね!!」

 犬姉が笑った。

「これが噂の……」

 ビスコッティが「砂糖」と書かれた瓶を傾けた。

 瞬間、銃声が聞こえ、瓶がそのまま吹っ飛んだ。

「バカ者、砂糖など掛けるな」

 焼きそばが一段落した様子の芋ジャージオジサンが、ライフルを構えて小さく息を吐いた。

「……はい」

 ビスコッティはそのままスイカを食べた。

「ジューシーです。これがジューシーなんです。師匠、分かりましたか!!」

「……うん。怖くないんだ」

 私は苦笑した。

「うむ、こっちで杏飴もやっている。食っていくといい」

 芋ジャージオジサンは笑みを浮かべ、ライフルを傍らにおいた。

「なに、お祭りでも始めたの?」

「うん、暇だからね」

 犬姉が笑い、車から飛び降りた。

 その後、車が続々と到着し、屋台の数が増えて海上から花火が上がった。

「……なんかのパーティ?」

 私は苦笑した。

「師匠、これがスイカです。南方の島でハウス栽培されているのですが、 ここでは自生しているようで、ずっと狙っていたんです」

 ビスコッティが笑顔になった。

「あまり食べるとお腹壊すよ。私はもういいや」

 私は苦笑した。

「さて、西瓜野郎ビスコッティはいいとして、屋台が増えたね。用意がいいね」

「まあ、こっちは夏みたいな気温だしね。ついでだから、見て回ろうか」

 犬姉が笑って、私は車から降りた。

「おい、こら。食ってけ!!」

 独特のニオイを放っている屋台で、カウンターの向こうからリズが声を掛けてきた。

「あれ、こんなところで屋台やってたんだ」

 私は笑った。

「これが豚骨ラーメンだよ。食ってけ!!」

 パトラを始めとした各員がせっせと働く中、リズが笑った。

「うん、食べていこう」

「リズのラーメンか。久々だよ」

 私と犬姉が席につくと、しばらくしてパトラが丼を運んできた。

「オススメのハリガネだよ。紅ショウガたっぷりね」

 パトラが去っていくと、犬姉が豪快に紅ショウガを丼に入れた。

「あとは、コショウを山ほど……。ほら、伸びちゃうよ」

 犬姉が笑った。

「へ、へぇ、豪快だね」

 私は犬姉より多く紅ショウガを大量に入れ、コショウを振った。

「……紅ショウガ入れすぎたかも」

「あーあ、やっちゃった。適量があるんだよ」

 犬姉が笑って、丼を交換してくれた。

「よし、食うぞ!!」

「え、えっと、いいのかな……」

 私は苦笑した。

 犬姉が替え玉十個、私は控えめに五個を平らげ、犬姉が財布からクレジットカードを取り出した。

「あいよ、一回払いだよ!!」

 手が空いたらしいリズが、私たちのテーブル近寄ってきた。

「へぇ、プラチナじゃん。やるね、はい、二人前で千二百三十九クローネだよ!!」

 リズが笑い、白紙の伝票と空薬莢をコトリと置いていった。

「あれ、怒られちゃったよ。まあ、いいや。食べようか」

 犬姉が笑った。


一体どこに積んできたのか、ビーチバレのコートの設置まで始まり、私は麩菓子をかじりながらただそれを見つめていた。

 船のエンジン音が聞こえ、また盛大に花火が上がり、私の背後に気配が現れた。

「こら、油断しすぎだぞ。私なら、ぶん殴っているよ!!」

 犬姉がかき氷を二つ片手にやってきた。

「私の好みで蜜のみね。なぜか、蜂蜜使ってるんだって」

 犬姉がかき氷を一つくれた。

「へぇ、蜂蜜ね。確かに珍しいね」

 私は手に持っていた麩菓子を犬姉に手渡し。かき氷を食べた。

「あっ、ゴメン。麩菓子全部食べちゃった!!」

 犬姉が笑った。

「えっ、食べちゃったの。まあ、いいや」

 私は笑った。

 苦笑してから、空になったかき氷の容器を魔法で燃やして処分すと、その場に立ち上がった。

 ビーチバレーで楽しんでいる皆さんの向こうに、重たいエンジン音が聞こえ、しばらくすると凄まじい轟音が聞こえてきて、二隻の船らしきものが砂浜に乗り上げてきた。

 船の前部にあるハッチが開き、中から車両や軍服っぽい制服を着た人たちやら、スーツのようなもの着込んだ人やらの、色々と出てきて大騒ぎになった。

「こら、予定と違う。ビーチングは明日だろう!!」

 『コマンダ』と腕章を付けた軍服姿の人が、トランジスタメガホンをぶん投げた。

「これはもう、パーティやろうぜ。ガンヘッドだね」

 私は苦笑した。

「あーあ、もし海に落っこちたら全員ずぶ濡れだね。似合わないからスーツはやめろっていったのに、エルキャックだからいいけど!!」

 犬姉が笑った。

「あれ、なんか戦車っぽい。……ん、M2か?」

 履帯でビーチの砂をかき分けながら、装甲車両が数両変な船から下りてきた。

「なんか、野郎どもがどうしても欲しいんだって。建設中のキャンプに配備予定なんだって!!」

 犬姉が笑った。

「へぇ、ぶっ壊していいのかな?」

 私は笑った。

「高いからやめておいた方がいいよ。おっ、なぜかT-80だね。コマンダ、どこで乗せたの!!」

「知らん、勝手に混ざっていた。今度はメルカバか。どこで積んだんだかな」

 コマンダがニヤリと笑みを浮かべた。

「また遊んだな。よし、これをあげよう」

 犬姉は私に筒状の長い武器を手渡した。

「これ、ジャベリンじゃん。対戦車ミサイルで遊ぶの?」

 私は苦笑した。

「さてと、右に四十度、仰角八十度!!」

 犬姉は私を立たせ、体を押して回した。

「えっと……」

 私はパネルを操作して、ミサイルのシーカーに火を入れた。

 電子音が鳴り響き、コマンダが無線であちこち激しく指示を飛ばし始めた。

「パーティやろうぜ!!」

 犬姉が私の肩を叩き、電子音が高音に達した瞬間にトリガーを引いた。

 私が発射したミサイルは夜空に向かって飛んでいき、小爆発に続いて大爆発が起きた。

「よし、一機撃墜。さすがに目立ったらしくて、各国の怖い皆さんがよってたかってトンで出来ちゃってね。まずは掃除しないと。上空待機している豚さんとお米野郎は無事かねぇ」

 犬姉が笑った。

「そりゃ目立つでしょ。こんだけ、最新鋭戦車を無国籍に集めたら。どうなってるの?」

「うん、古い爆撃機を改造した輸送機が三十二機だって。AWACSからガンガン情報がきてるよ」

 犬姉が笑みを浮かべ、無線機のインカムを弄った。

「ビスコッティ、クランペット。派手に打ち上げろ。牽制にはなる!!」

『なんでSA-4なんですか。設定がクソ面倒いです。レーダーでは捉えていますが、これ高高度用ですよ。当たるわけないです!!』

 ビスコッティの怒鳴り声が聞こえた。

「こっちでも色々やってるから安心してぶっ放せ!!」

『だからもう……設定これでいいや。当たらないし!!』

 島の中程からズドドドと、凄まじい数のミサイルが打ち上げられた。

「……よし、いい感じでブレイクしたよ。コマンダ、あとは任せた」

 犬姉が笑った。


 なんだか騒々しいが、砂浜の屋台はのどかに続いていて、時々軍服のような人がきてイカ焼きなどを買っていた。

「はい、今度はたこ焼き。スープがなくなっちゃってね」

 リズが寄ってきて、犬姉と私にたこ焼きを渡して去っていった。

「リズ、そういや掃除はどうなの?」

 犬姉が笑みを浮かべた。

「これからだよ。やれやれ……」

 リズがひっそり肩に背負っていた狙撃銃をみせ、笑いながらどっかにいった。

「なんか、大変だねぇ」

 私はたこ焼きを食べながら、小さく笑った。

「まあ、派手に動いたからね。だから、上陸オペレーションは明日だっていったのに、待ちきれなかったか」

 犬姉が大笑いした。

「ん、俺もだな……」

 近くで夜空の爆発を眺めていた芋ジャージオジサンが、そっと立ち上がってリズが消えた方と反対側に消えていった。

「おーい、SA-4のどんがらなんかいいから、そっちも配置について」

 犬姉がインカムに向かって声を上げた。

『すでに、魔法でとっとと始末してあります。クランペット、いくよ』

 ビスコッティの声が聞こえ、車のエンジン音が聞こえた。

「ビスコッティも大変だねぇ。今度はなにするの?」

「ん、ちょっと真面目なお仕事タイムかな。絶対、乗り込んできてるからね!!」

 犬姉が拳銃を抜いた。

「あっ、そういう事……」

 私も拳銃を抜き、ハーフ・コックで腰の後ろに挿した。

「さてと、屋台はもういいか。ってか、ほとんど店じまいしてるしね。あとはコマンダに任せて家に帰ろうか」

 犬姉が笑い、私たちは犬姉の車に乗った。


 犬姉の運転で森の小道を走っていると、不意に車を止めた。

「……気が付いてる?」

 犬姉が小声で呟いた。

「……とっくに気が付いてるよ。アシド・ワーム。滅多にみない希少種だね。そろそろ起こすかな」

 私は小声で呪文を唱え、車の全貌に小さな爆発を起こした。

 瞬間、路面を突き破って柱のようなワームが出現した。

 ワームとは、まあ、巨大なミミズのようなものだ。

「暗がりでよく見えないけど、アシド・ワーム特有の酸っぱいニオイがする。有毒だから気をつけないと!!」

 私は叫びながら車を飛び下り、小声で呪文を唱え始めた。

「前に何回かどこどころか、死ぬほどぶちのめしたよ。動きはトロいから平気だね」

 犬姉が素早く移動して、アサルト・ライフルをフルオートで射撃した。

「……おっと」

 私は呪文を中断し、大きく地面を跳んで転がった。

 すぐ側に二体目、三体目とアシド・ワームが姿を現し。私はインカムのボタンを押した。

「救援要請、どこだか知らんが、アシド・ワーム体確認」

『了解した。こちら、チェリーパイワン。一分で着く』

 インカムに女性の声が飛んできて、すぐさま軽快なエンジン音が響いてきた。

 同時に背後から履帯の音が聞こえ、二台のM2が轟音を立てて迫ってきていた。

 上空からアシド・ワームの群れに向かって機関銃掃射が始まり、犬姉がRPG-7をぶっ放した。

「こりゃ、ヘタな魔法は使えないね。巻き込んじゃうから……」

 私が苦笑すると、到着したM2からバラバラと人が降りてきて、いきなり迫撃砲を直射した。

「……うぇ、派手すぎる」

 私は笑った。

「おい、フォーメーションはアレだ。かかれ!!」

 M2から降りてきた人たちがそこら中に散って銃撃を加え、犬姉が私の手を引いて安全圏に待避した。

「こりゃ、前代未聞だね。敵対国家まで仲良しだよ。変な島!!」

 犬姉が笑った。

「そうだね、アシド・ワームの弱点は氷なんだけど、ビスコッティの得意技なんだよね。どっかで作業中みたいだし、私がやるしかないかな」

「なにもしなくても、野郎どもに任せておけばいいよ」

 犬姉は小さく笑った。

「任せておけって、かなり大変そうなんだけど……」

「そうだね。アシド・ワームはしぶといからね。あっ、増えた……」

 いきなり四体目のアシド・ワーム。が出現し、上空を飛ぶ戦闘ヘリからミサイルが叩き込まれたが、あまり効いた様子はなかった。

「こうなると、やるしかないか……」

 私は腰に差した拳銃を手に取り、フルコックした。

「それがいいよ。私も一発かますか」

 犬姉が無反動砲を構え、いきなり引き金を引いた。

 飛んだ砲弾が一体に大穴を開けたが、すぐに塞がってしまった。

 私は拳銃をホルスタに戻し、静かに呪文を唱えた。

「……去れ」

 私が放った炎の乱流が当たり一面を焼き、焦げ臭いニオイが充満した。

 その間に、集まった皆がバカスカ様々な武器で攻撃を継続していると、履帯の軋む音が聞こえて四両のT-80戦車がモッサリ現れた。

 さらにレオパルトⅡまで現れ、森の中をゆっくりと走って陣形を整え始めた。

「ねぇ、今時戦車に焼夷弾なんて積まないよね?」

 私が聞くと犬姉が苦笑した。

「今はAPDFDSか多目的榴弾しか積まないよ。まあ、榴弾でどうかなって感じじゃない」

 犬姉が耳を手で押さえ、私も同じようにした時、凄まじい発砲音が連続して巻き起こり、上空のヘリが四機に増えたところで機関銃の掃射が始まった。

 さらに、取り囲んだ戦車隊が一斉に同軸機銃で攻撃を開始し、辺りは凄まじい音に包まれた。

 戦車の射撃が止むと同時に、潜んでいた皆さんが一斉に突撃を開始し、さらに追加で飛んできた戦闘ヘリが空中で待機した。

「こりゃどうにかなるかな。アシド・ワーム四体でしょ。タフだから一体倒すのにも大変だよ」

 私は胸にそっと手を当てた。

「まあ、連中に任せて置くしかないね。またなんかきたし」

 犬姉の声に私が戦場をみると、大型トラックに分乗した皆さんが一斉に銃撃を加えながら陣地を構築し、重機関銃でバカスカ撃ち始めた。

 そのうち一体の体が千切れ飛び、さらにガンガン到着してきたトラックから皆様が飛び下り、もはやマジな戦場と化した。

「今のうちに待避、いくよ」

「うん」

 犬姉に手を引っ張られ、私は小型軍用車の助手席に座った。

 犬姉はエンジンを掛け、無線のボタンを押した。

「グッドラック」

 小さく笑みを浮かべ、勢いよく車を出した。


 家に戻ると、玄関前でシートを広げ、芋ジャージオジサンがせっせと手汲みポンプでビスコッティとクラクションにお湯を掛けていた。

 クラクションを鳴らして犬姉が車を止め、ツーンとくる化学臭が漂う中で笑った。

「おーい、お疲れさん!!」

「なんで、あんな旧世代の怪物がゴロゴロしてるんですか!!」

 ビスコッティが笑った。

「全くです。お陰でケロシン塗れですよ」

 クランペットが、シャボン玉をストローで飛ばしながらぼやいた。

「なにしてるの?」

 私が問いかけると、犬姉が笑った。

「バカでかい旧式ミサイルを撃ったから、燃料をちっと被って掃除中だよ。悲惨な世代だからねぇ」

 犬姉が笑った。

「そりゃ大変だね。手伝う!!」

 私はビスコッティとクランペットの体を、スポンジでガシガシ擦った。

「こりゃニオうね。まだ掛かるかな……」

「もう三回目だ。引火の心配はない。これで終わりだ」

 芋ジャージオジサンが手汲みポンプをガチャガチャやりながら、小さく笑みを浮かべた。

「バ○でも入れてみようか」

 犬姉が手汲みポンプの先にある、ドラム缶になにかを放り込んだ。

「うむ、いい考えだ。俺なら、腐った玉子でもぶち込んで温泉気分を味わうがな」

 芋ジャージオジサンが爆笑した。

「うん、それなら……」

 私は空間に窓を開け、強烈な熱と光とニオイを放つ、魔法薬の原料をドラム缶にぶち込んだ。

 瞬間、ドラム缶がいきなり膨張し、吹き上がった強烈なニオイの熱湯が辺り一面飛び散った。

「うむ、面白いな」

 素早く折りたたみ傘を開いた芋ジャージオジサンがニヤッと笑ったが、私はそれどころじゃなかった。

「ぎゃあ!?」

 私はその辺り地面を転がり、なぜか犬姉がクランペットをぶん殴る姿がみえたが、そんなのどうでもよかった。

「こら、なになに遊んでるの。あっちで戦闘、こっちで水遊び?」

 カップラーメンを啜りながら、リズが歩いてきて呟いた。

「あれ、珍しい原料だね。どこで採ったの?」

 やはりカップラーメンを啜りながら、リズの後を続いてきてたパトラが、ドラム缶の中をのぞき込んで呟いた。

「こら、パトラ。それはいいから治療。ったく、魔法薬となるとすぐこれだ」

 リズが笑って、呪文を唱えた。

 私たちを結解が青く包み、パトラの呪文がしばらく続いた。

 青い結解壁から氷の結晶のようなものが降ってきて、痛んだか熱いんだかわからない感覚が収まってきた。

 しばらくして結解が消えると、体に特に異変はなかった。

「はい、こっちはこれでよし。次はビスコッティとクランペットだね」

「あーあ、こっちはモロだねぇ」

 地面でバタバタしているビスコッティとクランペットに、パトラが回復魔法を使った。

「なかなかいたずらっ子だね。あれって、買うと高いよ。どこで入手したの?」

「うん、カリーナの購買で買ったんだよ。魔法薬でもやってみるかって。そしたら、やたら熱いキノコがあったから、とりあえず買ったんだけど、つい箱ごと投げ込んじゃったよ。あれなんなの?」

 私は笑った。

「あれね、超がつくほどレアな魔法薬を精製する時に使うんだよ。滅多に入荷しないんだけど、ちゃんと回収しないともったいないよ」

 犬姉が笑みを浮かべた時、何事もなかったかのようにパトラがドラム缶の底から素手で光る変なキノコを回収し、金属のようなもので作られた箱に収めてどこかに歩いていった。

「こら、パクるな。それ高いぞ!!」

 リズがパトラの頭にRPG-7を撃った。

 パトラの頭に着弾したロケット弾は爆発したが、パトラは何事もなかったかのように、車の運転席に座った。

「……あれ、不発じゃないよね。変なヤツ」

 リズはRPG-7を放り投げ、車の運転席からパトラを引きずり降ろして地面に正座させた。

「ったく、それ返しなさい!!」

 リズの声に、パトラが首を横に振った。

「ダメ!!」

「……」

 パトラが箱を大事そうに抱えて、小さく首を横に振った。

「はいはい、そんな事だろうと思って、回収しておきましたよ。あっちは光ってるだけでの別種のキノコです」

 どうやら復活したクランペットが、私に箱を渡した。

「……ん」

 箱の中には、一枚の紙が入っていた。

『お宝は頂いたぜ~ 匿名希望』

「……うん、盗まれたね」

「ええ、いつの間に!?」

 クランペットが頭を抱えた。

「師匠、何するんですか!!」

 素っ裸で私に近寄ってきたビスコットティが、私に平手を撃った……が避けた。

「あっ……」

「よ、避けちゃダメです。なんで避けるんですか。もっと練習しないと」

 ビスコッティがクシャミをして、私の頭にゲンコツを落とした。

「……うん、避けちゃっちゃた。ハエが止まるようなフックだったから」

「……はい、ごめんなさい。精進します」

 私とビスコッティが笑みを浮かべた。

「うむ、では俺は盗んだヤツをシュートしてくる。ちょっと待ってろ」

 芋ジャージオジサンはピンクのモップを手に取り、それに跨がった。

「……飛べ」

 芋ジャージオジサンが長い呪文を唱え、モップに跨がって飛んでいった。

「いやー、楽しいね。そういえば、明日料理が好きな中等科のメンバーがくるらしいよ。イタ……なんだったか。まあ、いいや。同好会を越えて部活にまでしちゃった、凄まじく元気な子だよ。リズが手を焼くほどだからね!!」

 犬姉が笑った。

「へぇ、それは楽しみだね。それにしても、ビスコッティもクランペットもいつまで裸なんだろ?」

 私は夜空を見上げたのだった。

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